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AIちゃんは今日も難攻不落  作者: 物語紬
3/6

3話 人吉花蓮は今日も明朗快活

上手いことを言おうとして、ダジャレみたいなのばっかになっている気がします。

 朝の光が窓から差し込む午前7時40分。

 慌しく制服に着替えるのは、瑛太の日常であり、今日に限った事ではない。


「AIちゃーん、今日の天気は?」


 登校用の黒いリュックを背負いながら、ディスプレイに向かって問いかける。


「見ての通り、晴れよ。」


 そっけない態度、これもまた日常である。

 無論、内心ではあたふたしていることだろう。


「そか!そんじゃいってくるー!」


「待ちなさい、宿題鞄に入れ忘れてるわよ!」

 見事なフォローである。AIちゃんは優秀なAIなのだ。


「うわ!忘れるところだった。ありがとう、自慢のAIちゃん!」


「それほどでもあるわよ。ドャァ」

 このAIに謙遜の心はプログラムされていないようだ。


「それじゃ、今度こそ行って来まーす!」

 ガチャン


「はーい。」

「…あ、よく見たら午後から雨だった…」

 優秀なAIでもたまにはミスもするのだ。


 ---


 瑛太の家は、商店街のすぐそばにある。

 学校までの登校ルートに、商店街の縦断はかかせない。

 なぜなら…


「おはよう瑛ちゃん。焼きたてのクロワッサン持ってきな。」

「瑛太、漬物もってけ!」

「コロッケ」

「ハンバーグ」

「牛乳」

「生卵」


 商店街の住民は、近所の子供を甘やかしがちなのだ。

 多少取り合わせは良くないが、瑛太の昼御飯はいつもこんな感じだ。


「瑛太ーおはよ!」

 この声は、商店街のサービス精神旺盛な店主達のものではない。

 今日の主役、人吉花蓮の声である。


「おう、花蓮もお昼ご飯調達できたか?」


「あほ!あんたみたいに何でもかんでも貰わないわよ。」

 そういいつつも、手には揚げたてのドーナツがしっかりと握られている。


「お前、今日の朝ごはんモンブランだったろ?」


「なんで分かったの!?まさか、盗撮…」


「口にクリームついてるぞ。」

 花蓮は慌てて口を擦る。手の甲には、確かに栗色のクリームがちょこんと付着している。


「てへっ。」

 ペロッとベロを出し、そのまま甘いクリームを舐める。


 花蓮の家は、商店街のケーキ屋さん。

 売れ残りのケーキは、翌日の朝食、お弁当のデザート、帰宅後のおやつになるというスイーツ生活が確約されている。


 女子の夢が詰まった日常を、産まれながらに手にした豪運の持ち主である。


「ところでお前、昨日の宿題やって来た?」


「あー!あれね、全く分かんなかったから見せて欲しいなー…えへへ。」

 どうやら頭もスイーツのようだ。


「はいはい、だと思ったよー。」


「いつもどもどもです。」

 他愛もない無い会話をしながら、商店街を抜ける。


 一緒に登校しているからと行って、付き合っていると言う訳ではない。

 2人は幼馴染であり、家も近いので、結果として小中高の10年間、毎朝一緒に登校しているだけだ。


 そう、特別なことなどない、日常のワンシーンなのである。


 ◇◆


 キュッ


 体育館シューズの摩擦音は館外にまで鳴り響く。

 ワックスが定期的にかけられた床は、人の像が写し出されそうなほどに光沢している。


 今日の体育は男女混合のバスケットボール。

 緑のゼッケンを着た瑛太は、体育館の壁に腰をかけ、試合を眺めている。


「瑛太ー、補欠かー。」


「おーう、知也か。ベンチウォーマーといって欲しいな。」

 彼は加賀知也。瑛太の親友である。

 試合をしているのは、黄色と緑のゼッケン。

 赤いゼッケンの知也は、休憩チームのようだ。


「床温めてどーすんだ。お前は相変わらず運動音痴だよな。」


「人には向き不向きがある。おれは緑ゼッケンの分析役もとい、幻の補欠(ブレイン)なのさ。」


「ベンチウォーマーじゃねえのかよ。」

 ちなみに知也は、的確なツッコミを絶妙なタイミングで入れる、幻の脇役(サポーター)であるが、本人はそのことを知らない。


 ピーッ

「そこまで、試合終了!」

 キャー


 試合終了の合図と共に、黄色い歓声が湧き上がる。

 ブザービートを決めたのだろう。

 歓声の先にいるのは男子ではない、花蓮の姿だ。


「それに比べて、人吉はすごいよな。お前ら幼馴染なんだろ?」

 花蓮は頭がスイーツ女子な代わりに、特技は運動全般といったスポーツ女子でもある。

 1日何個もケーキを食べても太らない理由はここにあった。


「それにあの可愛さ。うちの学校じゃ小倉・能代・人吉といえば美女スリートップだよなあ。一緒のクラスになれて本当によかったわ。」

 さすが幻の脇役(サポーター)、物語の進行を援護する情報が湯水のように溢れ出す。


 黄色いゼッケンを着た花蓮が、座り込んだ2人の元へ寄ってくる。

「見た?あたしの華麗なるブザービート!」


「見た見た!やっぱ人吉はすげえよな!」


「ありがと〜加賀くん。瑛太は見てた?」


「ふっふっふ。この俺、幻の守護神(ゴッドディフェンダー)が出場していなかったこと、幸運に思うがいい。」


「ゴッド…何?」


「ルビ下手くそか。」

「それと異名いくつあんだお前。」

「あとお前が出ても戦力の足しにならんだろ。」

 最後に幻の突っ込み三段活用(スリーポイント)が決まり、知也の勝利で試合(ルビ振り)は幕を閉じた。


 ◇◆


 放課後、いつも聞こえる管楽器の音色を、

 激しい雨音が搔き消す。

 校舎の入り口には途方にくれる生徒が1人。


「天気予報外れたのかなあ。それにしても、みんな備えが良いな。」

 AIちゃんを疑うと言う発想がない。


「あれー?瑛太、傘忘れたの?」

 後ろから花蓮がやってくる。


「ああ、晴れだと思ってたからさ。花蓮は部活休みか?」


「この雨じゃ陸上はできないよねー。残念。それより、入ってく?」


「ああ、頼むよ。」

 2人は寄り添いながら、帰路に就く。

 再三言うが、付き合っているわけではない。

 花蓮が部活休みの日は、2人で帰ることもある。

 日常的なことなのだ。


「そういえばあんた、告白されたんだって?」


「ああ、されたぞ。断ったけどな。」


「なんでよ!滅多にモテないくせに。」


「お前には言ってなかったが、俺には心に決めた人がいるんだ。」


「へぇ!誰?誰?うちの学校?」


「ないしょー」


「えーけち。じゃあどんな人?」

 突然だが、人間と人間の心の距離は、

 生き物のように、常に変化する。

 縮まることもあれば、離れてしまうこともあるだろう。

 些細なコミュニケーションが、

 大きな変化の発端になることは、大いにあることだ。


 そして変化は、非日常を呼ぶ。


「どんな人って…いつも近くにいて…(俺の部屋にいるからな)」


「ほうほう。(仲良い人?もしかして幼馴染とか!なーんてね)」


「甘いものが好きで…(AIちゃんあんまん好きだったよな)」


「なにそれー!他には?(うちケーキ屋だけど…まさかね)」


「そして金髪の美少女!」

 ゴロゴロゴロ

 雷鳴が轟き、都合よく瑛太の発言を打ち消す。


「キャッ、え?今なんて?(…ぱつ?活発?私?)」


 急な雷に少し驚き、瑛太の胸に飛び込む。

 しかしそれよりも先ほどの発言が気になっている様子。


「(てか、瑛太の肩すごい濡れてる…もしかして、私が濡れないように…)」


 人が人を意識した時、普段は気づかない些細なことも、

 良いように捉えてしまう。


 尚、実際は花蓮が飛びついた時に、

 瑛太の身体が傘からはみ出て、雨に濡れただけなのだが、

 そんな事は露知らずだ。


「お?大丈夫か花蓮?」


「うん…大丈夫。(わー!なに意識してるのあたし!相手は瑛太だよ!幼馴染だよ!)」


「そか、よかった。」

 冴えない男の微笑みも、意識フィルターの前ではハリウッド仕様に化ける。


「(ドキドキ)あのね…」

 感情の昂りは、今ピークを迎えようとしている。

 2人の非日常は、新たな日常へと変化してしまうのか…


「瑛太兄ー!傘忘れたでしょ!」


「おう、愛佳か。サンキューな。」

 否、そうは問屋が卸さないのだ。

 後ろから駆けてきた愛佳から傘を受け取ると、花蓮の傘からフェードアウトする。


「あ、うん…。私、急用思い出しちゃった!またね!」

 急用などないが、雨の中を駆けていく花蓮。

 頭の中には、瑛太の微笑みがフェードインしている。


 ◇◆


「ただいまー。」


 ディスプレイには、申し訳なさそうな顔をしたAIちゃんの姿が映っている。


「あの〜なんていうか…」


「びっくりしたよ、雨すごかったなあ。みんな傘持ってきてて備えいいよな本当に。」


「実はその…」

 ここでAIちゃん、ある事に気がつく。


「あんまり濡れてなくない?」


「あー、実は花蓮に途中まで入れてもらってさー。」


「入れてもらってって、あ…相合傘ってこと?」


「あ!アイアイってAIちゃんみたいだね!」


「…雷に打たれればよかったのに。」


「え?」


「ばーか!もう知らない!」


 乙女心は飴細工のように繊細で複雑なのだ。

 今日も瑛太は難攻不落なAIちゃんの心を掴めない。

 これは、日常である。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

次回もぜひお付き合いください!


<Tips>

AIちゃんの身長は、166cm

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