↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
砕けた愛  作者: 篠月珪霞


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/30

21.不可欠─シリウス視点

「やけにあっさり引き下がったじゃないですか」


シドの顔には、不信と疑問がありありと浮かんでいる。普段は分かりやすく表情に出すことのない男が。これまでかけた時間と労力を考えると、無理もないか。


エヴリーヌの答えは『否』。エドガーやキャロラインと相談の素振りもなく、また彼女の決定に何の異も唱えることなく。そこにあるのは、絶対的な信頼なのだろう。


「言いたいことは分かるが、私はこれ以上彼らに手を出す気はないよ」

「わざわざ自らあんな小国に足を運んでまで、調べてたのにですか?」


シドの指摘通り、シリウスが現地に赴く必要などなかった。調査結果を待てばいいのだから。

簡単に行ける距離ではないというのもある。帝国最速の船でも5日はかかる上に、海路は必ずしも安全な道行きでもない。


「俺はてっきり、彼女を皇太子妃にでも迎えるのかと思ってましたよ」

「…殿下が女性に興味を持たれるのは、初めてでしたしね」


肩を竦めるシドと同意見らしいエリン。まあそう勘繰られても仕方ない。


「そうだな。直に会うまで、その考えがなかったわけではないが…」

「何です? 会って期待外れだったからってわけじゃないんでしょう?」

「お前にしては珍しく買っているな」


時に軽薄な態度で人に接するが、その実、シドほど警戒心の強い人間もそうはいない。人に対する評価も甘くないどころか、社交辞令でさえ称賛など聞いたことがない。身内の間なら尚更。

それでも社交界をそつなく渡っていっているのは、人のあしらい方に秀でているからだ。


「──大抵の人間は子供には油断するし、警戒しててもどこかで気が緩むものです。普通はね。でもあの家族、まったく揺らぐことがなかったんですよ。それも、自然体で。俺の正体見抜かれたのも初めてでしたし。

あとは、俺の豹変にも、泣き落としにも全然崩れなかったことでしょうか。動揺させることさえできませんでした。どんな教育受けたらああなるんですかね」


何があっても波立たない湖面のようで、下手な王族より読みにくいとシドは零している。


「確かに、彼女なら皇族の妃も務まるだろうな」

「でしたら」

「適性や器量の問題ではない」


本当に、どんな環境でどんな経験をしたら、彼女のような人間になるのか。短い邂逅ではあったが、その短い間でも窺い知れた。彼女、エヴリーヌは、家族以外には心を許さないだろうことが。他者を、そうと分からないように、だが完璧に拒絶していた。

自分の意に染まぬことを強要されようものなら、潔く死を選ぶような意志の強い目。

誰にも、何者にも屈しない誇り高さ。


惜しいと思わなくもない。

打算や損得で動くようなら、話しは簡単だった。そういった類の人間は、契約さえ交わしてしまえば、ある程度の働きが期待できる。エヴリーヌたちが当て嵌まらないことは、話す前から分かりきっていたことであるが。


シリウスの、帝国皇族の婚約者と聞いても、困惑はあれど、利用しようとする野心は欠片もなかった。それは、地位や権力に興味がなく、同時に屈しないということも意味している。


そして何よりも障害だと感じたのは、信頼を築くことが難しいという点だ。易々と人を信じるのは論外にしても、こちら側に引き込むならば、最低でもそれは不可欠だ。

でなければ、いつまでもお互いが探り合いになる。


「それに、気の進まない者に強制したところで、反感や不満を持たせるだけだ」

「ま、そっちの方が面倒ではありますね」


反感や不満は、目に見えないからこそ厄介だ。

有能な者であるほど、綺麗に内心を押し隠し、ここぞというときに裏切る。機を見計らい、最もこちらの痛手になることを、実行するのだ。

完全な味方になることがないのならば、敵対しないことが肝要である。そのために、相手の望まないことを強いるのは、愚策に他ならない。

シドもよくよくそのことを理解しているので、反論はしない。


「では、このまま諦める方向で?」

「そのつもりだ。これ以上は、労多くして益なしなのは目に見えている。潮時だな」

「エヴリーヌだけじゃなくて、エドガーやキャロラインも優秀な人材なだけに、もったいないですねえ」

「──シド」


側近のいかにも残念そうな口振りに、ここはきっちり釘を刺しておいた方がよさそうだと、シリウスは思った。


「何を考えてるかは追及しないが、やめておけ。あの中の誰か1人でも利用しようとしたら、一斉に牙を剥いてくるぞ」


そもそも利用しようとする前に気付かれそうではあるが。


「りょうかーい」

「……シド」

「ちゃんと分かってますって。彼女たちがいようがいまいが、俺らのやることは変わらないんですし」

「その通りだ」


ディールの国王を罷免するだけの材料は既に手にある。

できれば、エヴリーヌたちのように、国や民を思う人間に統治を任せたかったが、それは単にシリウス側の事情である。


──元アストレイ公爵領を視察したときに、改めて思ったのだ。

国民ひとりひとりが生き生きと働き、幸せを日々実感できるような、そんな国にしたいと。

シリウスの目指す先が、完成形が、そこにはあったから。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。