始まりのインベーション
二人は扉の前に立っている。
その扉は意外なほどに素朴だった。
今いる大きな建物の入り口も、ここよりは豪華だったように思う。
ミーナのおかげで、リュークは難なくバンスの元にたどり着いていた。
最上階。多くの警備兵達がリュークを怪しんだが、ミーナが同伴していては止められるはずもない。
コンコン、
「お父さん、入るわよ」
そう言ってミーナは扉を開ける。
さほど広くない部屋に少ない家具。
リュークが想像していたものとかけ離れた部屋。
部屋に入ってすぐのベッドに一人、横たわる人物がいた。
ミーナがその人物へ駆け寄る。
「お父さん。話してたリュークよ」
リュークもベッドに近づく。
ベッドに寝ているのは、白髪で髭の伸びた老人だった。
老人はミーナの声に、うっすらと目を開ける。
「おぉ、ミーナ……」
そして側に立つリュークに目を向け、じっと見つめる。
リュークは爽やかな笑顔で答える。
「初めまして。リュークと言います」
「……リュークくん……そうか……」
老人はさらに目を細めてリュークを見つめる。
その空気を不思議に感じているミーナに気付き、老人が微笑んだ。
「ミーナ、また外に出ていたのかい?」
「……だって、ここはつまらないの。それに聞いて!あのね、リュークと……」
ミーナは楽しそうにリュークと行った場所やあった出来事を老人に話している。
しばらくして、外が騒がしくなり始めた。
ガチャガチャと鎧の音がなり、怒鳴り声が聞こえる。
「どうしたのかしら……ちょっと様子を見てくる!」
ミーナは一目散に走っていってしまった。
部屋にはリュークと老人だけ。
沈黙が流れる。
互いに見つめあい、先に口を開いたのは老人の方だった。
「ミーナと仲良くしてくれたんだね。ありがとう。あの子は昔からおてんば娘でね。自分が決めたことは譲らないような子なんだよ。でも仲のいい友達ができたみたいで……よかった」
リュークは黙ったまま。
静かに老人を見つめ続ける。
老人はその様子を見て、ふと息を吐くと目を反らした。
「私は君の思っているバンスだよ。仲良くお話しに来たのではないのだろう?」
「ああ」
そう返事をしたリュークの表情は厳しいものだった。静かにバンスを睨み付ける。
「君は、いったい何を背負ってここに来たのかな」
「いったい何があったの!?」
「ミーナ様!危険ですよ!!」
騒ぎは家の外、しかし『シストリアン』内で起こっているようだ。
ミーナが家を出ると兵士達が駆け回り、どの家も全ての窓や扉が閉められ、通行人がいない。
「どうしたの?」
「侵入者ですよ」
一人の兵士が言うには、壁を乗り越えて『シストリアン』に入ってきた者がいるらしい。兵士が問い詰めようとしたところ、その兵士は……斬られた。
「……それは……殺されたと言うことですか?」
「いえ、まだ死んでいません。ただかなりの重症で……危険な状態です。今は意識がありません。途切れる前に聞くと、奴等はすぐに何処かへ行ってしまったらしく、まだ内部にいると考えられます。だからはや……ミーナ様!?」
最後まで聞き終わらずにミーナは治療所に向けて走り出した。
━━その兵士は大丈夫かしら……
「すっかり事が大きくなっています」
「元から大きくせずになんて無理だろ」
「いやぁ、でもさっきのレファムの行動にはビックリするよねー」
ゼナル、レファム、サーベルの三人はリュークと別行動をしていた。
前夜。
四人で一つのテーブルを囲んだ。
ゼナルはサーベルのことを気にしていた。
リュークはもちろん、リールのことしか考えていないレファムはともかく、何故こいつはこの作戦に行くのか?
「楽しそうだからだよ」
そう答えたが、どうも信じられない笑顔が張り付いているように感じた。
リュークのようなものではなく、もっと……人を嘲笑うような笑みが……
考えすぎだろうか。
視線はリュークに集まった。
リュークは笑ってさらり言うには
「バンスの首は俺だけで行く」
ガタンっ
「いくらなんでも危険でしょう!どんな奴かも分からないのに……」
国王の素性や回りの環境などはある程度分かっていた。
しかしバンスは謎の多い男で、ほとんど情報が得られていないのが現状だ。
「ミーナに連れていかせる。たぶんすぐに終わるよ。終わったら国王の首も行くから、三人は先に向かっていて欲しい」
「しかしっ……」
「ゼナル。そっちはお前に任せたぞ」
ゼナルは押し黙ってしまう。
心配で心配で仕方ないが、自分も行っては足手まといになるのは明白だ。
仲のよい振りをして入り込み、さっと首をとってしまうのが楽だろう。
「わかりました」
「おっけーぃ」
「……」
作戦はそれだけ。
皆、次の日の決戦のために眠りについた。
「斬る必要はなかったんじゃないですか」
ゼナルがレファムを睨み付ける。
レファムはそれを馬鹿にするように受け止める。
「犠牲はつきものだろ」
「さっきのは必要なかったと言っているんですよ」
「まぁまぁまぁまぁ、ここで争っても仕方ないっしょ?早く行こうぜぇ」
三人は各々立ち上がり、武器を持って城へ駆け出した。




