踏み出した気持ちを 5
さて、次は博子ってやつのとこなんだが。
母さん同士の知り合いで、息子が代理できました、という形でいく話になってる……はず。
コンコン、とノックをする。が、何も返事がない。
いない、のか?
「あら、桔梗くん。」
背後から声がかかり、振り返るとかすかに見覚えのある顔の女性。
ああ、小さい頃からよくお袋とお茶するおばさんだ。
「こんにちわ、おばさん。これ、母から。」
「あら、わざわざありがとう。今日は休みなの?」
わざわざ有給休暇取った、とはいわない。
「はい、不規則な勤務なんで。」
「大変ねぇ。博子はまだ目を覚まさなくて、来てもらったのに。」
話はやっぱり待合室になったが、さっきとは全く正反対の場所だった。
こちらにもコーヒーを渡し、自分はお茶にした。
「ありがとう。」
「いえ、母から私の代わりに、ちゃんとしてきなさいよ、って言われました。」
そういうと、おばさんははにかみながらコーヒーを一口飲む。
「そうなのよね、私はなかなか周りを見れないから、桔梗くんのお母さんにもよく怒られちゃって。」
「母の場合は周りしか見てないので、たまに困ります。」
と本人不在のために言いたいことをいうと、おばさんは笑った。
「博子ももう少し気をつかえる子だったら。」
ため息をこぼしながら、おばさんはコーヒーを口にする。
知り合いだし、少し踏み込んだ話をしてもいいかな。
「あの、少し聞いてもいいですか?」
「なぁに?桔梗くん。」
「博子さん、神代女子高出身でしたよね。」
お袋の情報に間違いがないかを確認する為にも聞いてみる。
「ええ、そうよ。当時は制服が可愛いからって受験して、受かった時は大騒ぎだったわ。」
「女子高なんて大変だったんじゃないですか。俺は共学だったけど、女子とはなかなか仲良くできなくて。」
仲良くどころか、話すらしてません。
「そうね、あの当時は色々あったわ。」
あー、さすがにさっきみたいには喋ってくれないか。
「あの当時、よくおばさん、お袋のところに来てましたね。」
「あらやだ、知ってたの?」
いや、ブラフです。
「すみません、部屋にいても聞こえたりしてたので。」
「いいのよ。私こそ、頻繁に押し掛けすぎだわ。」
話って意外と出来るもんなんだな。
「心優しい子だと思ってたのに、まさかあんなことするなんて。」
「あの、言いづらいんですが。」
ちょっと踏み込んだ話を振る。
「それって、イジメですか?」
「あらやだ、やっぱり丸聞こえだったのね。」
いえ、勘です。
「そういう噂があったんで、もしかしたらって。」
噂なんて聞いたことないが、弁護士とか来てる話を聞けば、騒ぎにはなったはず。
「そうよね。あの子のお母さん、すごい人だったからね。」
はぁ、と当時の騒ぎを思い出したのか、おばさんはため息をこぼす。
「弁護士つれてきた、なんて聞いたんだけど。」
「噂って怖いわね。そんなに広まってたの?」
「皆、聞いても広めないように、近所の人にはお袋が黙っててほしい、って言ってたみたい。」
お袋、すまん。これくらいの嘘は勘弁して。
「相変わらずね。いつもそれで助けられてるから、申し訳ないわ。」
まさかのお袋の株が急上昇ナウ。
「誰にも言わないので、教えて欲しいんだけど。」
「イジメにあった子のこと、知りたいんだ。」
これまでの情報で今、目覚めない女性はイジメの加害者である可能性が高いはず。
なので、逆に被害者が彼女なんじゃないか、と。
おばさんは少し迷ったようで、考えこんでいる。
「被害者の話はダメですか?」
「いえ、そうじゃないのよ。」
「桔梗くん、本当に大丈夫なの?あの子に関わると、不幸になるのよ?」
「………………覚悟の上です。」
まさかの不幸宣言に一瞬驚いたが、彼女のあの笑顔であっさり塗り替えられた。
「そう、何かあるの?」
「すみません、答えられないです。」
頭を下げてそう告げると、おばさんはあらあらと笑った。
「じゃ、ちょっと待ってね。」




