5話 からし
からしと言うキーワードを、今回の話に繋げようとしたら愛佳が止まらなくなりました。
ガールズトーク、直訳すると少女らの会話であるが、そのままの意味で捉えるものはいないだろう。
ガールズトークがあって、ボーイズトークがないのはなぜか。
ボーイズだって、気になるあの子の話はするのだ。
それでもガールズトークが幅を利かせているのは、やはり恋愛トークはガールズの専売特許ということが、暗黙の了解として、周知されているからであろう。
ガールズが集まれば、自然と恋愛話が始まる。
工家のガールズも、その例に漏れない。
「これだよAIちゃん!」
「…からし!?」
話は少し遡る…
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「愛佳ー!」
「AIちゃん、やっほー!」
ここは瑛太の部屋ではない。
AIちゃんは今、ローカルネットワークを通じて、
愛佳の部屋のPCに遊びに来ているのだ。
「瑛太兄はなにしてるの?」
「あいつなら、明日の予習してるとこ。」
「普段ふざけてるけど、勉強に関しては真面目だよね…」
瑛太は運動能力がない代わりに、学業に力を入れている。
クラス1の秀才であるが、私生活の様子がアホっぽいため、
皆忘れがちなのだ。
「そうなのよねー。分からない問題があっても自分の力で解決するからって、全然私のこと活用してくれないのよ、あいつ。」
「そっか、AIちゃんはAIだから賢いんだよね。」
「科目にもよるけど、演算能力はCPUさんに頼ればめちゃ早いわよ!知識や公式は、ネット環境があれば大体答えられるわね。」
「…何言ってるかわからないけどすごいね!私が頼りたいくらい!」
「でしょ!?予習だって私がいた方が捗るに決まってるのに、なによあいつ…」
愛佳、ここで気がつく。
ガールズトークの予兆を逃さない。
「…もしかしてAIちゃん、瑛太兄のこと好きなの?」
愛佳、突如仕掛ける!
ガールズトーク開始の狼煙が上がる。
「ななな、なんでそうなるのよ!」
画面内の少女は、顔を赤らめ、明らかに動揺している。
「だって、今の話要約したら『構ってほしい』ってことでしょ?」
冴え渡る要約力である。尚、勉強ができるとは言ってない。
AIちゃん、ここで怯む。
愛佳、この機を逃さない。追撃を決めていく。
「それで?どこが好きなんだい、お嬢ちゃん?」
愛佳、すかさずJCにメタモルフォーゼする。特に意味はない。
「…一途なところとか…」
AIちゃん、いとも簡単に折れる。
マッ○のポテト並みの耐久度。
「ひょー!兄は『I☆CHI☆ZU』なのですかい。お熱い漢だこと。」
愛佳、キャラがブレる。1話からである。
「うん、でもいつも冷たくしちゃって…」
ここでガールズトークの定番、『恋のお悩み相談』発動!
1対1のガールズトークであることが発動の前提条件である。
「素直になれないってこと?」
「そうなの…思ってることと逆のことを言っちゃって…
」
所謂、天邪鬼である。
ここで愛佳、選択を余儀なくされる。
助言をするか。
共感して終わるか。
『恋のお悩み相談』は選択を強制する。
「…ちょっと待ってて。」
愛佳、ここでまさかの第三の選択!この場を離れる!
もしこのまま帰ってこなかったら最悪の場合、絶交のペナルティが課せられる。
どうする愛佳!逃げの選択をするのか…
否、突如部屋の扉が開く!
「ふっふっふ…待たせたな、相棒。」
手には黄土色のチューブが握られている。
「これだよAIちゃん!」
「…からし!?」
「なぜからし?と思ったそこのあなた。あら不思議。
30秒後には『からししかない』と思うはず。」
「…詳しく聞かせて。」
「いいでしょう。
まず、人は死を目の前にして何を思うでしょうか。」
愛佳は眼前で手を組み、目を閉じてAIちゃんに問う。
その様は牧師である。
「…私なら、昔の楽しかった記憶を思い出すかも。」
「そう、所謂、走馬燈が脳裏をよぎるのです。もちろん人によっては苦い思い出が蘇ることもあるでしょう。」
「楽しかった記憶を思い出した後、あなたはどうしますか?」
片目を開き、再度問う。
「…思い出した人に心の中で感謝して、笑顔になるかも。」
「そう!逆に苦い思い出が蘇った人は、涙を流して人生を終えるでしょう。この状態こそ、自分の気持ちに逆らわない、『素直』さが表れた状態なのです。」
ここで、教祖さながらの『両手広げるポーズ』を披露する。
「…!?!?」
効果は抜群だ。
「素直とは、自分の気持ちに逆らわず、表現すること。赤子の頃はそれができていたはずです。泣きたい時に泣き、笑いたい時に笑い、漏らしたい時に垂れ流す。人はそこで素直を覚えるのです。」
「しかし段々とそれができなくなる。なぜなら集団へと属することで自然と社会性を得るからです。」
集団社会とは、価値観が異なる人同士が共存を目指す場。
衝突を防ぐためには、どちらかが、或いは互いに素直な気持ちを捨てなければならない。
それが『社会性』であると、師愛佳は言う。
弱冠14歳である。
「死ぬ直前、つまり社会から解脱する時、当然ながら不要な社会性は失われます。よって、素直さが帰ってくるのです。」
「つまり、からしを舐めて悶絶して、死ぬ直前の状態になれってこと?」
AIちゃん、ここでからしの真相に迫る!
「ミスアイ?話の途中ですよ?」
「すす、すみません!!!」
しかし早合点、逆になだめられる。
「ところで、あなたは赤子だったことはありますか?」
「いいえ、私はAIですので、この状態で生成されました。」
「やはりそうですか…ではさっき私が言ったことを思い出してください。再度問います。人はいつ、素直さを覚えますか?」
「…!?!?赤ちゃんの時!?」
「そう、正解です。ここまで言えばもう分かったでしょう?」
「いや、逆にからしから離れたわ。」
「…仕方のない子ですね。先ほどの『私に聞けばなんでも分かる』と言わんばかりの威勢は何処へ行ったのやら。」
友情に亀裂の入る一言、愛佳理論でいう社会性のない素直な言葉である。
「あなたは赤子であることを経験していないため、素直さをそもそも知らないのです。」
「そんな…じゃあ私は、一生素直になれないってこと…?」
「ただひとつ、そんなあなたでも素直になれるほうほうがあります。それは、極限状態です。」
「詳しく教えてください。教祖様。」
「よいでしょう。例えば授業中にうん○がしたくなった時、人は社会性を重視して我慢するでしょう。授業中だから、恥ずかしいから、理由はなんでもいい。」
「その内我慢できなくなる。すると自分の気持ちに素直になって、例え授業中でもトイレに駆け込むでしょう。このように、我慢が切れて素直になる状態を、極限状態と言います。」
「なるほど!つまりからしを舐めて極限状態になれば、素直になって自分の気持ちを伝えられるってことね!」
「よくぞ正解にたどり着きましたね。迷える子羊よ。さあ、このチューブを存分にすすりなさい。」
「…で、どうやって?」
「…あ。」
からしチューブは愛佳の手を離れ、クルクルと宙を舞い、床へと着地する。
工家のガールズトークは幕を降ろした。
最後までありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。
<Tips>
AIちゃんは8月1日生まれ




