踏み出した気持ちを 4
周囲を気にしつつ、神代総合病院に着く。
手元にはお見舞い品を持ちながら、事前に聞いていた病室番号を探す。
「"お?代わりに行ってくれるのか?!ちゃんと俺からっていえよ!由依ちゃんの部屋は、"」
「"かあさんもきになってたので、ていさつをおねがいします。ひろこちゃんのおかあさんにつたえておきます。へやは"」
聞き出すまでにちょっと時間かかったので、ちょうど昼御飯をとれた。
病室はかなり奥の方で、ドアが閉まっていて、ノックをする。
「はい。」
ガラガラとスライドしたドアから、疲労で笑顔もない年配の女性が出てきた。
「突然すみません。由依さんの会社のものです。」
「はぁ、毎日来ていただいて申し訳ないのですが、まだ目を覚まさなくて。」
つか毎日きてたのかよ、あいつ。
「すみません、うちの社員が毎日来てたと聞いてなかったので、ご家族の気持ちを考えず、申し訳ありません。」
一応謝罪の上、見舞い品を渡す。母親らしき人はすみません、と受け取ると、
「待合室の方で。」
と病室には入れなかった。
さすがに女性の病室には無理があったか。
待合室に着くと、俺はコーヒーを二つ買い、片方を母親に渡す。
「ありがとうございます。」
「いえ、こちらこそご迷惑おかけします。」
さて、どう切り出そうかな。
「あの子には、いい人ばかりが周りにいるのですね。」
ぼそっと母親が語り始めた。
「はい、由依さんは会社でも優秀で、周りの信頼を厚い方ですよ。」
一ミリも知らないが、とりあえず誉めておく。
「そうですか。高校の時は本当に心配だったんですが、なんとかやってるんですねぇ。」
「高校?」
まさかの相手からのアクションがきた。
「ええ。あの子、神代女子高校に行ってたんですが、当時は色々あって。」
さすがに喋らないか。
「彼女から学生時代の話を聞いたことがあります。」
と話したこともないのに、ブラフをかます。
「そうですか。なら貴方には話しても大丈夫ですね。」
あっさり話が聞けた。
「あの子、同じクラスの子とトラブルがあってから、少し人間不信だったので。」
「それは、イジメか何かですか?」
「ああ、やっぱりあの子、きちんと話せる人がいたんですね。」
まずいな、あんまり踏み込むと勘違いされそうだな。
「あ、いや、生徒同士のトラブルなんて、イジメ位しか思い付かなくて。彼女からは学生時代のトラブル程度しか聞いてなかったので。」
と誤魔化すが、母親はまぁまぁ、と濁された。
「そうですよね、子供同士ですからそう言った話くらい、よくある話ですよね。」
一呼吸おいて、心底安心そうに母親は呟いた。
「今時の子供は、イジメの加害者になるなんて経験済みですよねぇ。」
「……ま、まぁ。」
一瞬、こいつは何を言い出すか、と焦ったが。
イジメに関する、あの吐き気のする夢に、後輩は関わってたんだな。
「大変だったんですね。」
「ええ、そりゃもう。被害者の親が母子家庭で、イジメが発覚してから大騒ぎされて。何でも有名企業の社長秘書で、弁護士つれてうちに来たときは、もう。」
この母親からしたら、娘は加害者ではなく被害者で、自分も大騒ぎされた被害者のつもりなんだろう。
聞き出してる手前、話を合わせるが。
正直、顔面に一発かましてやりたい位に、クソババアだな。
「それはお母さんも大変でしたね。」
「おかげで、こっちは離婚させられたのよ。貧乏暮らしなって大変なのに、今度は娘があの状況じゃねぇ。」
こいつ、気持ち悪いくらいに、自分しか見てないな。
「彼女の病状は深刻なんですか?」
娘、という言葉から話題をそらす。
「時々、呻いたと思ったら点滴が外れるくらい大暴れしたりするのに、一向に目を覚まさなくて。お医者さんも症例がないと。」
夢に閉じ込められる、か。
もしも、俺がみた夢を彼女もみていたら、気分が悪いな。
まさか、痛みとか体験してる、とかないよな?
だとしたら暴れてもがくだろうし。
うっ、気持ち悪いやつを目の前に、嫌な想像した。
「そうですか。また病状とかわかりましたら、ご連絡ください。」
さっさと話を切り上げて、俺は立ち上がった。
また来てくださいね、と見送られたが、
お断りだ、クソババアども!二度とこねぇよ!
書いてても胸くそわるい。




