14母のリアルハート
机を挟んで、リールとリュークは向かい合った。
しばしの沈黙……先に口を開いたのはリュークだった。
「リール…さんだっけ?」
「リールでいい」
「じゃあリール。あんた本当にゼナルを捨てたのか?」
「…………あぁ、そうだよ。ゼナルに聞いてないのか?」
「聞いたよ。聞いたけどさぁ………俺はちょっと違うと思うんだよね」
リールの顔が歪む。
痛いところを突かれたように。
「…………何が」
「あんたゼナルのこと、本当はずっと心配してたんじゃ…」
ダンッッ
「私は!!!」
古びた机が軋む。
突然立ち上がったリールの表情は歪み、目は潤んでいる。
歯をくいしばり俯いて、力が抜けるようにストンと座った。
「……そう、私はゼナルを捨てたんだよ」
か細く呟くように、
思い出すように、
懐かしむように、
悔いるように、
彼女はそう言って話し出した。
発端は、父親がミスをしたのではない。
仲間の一人が裏切ったのだ。
これは流れ者が集まる『リボルト』ではよくあることで、毎度うまいこと逃げ切っていた。
だが、そのときは違った。
父親がはめられた。
証拠はがっちりと握られ、誰かが行かなければならない状況になった。
父親は自分が行くと覚悟を決めていたが、戦力の欠落は大きい。
証拠を消すことや事の後始末などの細かい仕事は父親が行っていたから。
かといって仲間を売るのか。
できない。
自ら行ってくれる人も絶対にいない。
いっそ、自分が行こうか。
だが『リボルト』はどうする?
どうすればいい?
どうすれば……
どうすれば……
「ゼナルを行かせればいいのでは?」
皆が集まる中、静かな中、
ゼナルの兄━━━━レファムが言った。
「あいつはまだ未成年。懲役はなし。拷問程度で済むでしょう。一番丸く収まる手段では?」
「何言ってるんだ……ゼナルは」
「そうしよう」
「それで済むじゃないか!」
「その手があったか」
皆の賛同。
他に手段は無し。
…………ゼナルを行かせるしかなかった。
その後、ゼナルが留守の間に迷い混んできた者がいた。
その者は名が二つ。
特に大した問題にはならなかった。
皆の名が少ない者に対する嫌悪感があらわになっただけで。
そろそろゼナルが帰ってくるだろうという時、父親からの報告が入った。
ゼナルが名を獲られた━━━
絶望的だった。
考えていなかった。
まさかこんなことになるとは。
自分はいい。
ゼナルはどうあってもゼナルだし、何も変わらない。
だが今の状況でゼナルが帰ってきたとして、皆は受け入れられるだろうか?
私も赤の他人ならきっと、とてつもなく嫌悪するだろう。
それは仕方のないこと。
だから皆もきっと……
それなくてもここの奴等は柄が悪い。
一つの目的があるからあつまっているのであって、親密な仲間ではない。
もしかすると私の知らないところで暴行を受けるかもしれない。
怪我をしたら?
それだけならまだいい。でも、
…………殺されたら?
どうすればいい?
………………やるしかない。
「それから私はゼナルを捨てた。私を恨んでほしくて突き落とした。どうにか生き延びてくれたらと思ったけど……まぁこれは綺麗事だ。
皆には適当に誤魔化したさ。元から知らない奴の方が多いくらいだったし、気にする奴なんていなかったよ」
「……ふーん」
やはり思い過ごしではなかった。
リュークが引っ掛かっていたのは、最初のゼナルに対して……無感情に捨てた者への態度ではないように思った。
辛そうに笑い、背もたれに持たれて顔をあげる。
もう少しで涙がこぼれ落ちそうだ。
いくら強くて、威厳があって、勇ましくても
彼女は女性で、母親なんだと思った。
「……あの、」
人が変わったようだ。
威嚇するような威圧感はない。
もしかしたら皆の前では無理をしているのかもしれない。
「私と別れてからのゼナルのことを……聞かせてくれないか?」
それを聞いて笑う。
気にしてくれたのが嬉しかった。
ゼナルは想われている。
そう感じられるのが、嬉しかった。
それからリュークは
ゼナルと過ごした時のこと
母が亡くなってから
家を出てからここまで来た経過
そして今、情報が欲しい事まで全て話した。
リールは聞くのが上手く、ちょくちょく口を出しては隅々まで聞き出した。
「とにかく」
リールが椅子から立ち上がって……頭を下げた。
「ゼナルを……どうもありがとう」
「こっちこそ世話になりっぱなしだよ。ゼナルは兄貴みたいなもんだからな」
「そうか……そうか」
下を向いたまま、嬉しそうに言うのを聞いた。
そして頭を上げた時には、その表情は見られなかった。
「ここからはクライアントとして話を聞こう。いや、同士かな。皆もこの話は聞いてもらわなければならない」
元の威圧的な表情で、ドアを開けた。
「さぁ、未来の話をしよう」




