20乱れるフィーリング
ミーナ・エン・ドメスト・ト・ルモ
と彼女は名乗った。
それはつまり、不況の原因とも言え、今からリューク達が殺しにいく一人、バンスの娘だと言うことだ。
リュークはゼナルに目配せをする。
ゼナルは小さく頷くと、静かにその場を去った。
「ところで、なんで追われてたんだ?」
ミーナはゼナルがいなくなったことに気が付いていない。
もしかしたら最初から目に入っていなかったのかもしれない。
あえて親のことや家の話題を避け、素朴な質問をする。
「あ、はい。私の家は貿易を行っていて『シストリアン』の中にあるのですが、とても退屈で……周りは着飾る人ばかり、無駄にお金をかけている建物や服が耐えられなくて……外が好きなのです!皆が懸命に生きている場所が好きなのです。だからよく抜け出すのですが、国王様やお城の人はそれを良く思わないみたいで……」
これで裏はとれた。
彼女はバンスの娘で間違いない。
そして追われる理由もわかった。
今のリューク達にさして問題はなさそうだ。
そんなことより。
外が好き?
皆が懸命に生きている場所が好き?
なにもわかっていない。
彼女は何も、わかっていない。
ふつふつと沸き上がる……
怒り?
憎しみ?
悲しみ?
それとも……嫉妬心?
リュークの心に自分でも理解出来ない感情が渦巻く。
じっと自分を見つめるリュークの異変に気付いたのか、ミーナが不安そうになる。
「えっと……あの……」
その様子を見てはっと我に帰る。
「あ、悪い。ぼーっとしてて……」
いつもの笑顔。
笑っていればいいのだ。
「い、いえ!あの、お名前を……」
「俺のことはリュークって呼んでくれればいい」
なぜかミーナに嘘をつくことは躊躇われた。
しかし言った後で後悔した。
怪しまれないだろうか?
しかしミーナはフルネームを言わないリュークを不振に思うどころか、
「リューク……リューク、さん……」
と心に刻むように呟き、幸せそうに微笑む。
それを見ておもむろに、
「呼び捨てでいい」
などと言ってしまった。
「え、でも……いいのですか?」
「ああ」
「……ありがとう、ございます」
「敬語も!」
「……ありがとう、リューク」
そう、彼女は敵の娘。
親しくしておけば後で必ず利用できる時がくる。
今はただリールに報告に行ったゼナルの帰りを待つだけ。
その間に信頼されればいい。
利用するため。
利用するため。
そう自分で言い聞かせる。
「あの、よろしければ……よかったら、この後一緒にいてくれない、かな……」
「……ああ、わかった」
その無邪気な笑顔に、
初めて罪悪感というものを感じた。
あとこれは……なんだろう?
心臓が脈打っていた。
ゼナルはあっという間にリールの元へ着き、状況を報告した。
「そうか……しめたな」
リールの口元がにやっと笑う。
既にリールの頭には作戦を成功させることしかない。
「リュークに彼女と出来る限り親しくなるように伝えろ。あと……」
厳しい顔で付け加える。
「決して情が移らないようにと」




