↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
砕けた愛  作者: 篠月珪霞


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/30

18.窮鳥

馬車止めでは、インフリックが待っていた。


「お待ちしておりました」

「久しいな。元気そうで何より」

「もったいないお言葉です」


エドガーと挨拶を交わしたインフリックは恭しく頭を下げる。最後に見たときは、灰褐色の長い髪を1つに束ねていたが、短くしたらしい。印象がそれだけで随分変わる。

取り敢えず、隣町ダンツィで一泊し、ブラント付近まで蒸気機関車に乗る手筈となっている。馬車よりも格段に移動時間が短縮されるからと、既に手配済みとのこと。

さすが仕事が早い。


出国するときと同じく、数人で分かれ、馬車に乗り込もうとしたときだ。

どこからともなく現れた子供が、勢いよくエドガーにぶつかった。


「旦那様っ!」

「…たすけて!!」


護衛とインフリックの叫びに、子供の必死な声が被さった。

その声にいち早く動いたのは、護衛たち。

さっと辺りを見回し、不審者の確認をする。町の喧騒は変わらずだが、護衛たちは追手の気配はないと首を横に振る。

子供は、震えて父にしがみついて離れずで。


「このままここにいても埒が明きませんし、馬車の中で詳しい話を聞きませんか?」

「そうだな」


エヴリーヌの提案にエドガーが頷く。


「君の名前は?」

「…シド」







「私たちは今日この国に着いたばかりで、事情が分からない。話しては、くれるのかな?」

「おじさんたちが、この国の人じゃないのはすぐにわかった。だ(・)か(・)ら(・)だよ」

「…どういうこと?」


馬車の中は、エヴリーヌと父母、侍従のエルマー、護衛のテイラー、シドと名乗った子供の6人が乗っている。予め、広めの馬車を手配してくれたインフリックに感謝だ。

追手の懸念もあり、移動しながら話を聞きだすことに。


「警備は、全部じゃないけど、悪い奴らの仲間だから」

「それはまた」


買収されているのか、仲間が警備に入り込んだのか定かではないが、どこの国でもあるのだなと。

犯罪と悪人というものは、どうしてこうも尽きることがないのか、永遠の課題かもしれない。

シドの言葉を信じるのならば、警備は当てにならないということ。むしろ通報したら、シドにも危険が及ぶだろう。


「それで、何故助けを必要としている? 君の保護者はどうしている?」

「俺の父ちゃんも母ちゃんももういない。殺されたんだ」

「殺された?」

「…うん。俺たち、何もしてないのに…」

「それは、いつ頃のこと?」

「えっと…一昨日の夜だったと思う」


追ってくる人間の目的は分からないが、それからずっと逃げ回っていたという。当時を思い出したのか、シドが涙ぐむ。

状況を鑑みるに、可能性が高いのは人身売買だろうか。帝国でも重罪のはずだが。


インフリックを通じて、港で別れたヴィクターにも改めてこの町を調べるよう連絡はしている。他国に諜報部員を忍ばせているのは基本だ。

追加情報を後で送らなければ、背後関係は掴みにくいだろう。真偽も合わせて、調査の必要がある。

予定通り、ダンツィの宿に向かい、その後の対策を練ることにした。


港町キルシュは、ディール国の中でも最も栄えている。帝国の流通はすべて、この港を介しているからというのが大きい。

そのキルシュでの犯罪、それも警備自体が侵食されているのであれば、見過ごすことはできない。小さな綻びは、小さなうちに塞がなければ。


「ダンツィまで追ってくるか分からないが、テイラー」

「はい」

「シドを頼む」

「かしこまりました」

「エルマーは着いたら、これをフリックに送ってくれ」

「承りました」


フリックはインフリックの通り名である。レイア商会ではこちらの名を使っているらしい。


「他に話しておかねばならないことはあるか?」

「俺にも何が何だか分からないから…」

「それもそうか」

「でも、おじさんたちは俺のこと信じてくれたみたいだし」

「別に、君のことを信じたわけではない」


エドガーの言葉に、シドは衝撃を受けた顔をする。


「さっきも言っただろう? 私たちはこの国に着いたばかりだと。君の話をすべて鵜呑みにできるわけがない」


シドにとっては、エドガーは藁にも縋る思いで掴んだ先だったかもしれないが、初対面の子供を信じるほど、私たちは人間というものを信じていない。

子供を餌や囮に使った犯罪も、少なくないのだから。


「じゃあ何で、馬車に乗せてまで話聞こうとしたんだよ!? 俺を助けてくれるんじゃないのか?!」

「誰が、君を助けると言った?」


エドガーの顔も声も、冷徹で冷酷な公爵家当主のものだった。感情に流されず、状況を冷静に見極めようとする。


「だって、だって…」

「私たちは、被るかもしれない火の粉を払おうとしているだけだ。決して、君を助けようとしているわけではない」

「そんな…」


シドは泣き出す寸前の顔で、当てが外れたような、途方に暮れた顔をしている。

助けを求めても、必ずしも救いの手が伸ばされるとは限らない。

エドガーの言葉は非情と言えるかもしれないが、ここは生国の自領ではない。飛び込んできただけの窮鳥を、助けなければならない義務も義理もない。

ただ、見捨てる気もないけれど。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。