4話 工愛佳は今日も疑心暗鬼
4話は瑛太の妹、愛佳ちゃんの話です!
愛佳ちゃんは面白くて個人的に好きです!
孤独とは必ずしも"負"ではない。
1人でいることに切なさを感じる者もいれば、
大勢でいることに億劫な者もいる。
どちらが正しいとか言うことでもない。
人は望むように生きれば良いのだ。
そう、好き嫌いの話に過ぎない。
工 愛佳においては、孤独は嫌いに分類される。
◇◆
工 愛佳は妹だ。
高校1年生の兄を持つ、中学2年生の女の子。
訳あって両親は大抵家にいない。つまり二人暮らしをしている。
工 愛佳は疑っていた。
最近、兄の挙動がおかしい。何かを隠している気がする。
例えば、この前の日曜日の晩御飯の時…
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「瑛太兄、なんで最近部屋に鍵かけてるのかなー?」
「え…とと年頃の男ですから、プライベートを守りたいと言いますか…」
「へー、いつも部屋で何してるのかなー?」
「プライバシーです。」
「もしかして…彼女と電話してるとか?」
「…ち、ちゃうわ!かかか彼女とかおらんしー?」
「…ふーん。」
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あれはフェイクだ。
動揺したフリをして、『あ、この人彼女いるって隠したいのね。』と思い込ませる巧妙な切り返しだ。
愛佳は疑い深い。
この程度のフェイクにはかからない。
疑わしきはこのエピソードだけではない。
・最近エッチな本を買わなくなった
・代わりにUSBやDVD-ROMなどを購入している
・帰宅後部屋に直行する
・部屋に鍵をかけている(回想済み)
・部屋からたまに『愛してる』と聞こえる
・部屋の掃除を拒む
・鼻毛を抜いて、床に落とす
これらの条件を総合的に考慮して、考えられる結論は1つ。
愛佳のイメージはこうだ。
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「お、新作エロゲーだ!買ってしまうでごさるぞ。」
「もう拙者エッティな本は卒業したでござるよ。」
「これからはエロティックゲームの時代なり。」
○最近エッチな本を買わなくなった
○代わりにUSBやDVD-ROMなどを購入している
「帰宅!そして部屋に直行ううう!」
「おーっと、愛佳にシコティッシュフォールドな子猫ちゃん達は、見せられないよ!鍵をロックううう!」
○帰宅後部屋に直行する
○部屋に鍵をかけている
「ハァハァ…全員俺の嫁だ。ごめん、愛してる。」
「瑛太兄ー。掃除はー?」
「あ、大丈夫です。」
○部屋からたまに『愛してる』と聞こえる
○部屋の掃除を拒む
「瑛太兄、そこの醤油取って。」
「いいよ。(鼻毛そわそわするな。)」
○鼻毛を抜いて、床に落とす
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非常にマズい。
狂信的なエロゲー信者と化している。
エロゲーが悪いとは言わない。
問題はそこでは無いのだ。
愛佳の望み。
それは兄に一緒にいてほしいと言う願い。
ブラコンという訳では無い。
孤独が嫌いなのだ。
冒頭にもあるが、両親は大抵家にいない。
それは最近に限ったことではない。
昔、まだ自分の年をぎりぎり片方の手で数えられる頃。
愛佳はいつも不思議に思っていた。
なぜ、父と母は家にいないのか。
迎えがいないため、園には預けられなかった。
週に4回、父方の叔母が世話をしに来るが、
最低限、身の回りの世話をしにくるだけ。
叔母は社交的な方ではない。
瑛太が小学生に上がってからは、さらに孤独の時間が増えた。
時間の経過とは不思議なもので、自然と叔母の足も遠のいていった。
1人でいるということは、1人で考える時間が長くなる。
もちろんそれ自体悪いことではない。
だが、幼い少女はいろいろ考えてしまうのだ。
このまま誰も帰ってこなかったらどうしよう…
このまま1人で死んじゃったらどうしよう…
そういった状況下で、瑛太は愛佳にとって心の支えだった。
友人もいるだろうに、真っ先に家に帰り、共に過ごしてくれた。
愛佳が小学生になり、孤独な時間は減った。
幼少の反動で、友達をとにかく作った。
昼は級友、夜は兄、孤独な時間は徐々に減っていった。
はずなのに…
「瑛太兄をおっ○い丸出しの女にとられてたまるか!」
今日はクラス委員で遅くなるとか言っていた。
部屋に入るチャンスは今しかない!
こうして、『兄奪還作戦』は幕を開けた。
「総員、突入!!」
因まなくても、1人だ。
勢いよく扉を開ける。ターゲットはこの部屋に潜伏しているに違いない。
「ふむ、使用済燃料は転がっていないようだな。」
少し安心する。
「ベッドの裏は、心の裏側なり!」
ベッドの裏は、ベッドの裏である。
尚、目当てのものはない。
「ふぬう。表裏のない、良き兄上であったか。」
「ふふふ…カーペットの下、お前の下心を剥き出しにしてやるよ!!」
もちろんなにもない。
「ハァハァ、やり手か。」
ここで愛佳、突然!この部屋の変化に気づく!
「外付けHDDだと…?」
そう、以前はこのような大容量記憶媒体は、この部屋に存在していなかったはずだ。
ここから導き出される真実は一つ!
「ダウンロード派…だ…と…!?」
巧妙な男だ…潜伏者など見つからないに決まっている。
なぜなら、敵は厚く重いパッケージなど疾うに脱ぎ捨て、
新たなHDDへと飛び立つ、一匹の蝶なのだから。
しかし、流れはこちらにあるのだ。
奴はスクリーンセーバーさんを甘く見た。
「阿呆な男よ。ふーん、とりあえずこの『AIちゃんの部屋♡.exe -ショートカット』でもダブルでクリクリしてやろうかのぉ…」
もはやJCの皮を被ったJCである。
さっきの同情エピソードはなんだったのだろうか。
「わっちに見つかりんしたのが運の尽きじゃけぇ。さあ、ヒラリヒラリと舞い踊るように姿見せんかあ!」
クリクリッ
「…ほぅ。」
金髪のアゲハ蝶が、床で足を広げて寝ている。
言うまでもないがAIちゃんである。
「…ちょっとくらい遊んでみてもいいよね…。」
そう、これは欲求は欲求でも、崇高なる好奇心である。
社会経験とも言う。
愛佳はそっとマウスカーソルを移動させる。
カーソルの先端はたわわなOPの上に移動する。
手が震える。マウスを握る手は、じっとりと汗ばんでいる。
そして、静かに右指を押し込む。
クリッ
「あっ」
「…やーらしか。」
すでに目の色が変わっていた。
喜びとしてのイエロー、憂いを帯びたブルーなどではない。
世の果てに似ている漆黒の瞳だ。
カーソルは迅速に下方へ移動する。
ある箇所でピタッと止まる。
カーソルの先端は進行方向にまっすぐ進む。
そして…
「ん…ふわぁぁ…って、くすぐったいくすぐったい!!」
足の裏を高速でくすぐる愛佳!
中学生はそういうことは知らないのだ!
「あはは!はは!ちょっと!やめ…やめんかコラ!愛佳!」
「へ?私の名前?」
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こうして愛佳に、新しい家族ができた。
孤独の影は静かに引いていく。
◇◆
「瑛太兄、なんで最近部屋に鍵かけてるのかなー?」
「え…とと年頃の男ですから…プライベートを守りたいと言いますか…」
「へー、いつも部屋で何してるのかなー?」
「プライバシーです。」
「もしかして…彼女と電話してるとか?」
「…ち、ちゃうわ!かかか彼女とかおらんしー?」
「ってこれ!前やった奴ー!」
「…ふーん。ふふっ。」
「なに笑ってんだお前?俺そんな面白い?やっぱ?」
「なーいしょ!」
尚、瑛太が2人が出会っていたことを知るのは、もう少し先の話である。
最後までお付き合い頂き、ありがとうございます。
次回もよろしくお願いします!
<Tips>
AIちゃんは近接系を選びがち




