13隠されたベイス
彼女は信用してくれていないだろう。
だが二人を中へ通した。
暗く細い通路は思ったより長く、緩やかな下り坂で続いていた。
灯りは老人の持つランタンだけ。
その後をリューク、ゼナルの順に続く。
リールは一番裏に着いた。
ゆっくりと暗闇を歩きながらふと、
リュークは先程のリールの行動を不思議に思い返していた。
着いたのは、結構な広さの地下室だ。周りは石で固められていて、隙間に蝋燭立てがまばらに並んで部屋を灯している。
適当に置かれる机や椅子、地べたに数十人…年齢、性別バラバラの人達がこちらを見ていた。その目付きは皆鋭い。
各々が武器を所持していて、中にはどうやって使うのかわからない形状の物もある。
既にリュークとゼナルの手には抜き身の剣が握られている。
その横をリールが悠々と通りすぎる。
二人の正面の机に座っていた二、三人がさっと退き、そこへ優雅に座り、足を組む。
「ようこそ、『リボルト』へ」
まったく歓迎していない様子で言った。
二人を除いて、ここにいる全員がリールをリーダーと認識しているようだ。
だが慕っているのか、素直に従っているのかはわからない。
そんな空気だった。
「さぁ、用件を聞こうか」
リュークの表情から笑みは消えない。
「俺はリューク。『ディス』だ。頼みは…」
その瞬間、何人かは立ち上がり、また何人かは少し腰をあげて武器をとった。
それをリールが手をあげて制止する。
リュークを睨み付けたまましぶしぶといったように剣を収めた。
しかし数人はまだ武器を持って構えている。
それに対抗してゼナルが剣を持ち上げる。
重い空気の中、そいつらが一歩にじりよった時だった。
リューク達の一番近くにいた巨漢の男の首に刃がかけられた。
男は少し驚いたようだが、すぐさま不機嫌な顔になる。
首にかかった刃物は長く、ゆるい曲線を描いている。
まるで鎌のようだが、大きさは比ではない。
巨漢の男の後ろでその鎌を持った男が低く呟いた。
「母が、止めたろ?」
母━━━━━━ということはゼナルの兄か。
男の一言で、立つ者はいなくなった。
巨漢の男もその場にどさっと座り、あぐらを組む。かなり不服そうな顔だが。
皆が座ったことで、ゼナルの兄だけが目にはいった。
黒っぽい大きな鎌を片手で扱っているが、細身な体だ。リールと同じ明るい茶色の髪は、全体的に右側へ流されている。
金色の瞳が、リュークではなくゼナルを見下すように睨んでいた。
なんの戸惑いも見せず、ゼナルは剣を構えたままだ。
しかしそれ以上何も言わず、後ろへ下がって壁にもたれる。
リールはその様子を一瞥もしなかった。
嫌そうな顔でリュークを見たままだ。
「ほぅ……ディスが何の用だ。物乞いでもしに来たか?」
くすくすと笑いが聞こえる。
心底馬鹿にしているようだ。
「報酬は国?よくもまぁ」
女の声。
「ちょっと強がっちゃっただけだよなぁ?」
男の声。
ゼナルが限界だった。
二本の短剣を逆手に持って低く構える。
今にも斬りかかりそうな様子を見てまた、がちゃがちゃと武器の鳴る音が聞こえる。
一気に緊迫した空気になった。
「おい、待てって。ほんと、気の短い奴が多いよなぁー、もっと余裕持っていこうぜ」
なんとこの空気に会わない発言なのか。
不愉快そうな視線が集まる中、リールに向かって笑いかける。
「この不況をどうにかしたいんだよね。欲しいのは情報。場合によっては戦力も」
しーん……とした空気に、笑いが起こった。
リールも笑っている。
「あはは、お前本気か?バカな奴だ。お前がどうにかできる問題ではない」
「そうかぁ?でもお前らに出来ないなら、俺がやるしかないだろう?」
空気が張りつめる。
多くの者が立ち上がって武器をとる。
リールも制止しなかった。
それどころか好戦的なようで、胸ポケットに手を入れる。
「貴様……この状況わかってるんだろうな。私はいつでもお前を殺せるんだぞ」
「殺れるもんなら殺ってみろよ?」
一斉に、椅子を蹴飛ばし机を乗り越え、皆が武器を振るった。
つまらなさそうに座ったまま、それを眺めている者もいる。ゼナルの兄も同じだ。
だがその目は大きく見開かれた。
一人が天井すれすれをふっ飛んできて、机やらを倒しながら……気絶した。
そして次々と倒され、殴られ、飛ばされていく。何が起こっているのか。
リールも驚き、目を凝らす。
「凄いことになってんなぁー、後で飛んでったやつに謝らなくちゃなー」
「…………!?」
「おーい、ゼナル。そこら辺で止めとけ」
リールは立ち上がり、胸ポケットから銃を取り出して眉間に突きつけた。
いつの間にか隣にリュークがいたのだ。
かかっていった奴はじりじりと後退りし、その真ん中には既に短剣をしまったゼナルが立っていた。
その回りに何人かが倒れているが、血は流れていない。
「お前はやりすぎなんだよ」
「元凶はリュークじゃないですか」
悠長な会話におかしくなりそうだ。
「……クソっ」
誰が、こんな奴らが強いと思うだろうか。
一人は恐ろしい勢いで急所を突きまくっていたし、『ディス』の奴は大勢に囲まれた中からあっさり抜け出した。
改めて見ると、ゼナルの立つ場所からここまで一直線に人が立っていない。数人が倒れているだけだ。
「おぉ……それ銃か。よく手に入ったな」
子供が新しいおもちゃを見るように目を輝かせて、珍しい銃に魅入っているリューク。
リールは警戒を解かない。
しかし正直、気が抜けていた。
変な奴……
『ディス』だと思えば恐ろしく強い。
強いかと思えばなんて危機感の感じられない。
この笑顔は余裕か、お気楽なのか……それとも何か背負っているのか……
そんなことを考える自分にも呆れてしまって、リールは銃をしまった。
「リューク。気が変わった。話を聞くがその前に……二人で話がしたい」
しかしここにいるのは皆、かなり腕が立つ奴等で、プライドもある。
納得がいかない者の方が多い。
「どういうつもりだ?」
「そいつは敵だ」
「いつも言っているだろう私に異論がある奴は、出ていって構わない」
人を見る目。
リールの人を見る目に関しては自信を持っていたし、他の皆も認めていた。
それがこの『リボルト』を大きくしたと言っても過言ではないかもしれない。
だから引く気は、なかった。
それからほとんどがゼナルから離れて座り、数人が出ていった。
「おい、あいつらいいのか?」
数人が出ていった方を指さして言うが、スルーされた。
リールに着いていくと先程まで暗くて認識できなかったが、ゼナルの兄が立つ壁に扉がついていた。
中には机が一つと椅子が数個、壁には幾つもの様々な種類の武器。小さな個室だ。
リールが先に入り、立ち止まった。
「ゼナルは……いいか」
リュークは少し驚き、少しして微笑んだ。
「あぁ、大丈夫だ。二人がいいんだろ?それに……あいつは強い。心配なんか無用だ」
「……そうか」
そう言って振り返らずに中へ入るリールに続いた。




