6話 能代 麗華は今日も自己陶酔
三大美女、2人目の登場です。
いきなりだが、読者の皆さんは世界三大夜景をご存知だろうか?
一つはイタリアのナポリ。ポリジポの丘から眺める夜景が素晴らしい。
一つは香港。100万ドルの夜景という言葉を誰しもが耳にする、有名スポットである。
一つは日本の函館。函館山山頂から眺める景色をまだ見てない方は、ぜひ一度足を運んでいただきたい。
他にも三大料理、三大珍味、三大美術館など、世の中にはいたる枠組みの中に、三大〇〇が存在する。
何事にも優劣をつける、人間文化の象徴と言えるだろう。
そのような枠組みは、なにも世界規模である必要はない。
事実、瑛太の属する私立英愛高校にも三大美女なるものが存在する。
1人は1-A 人吉 花蓮。
1年生ながら陸上部のエースとして活躍する彼女であるが、
その容姿においても周囲から高い評価を得ている。
茶色のショートカット、健康的に日焼けしている小麦色の肌、キリッとした目、引き締まった上半身、トラックで鍛えられた長い脚、スポーツ美少女と呼ぶに相応しい様相をしている。
実は1学年にもう1人、三大美女に数えられる生徒がいる。
1-C 能代 麗華である。
雪のような白い肌と、対象的に艶やかな黒髪、くっきりと開いた両目、身長は決して高くないが、頭が小さいため全体的にバランスの良い体系をしている。
非の打ち所がないその様は、美を追求して人為的に製造された人形のようである。
おしとやかで、誰にでも優しい彼女は、一部の男子から女神と認識され、すれ違うたびに合唱されるほどに尊い存在である。
英愛高校の始業は9時であるが、麗華は毎朝決まって7時に登校する。
なぜなら、皆が登校している時間に登校すると、道行く人に合唱をされるからである。
今日も麗華は、朝誰もいない教室で自席に着く。
「次は誰にしようかなー。」
麗華が見ているのは学年全員の顔が載った、集合写真である。夏の林間学校で撮影したものだ。
「はあー。可愛すぎるって肩凝るわー。」
この少女はなにを言っているのだろうと、読者の皆様は驚かれていることだろう。
何を隠そうこの少女、おしとやかなどではない。
自己愛の塊である。
小学生の時、彼女は自分の可愛さに気づいた。
自分以外の女子は皆、3回ぶん殴ったメロンパンのように見えていたという。
中学生の時、3年間でラブレター314通を受領した。
彼女の美貌は、主観的思い込みではなく、客観的事実なのであると認識を改めた。
高校に入り、自分の絶対的な可愛さで学校を支配したいと思うようになった。
「BCDEF組は全員制覇したから、後はA組だけね。さすが私、ギネス記録に認定されるんじゃない?」
彼女が今画策しているのは、人類補完計画ならぬ、人類皆彼氏計画である。
人類皆彼氏計画とは、自身が3年生の時点で全学年の男子を自分の彼氏にするという、壮大なスケールのプロジェクトである。
現在彼女は1学年のうち、BCDEF組との男子全員に告白し、カップルになっている。約100股という偉業を既に成し遂げている。
「何かがっつきがすごいやつばっかりだから、大人しそうなやつがいいわねー。ガリ勉くんにしようかな。」
尚、男子同士は自分が唯一無二の彼氏だと信じ込んでいる。なぜなら、この事実が他の生徒に知れ渡ると、制裁を受けることが目に見えているため、誰にも自慢できないからである。
麗華は付き合ってから特になにもしない。ただ廊下ですれ違った時ニコっとするだけ。それでも男子からすれば、ニコはキスと同等の価値があり、勝手に満足するのだ。
100人彼氏のある麗華は、廊下では常にニコニコである。
「決めた!記念すべきA組の彼氏くん第1号はこいつね!」
指差す先にある顔は、お馴染みの顔だ。
昼休み、自席に同じクラスの下僕を呼びつける。
「ねえねえ、わくくん。」
「どーしたの?麗…能代さん。」
彼の名前は脇役 一朗。麗華の1人目の彼氏である。
入学初日に麗華から告白されたイケメンであるが、その後放置されている。麗華がいなければ青春を謳歌していたであろう生徒の1人だ。尚本人はとても満足している。
「この人の名前ってなんていうか知ってる?」
「ああ、こいつなら工ってやつだよ。能代さんと同じ、クラス委員だと思うけど、委員会であったりしない?」
瑛太はクラス委員長をやっている。一応クラスの皆からは信頼されているのだ。
麗華は副委員長をやっている。因みに委員長は操り人形である。
「…ああそうだったね!ありがとう。」
無論、男の顔もじゃがいも程度にしか見えていないため、覚えていない。
「…こいつになんか用?」
脇役が不安がっている。こういう時麗華にはマニュアル化された対処法がある。
ニコッ
「あっ…麗華ちゃん、こんな所で大胆すぎるよ。」
「麗華って呼ばれるのは恥ずかしいな…」
麗華と呼ばれると他の男が嫉妬するため、呼ばせないようにしている。
「ごごごめん、能代さん。」
ニコッ
「あっ…」
◇◆
ノスタルジックな雰囲気になる、夕暮れ時。
校舎裏に、麗華の姿があった。
「工ってやつ遅いわね。私に呼ばれてあたふたしてるのかしら。」
ターゲットを決めたその日に告白する。
思い立ったが吉日と言うわけではない。
単純に、1日1人ペースで告白しないと間に合わないのだ。
「ごめーん、おまたせ!」
しばらくして瑛太がやってくる。
急いで来たのか、若干息が上がっている。
「で、用事ってなに?委員会関係?」
「違うの、そうじゃなくてね…(このシチュエーションで、告白以外あるわけないじゃん。よっぽど目の前で起きている現象が信じられないのね。)」
麗華は1歩瑛太の前に近づき、特技作り照れ顔を披露する。
「工君のこと、ずっと好きでした。私と付き合ってください!(さあ、早く頷きなさい!失神だけはやめてよね。)」
(この人たしか委員会の人だよね?話したことあったっけな。AIちゃんに早く会いたいんだけど…)
瑛太はたじろぐ。どうこの場を切りぬければいいか考えている。
(ふふふ、ガリ勉童貞君には刺激が強すぎたかしら。)
「あの…(謝って逃げよ。)」
(はい、初彼女おめでとう。しかも初彼女が私なんて、あなたの生涯全ての運を掻き集めても足りないわよ。来世まで新年のおみくじは大凶ね。)
「ごめんなさい!(今日はカレー食べたいなあ。)」
走り去る瑛太、麗華はその場に立ち尽くす。
「え…?ごめんなさい?もしかしてGo men a shy(喜んで!)ってこと?」
無論、そのような英語は無い。
「は?え?どーゆーこと?…いやあああああ!!!」
麗華史の中では驚天動地の出来事であった。
今日この日、麗華の辞書から、<『麗華が振られる』意味:あり得ないこと。亀毛兎角。西から日が出る。>が消えた。
最後までありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。
<Tips>
英愛高校1年生は、美女が多く『奇跡の学年』と呼ばれている。




