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#96 終戦

 ランペイジバスの撃退依頼が始まって2日目の夕方頃。


 カスミは港で変わらず炊き出しをしていたが、その意識は海の方へチラチラと向いていた。


 というのも、昼くらいに沢山の冒険者や衛兵、船乗り達を乗せた船が全隻戻ってきて、戦いが終わったのかと思ったカスミだったが、どうやら沖合に途轍もない大きさの怪物が現れたそうで、ビフレストの面々がその対処に当たっていると聞かされた。


 事前に話は聞いていたものの、もしかしたらクリスタがカスミに隠していた強大な魔物は現れないんじゃないか、という淡い希望をカスミは抱いていたが、残念ながら予測通り現れてしまったらしい。


 なのでカスミは、戻ってきた面々に炊き出しを振る舞いつつも、意識はずっと沖合で戦っているであろうビフレストの面々に向いており、既に数時間経過していることもあって、その表情はどんどん浮かないものになってしまう。



「おーい! ビフレストが帰ってきたぞー!」



 すると、海の近くで警戒していた冒険者の一人が、大きな声でそう伝えにきた。


 それを受けたカスミは、誰よりも早く港の方へ駆け出していった。


 それからカスミが船が停まっている海がよく見える場所に辿り着くと、遠目に宙に浮かぶ人影が見えた。


 その人影は5分ほどかけてカスミがいる場所まで近付いてきて、顔が認識できるくらいの距離になったところで、カスミは大きな声で呼びかけていった。



「おかえりなさい、皆さん!」



 そんなカスミのおかえりを受け、手を振ってリアクションしてきたのは、クリスタ、フィオ、アネッタ、ローニャの4人。


 4人とも目立った外傷などはなく、笑顔も浮かべており、そのままゆっくりとカスミの前に降り立っていった。



「ただいま、カスミ」


「おかえりなさい!」



 まず初めにカスミにただいまと返してくれたクリスタに、カスミはぎゅっと抱きついていった。



「怪我はありませんか?」


「ああ、全員無事だよ」


「よかったですっ」



 それからカスミは、フィオ、アネッタ、ローニャにも順番にハグをして、無事でよかったとそれぞれに伝えていった。



「皆、沖合に現れた怪物は私達が討伐した!」


「「「うおおおおおっ!!」」」



 そして、クリスタが大きな声で怪物を討伐したと勝鬨を上げると、周りに集まっていた者達は大きな歓声を上げた。


 だが、お祭り騒ぎは程々に、すぐに元気な者達は船に乗り込んで沖合に出港していった。


 というのも、倒したランペイジバスや怪物は沖合に放置されたままなので、それらを回収する作業がこれから始まるのだ。


 クリスタ達が帰り際に目に付いたランペイジバスは収納魔法などで回収してきたそうだが、まだまだ残っているし、倒した怪物に関しては、大きすぎて収納魔法などでは回収できなかったので、部位別にある程度切断して沖合に浮かせてあるとのこと。


 かなり大変な作業になるが、ビフレストの面々が戦っていた間、冒険者達も船乗り達もしっかり休憩したので、割と皆元気そうだった。


 そのため、今回の戦いにおいて、一番の功労者であるビフレストの面々は帰ってゆっくり休んでくれとのお触れが出たので、カスミ達はそれに甘えることにし、宿に戻っていくのであった。




 *




「皆さん、私は怒っています」



 宿に戻り、シャワーを浴びて少し休んだ後。


 カスミは他のビフレストのメンバーを並んで座らせ、その前に腰に手を当てて立ってムスッとした表情を浮かべていた。



「ムスッとしてても可愛いね〜……」


「座っても目線同じくらいだしな」


「そこ、うるさいですよっ。 ……ごほん。 まず、改めてクリスタさん! 守ろうとしてくれるのは嬉しいですけど、遠ざけるのは違うと思います!」


「ああ、反省してるよ」



 改めて罪を指摘されたクリスタは苦笑しながらカスミに反省の意を示した。

 


「そして他の皆さん! クリスタさんの意向を尊重したということで同罪です! 反省してください!」


「横暴にゃー!」


「私達は反対したよー!」



 クリスタ以外の者達には、クリスタの意向を尊重して結局カスミを遠ざけたということで同罪の判決が下ったが、ローニャとレネが悪ふざけで意義を申し立ててきた。



「逆らう者にはおやつ抜きの刑です!」


「「ごめんなさい(にゃ)!」」



 しかし、胃袋を完全に掴まれているビフレストの面々がカスミに逆らうことはできず、あえなく撃沈した。



「……まぁ、色々言いましたけど、皆さん無事でよかったです」



 とやかく言ったが、カスミは昨日クリスタに言いたいことを大体吐き出していたので、実はもうそんなに怒っておらず、無事に帰ってきたビフレストの面々に柔らかい笑みを向けた。



「カスミ」


「わっ」



 すると、クリスタがカスミの手を取り、膝の上でお姫様抱っこするように抱き上げていった。



「く、クリスタさん?」


「ふふ、なんだか怒られたことで、カスミとの絆が深まった気がして、前よりも愛おしく思うようになった」


「わ、私も、そんな気はします」



 慈愛に満ちた表情でカスミの顔を覗き込んでくるクリスタは、これまで以上にカスミのことをドキドキさせてくる。



「改めて、これからもよろしくな、カスミ」


「は、はいっ」


「私もカスミちゃん抱っこする〜……」


「ローニャもしたいにゃ!」


「私もー!」


「この流れは俺もすべきか?」



 その後、カスミはビフレストの面々に一人ずつ交代で抱っこされ、これまで以上に深まった絆を言葉を交わし合うことでさらに強固なものにしていくのであった。

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