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九泉万緑 ‐常夏世界の底でまた会いましょう‐  作者: ガリガリワン
第一章 復活編

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第三話 屍を統べる魔族の王


 リフルはペルポネに魅了されている。

 凍塵とうじんという伝説的知名度を誇る悪名、

 それは彼女の人生を彩るには十分なもの。


 屍悦洞しえつどうという大洞窟はアンデッドが蔓延る魔境、リフルであろうと真っ向からの勝負はせず、策を講じてから戦いに臨むだろう。


 しかし、どうだろうか。

 眼前にて大量の冷気を纏いし空色の髪を持つペルポネは、その気が全くないように見える。


 この短い期間の中でも、リフルはある程度ペルポネの性格というのを理解し始めていた。


 一見無愛想だが情に溢れる彼女は、

 敵対する者には徹底的に冷たく接する。

 己が利益と思うような存在としか会話はせず、

 物事なども慎重に進める性格だった。


 それなのに──


「いるのだろう、アンデッドの烏合共。

 陰気溢れるこの洞窟は今から余のものだ!」


 ペルポネは楽しそうにもその言葉を合図に、地面を踏み込んでは前へと飛び込み、周囲の暗闇から一気にアンデッドの群れが現れた。


 アンデッドの本体は火球のような姿、

 それらが生物の死体に宿って寄生し、

 死者を操って動くのである。


 骸骨に腐った死体、様々な形で死を表現する者らがペルポネの身体へと手を伸ばす。


(ペルポネ様は史上最悪の魔族であって、史上初めて魔法発動の短縮を可能にしたお方……今の魔法使いたちよりも発動は遅いですけど、それでもペルポネ様ならすぐ追い越せるっ……)


 リフルは胸の前で両手をギュッと握り、

 息を呑んで目を輝かせてペルポネを見る。


(だって──カッコいい(誰よりも強い)んですから……)


 リフルが目の当たりにした光景。それは接近してくるアンデッドらを一体ずつ手で頭に触れ、一瞬にして凍結させているペルポネの姿。


「どうした。この程度か?

 貧弱なものだなアンデッドとやらは」


 それの呼応するようにアンデッドらの動きが活発化した。リフルはその戦況の変化に足をモジモジとさせて静観するのみ。


「王を出せ、余を迎えよ!」


 ペルポネは右足を自身の頭まで上げ、驚異的な身体の柔らかさを見せながらも、勢いつけて地面を一気に踏み鳴らす。


「ペルポネ様ヒラヒラしたお洋服なのにっ!」

(ズルいズルいっ! 絶対見えたもん!!)


 リフルの反応を気にすることなく、ペルポネは右足を中心にして地面に魔力を流し、辺り一体を真っ青な氷で覆い尽くした。


「……兵どもは消えたぞ。のう、王よ」


 ペルポネは目が慣れたのか、薄暗くも奥に見える大きな石門の先を凝視する。彼女の魔眼まがんに映る情報は、門の先に王がいると示していた。


「流石ですペルポネ様!

 このまま王もぶっ倒しちゃ──」


 リフルはウキウキとしてペルポネに近づいた瞬間、彼女は手から氷の剣を作り出し、自身らに放たれた太い骨を弾くに至る。


(はえ……ぜ、全然気が付かなかった)

「リフル、辺りを明るく出来るか?」

「え、あ、はいっ!」

(明るく……? 光属性ってことですよね!)


 すると、リフルは両腕を上に向けては魔法陣を足元に浮かび上がらせ、一言発する。


「大明陽!」


 両手から放たれる大きな光の球、

 キラキラと輝くそれは、洞窟内を照らす。


「あぁ、これで勝ちやすくなった。

 ので、余の後ろでリフルは休んでいろ」

「はい! しっかり休みます!」


 リフルは笑顔で頷き、ペルポネは氷の剣をくるくると手で回しながら逆手持ちにする。


「アンデッドの王よ。先の礼を返す」


 ペルポネはそんなことを言いながら氷の剣を手から離し、逆手持ちから変えて切先を石門の方へと向けると、それを思い切り投げた。


 魔力を付与して加速させた氷の剣は空気を切り裂き、門を越えて奥の石造りの建物に直撃。


 ペルポネは無表情にも立ち尽くしていると、

 手をピクッとさせて右腕を氷で纏わせ、

 急接近してきた者の蹴りを右腕で防ぐ。


「初めましてェッ! 俺がアンデッドの王!」

「そうか、足を退けてはくれないか?

 些か不愉快だ。不潔であろう?」

「ゲッ、差別主義者だったのかよ。

 俺、そういうのオ”ッ”エ”〜〜」


 ペルポネは右腕を振って距離を離すと、

 アンデッドの王を名乗る者の名を聞く。


「貴様、名は何という?」

「俺の名かい? 俺ァ、アレナトだ」


 アレナト。アンデッドの王として膨大な魔力を有し、身体を使った近接戦を好む王魔だ。


(やっぱり強そうだなぁ……ペルポネ様は負けないと思うけど、策なしで勝つのかな……?)


「ではアレナト、今すぐに王を降り、

 余の配下となれ。これは命令──」

「やなこった」


 ペルポネは咄嗟に左手を腹部の前に出すと、

 アレナトの豪速の蹴りが手に直撃する。


「テメェなんか大昔の時代遅れ魔族。

 今の時代に居場所なんてねェ〜んだよ!

 甘すぎるんじゃねェか? 史上最悪さんよ」


 リフルは衝撃を抑えながらも吹き飛んでは、洞窟の壁に叩きつけられたペルポネを見て息を呑み、思わず動きそうになるが不動を貫く。


 アレナトはリフルを脅威だとは思わずに、ペルポネへの追撃を行うべく動き始める。


 流石は近接戦を好み王魔になった魔族。

 ただ走るだけでも高速であった。


 * * *


 一方、ペルポネは痛がる様子も見せずに息を吐いて壁から抜け出し、地面に着地──と、同時に、アレナトの拳が眼前に迫る。


「なんだなんだァ!? 意外に弱いなァ!」

「なにせ身体をバラバラにされたからな」

 拳による連打をペルポネは壁に挟まれながらも防ぎ、その表情に焦りは伺えない。


「そりゃァお気の毒にィ!

 ほぉらっお待たせッしましたァッ!」

 しかし、アレナトは渾身の一撃でペルポネの凍りついた腕を破壊し、腹部に強烈な一撃を打ち込むに至った。


「ぐっ……」

(強いな。完全に余が近接では負けている)

 リフルは吐血するペルポネを見て足が震え、

 今にでも助けたくなるが、動きはしない。


「へへ、テメェ、硬いな」

 ニヤニヤとするアレナト。

「あぁ、丈夫に出来ていてな」

 口元の血を服で拭うペルポネ、

 破壊された腕をゆっくりと再生する。


「俺ァせっかちだから次の猛攻で殺すぜ?」

 アレナトは拳をポキポキと鳴らした。

「……所詮、貴様などどうでもいい」

 うんざりしたように彼を睨むペルポネ。


「……!」

 すると、アレナトの笑みが崩れた。


「恨むんじゃないぞ。なにせ貴様は、

 今から何も出来ずに死ぬのだから──“神化しんか”」

 ペルポネの右目の魔眼まがんが一瞬光る。


 そうして、一気に辺りへ充満するのは冷気。

 この世界で味わうことの出来ない冬の寒さ。


 アレナトが驚いたように見るペルポネの姿は、髪の末端が白く変色しては輝き、手足が凍りついては、右目から涙のように流れた氷の線が出来上がったのだ。


「テメ、なんだよっそれ……種族なんだよ!」

 アレナトは焦ったようにそう聞くと──


「そうか、知らぬか。いや貴様が知るわけもないか、余の種族は“魔神族まじんぞく”だ。余を敬え凡夫」

 ペルポネは言葉を残して姿を消し、

 アレナトは周囲へと視線を向け始める。


 体術面では劣っているペルポネ、こうして力を解放した今でも、アレナトの速度に対して彼女はやや劣る。しかし、彼は彼女のことを視界に入れることができなかった。


「なっ!」

 魔法とは基本的に、無から何かを作るもの、

 それ故に操作性はかなり悪いのが現状だ。


 だが、ペルポネの魔法はその枠に囚われない。彼女の魔法は圧倒的規格外、怪物である。


 リフルは思わず口を開けて驚いた。


「所詮ッ小細工!」

 アレナトの周囲を高速で駆け回るペルポネは、大量の氷柱を空中に生成し、それを放つ。


「小細工だったら、良かったな──凍変」

 大量の氷柱を全て叩き落とそうとするアレナトだったが、その氷柱は突如地面に刺さる。


「ッ!? な、なんだこれ閉じ込めたつもりかよ! 俺はアンデッドの王だッナメるなァ!」

 アレナトは自身を中心に全方位に向けて拳から魔力を放ち、周囲を囲う氷柱の塀のような物を全て砕いてしまった。


「すごい……これが……」

 リフルは瞬きを忘れるほど戦いに夢中となって、ペルポネの規格外さに魅了されていた。


 ペルポネは九千年前と違い、一度敗北を経験した身、未だ発展途上の成長性を秘めている。


 弱体化していようと経験や知識は消えない。


「《《余は魔族の神だ》》。終焉手法しゅうえんしゅほう──」


 魔法学において太古から存在する奥義。

 極めし者のみが扱う終焉手法。


 それは一撃必殺となる性質を秘めている。


「終焉の凍気とうき


 アレナトが上を見上げると、

 指をこちらに向けるペルポネが見え、

 全てを察して声も出すことが出来なかった。


「ぁッ……」


 そんな精一杯の声が、彼の生涯最期の音。


 ペルポネが地面に足をつけた頃には、アレナトは口を開けた状態で完全に凍っていた。自然に溶け出すこともない絶対零度に近い冷気。


「……リフル、少し頼る」

「え? あえ?」

 ペルポネは髪の色が元に戻り、身体中の氷が溶けて地面へと倒れる。


「ペルポネ様っ! 魔力枯渇ですか!?」

 リフルは倒れるペルポネに駆け寄った。

「……不便なものだ。九千年ぶりの本気は疲れる。結局、あやつも殺してしまった。これでは損したのは余の方だな……」

 不満足そうに話すペルポネ、リフルはそんな彼女の頭を自身の膝の上に乗せるのであった。


「いいですよ……王魔おうまなんてまだいますから」

「……嬉しそうだな」

「ペルポネ様の本気が見れて光栄です!」

「そうか……」


 そうして、アンデッドが支配する屍悦洞しえつどうは、

 呆気なくペルポネによって滅ぼされた。

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