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#95 海上戦

 ランペイジバスの大量発生依頼が始まって2日目の昼頃。



「あそこだー! 撃ち込めー!」



 ――ドォォン! ドォォン!



 ハンソンの街の港から数キロ先の沖合では、バシャバシャと水飛沫を立てながら集まっているランペイジバスに向けて、船から大砲が放たれていた。



「ギャスギャス!」



 そんな中、船目掛けて1匹のランペイジバスが飛び上がってきて、甲板に乗り込んできた。



「一匹行ったぞー!」


「やべっ!」



 ランペイジバスは魚の形はしているが、普通の魚と違って地上でも呼吸はできるので、普通に跳ね回って近くの獲物にその鋭い牙で噛みつこうとする。


 今も大砲の整備をしていて逃げ遅れた者目掛けて飛びかかっていっていた。



「ほいっとにゃ」


 

 ――スパッ



「ギャッ……」



 だが、その牙が届く前に、目にも留まらぬスピードで駆け寄ってきたローニャの短剣によって、ランペイジバスは首元をバッサリ切り裂かれて絶命した。



「大丈夫かにゃー?」


「あ、ああ! 助かった!」



 ローニャは五隻ほど出ている船の一隻に乗り込んで、今みたいに船に飛び込んできたランペイジバスを倒す仕事をしていた。



「Aランクのローニャがいるなんて、心強いよな」


「ああ。 ……ただ、もちろんローニャも凄ぇけど、あっちの3人は別格だよな」



 ローニャの存在もあって、雑談する余裕すらある冒険者達は、戦線の左翼に当たる場所に目を向けていた。


 というのも、例年通りだったらハンソンの街への侵攻路を塞ぐような形で、5隻の船が広めに戦線に広がって防衛をしていたのだが、今回船は5隻とも集まって右翼を抑えていた。


 そして、左翼の方では、ランペイジバスの群れがたった3人の冒険者によって殲滅、撃退されていた。



「おぉらぁっ!!」



 その中の一人であるアネッタは、背中に龍の翼を生やし、海面スレスレを飛行しながら、身の丈ほどあろうかという大剣をランペイジバスが集まる場所に振り降ろしていく。


 すると、まるで隕石でも落っこちたのかと思ってしまうくらい巨大な水飛沫が海面から上がり、それが収まった跡地には、プカーと力なく水面に浮かぶ大量のランペイジバスが残されていた。



「サイクロンエッジ」



 ――ゴォォォォッ!



 そこから少し離れた場所では、風魔法で空を飛ぶクリスタが、巨大な竜巻を発生させる魔法を使い、ランペイジバスを空へ打ち上げ、竜巻の内部に発生している細かい風の刃で大量のランペイジバスを切り裂いていった。



「グラビティ〜……」



 そんなアネッタとクリスタの活躍だけでも十分すぎる程の数のランペイジバスが討伐されているが、極めつけはフィオで、アネッタとクリスタがそれぞれ担当している範囲よりもさらに倍近い超広範囲に、もはや伝説と呼ばれる部類である重力を操る魔法を発動させた。


 しかも、発動するだけにとどまらず、類稀なる魔力操作を駆使して、ランペイジバスのみに重力の影響を与えていく。


 すると、ランペイジバスはその場で重力に耐えかねて全身の骨が砕けたり、星の中心に引っ張られるように沈んでいき、最後は海底の岩礁に体を強くぶつけて絶命した。


 そんなこんなで、たった3人の手によって、かなりの広範囲に渡る戦線が保たれるどころかどんどん押し返しつつあった。



「久々に全力で暴れられていいな!」


「余力は残しておけよ」


「もう疲れた〜…… 」



 そんな多大なる貢献をしている3人は、一度集まったかと思うと、何とも気の抜けた会話を始めた。



「本当にデカいの来んのか?」


「結構近くまで来てる〜…… 海底からどんどん上がってきてるよ〜……」


「気を引き締めないとな」


「そういえばクリスタ、カスミに怒られたんだってな」


「な、何で知ってるんだ……」


「休憩の時にレネに聞いた」


「くっ、あいつめ……」


「だから言ったのに〜…… カスミちゃんはそんな弱くないって〜……」


「クリスタ以外はそう言ってたよな」


「ああ…… 分からされたよ。 カスミは本当に強い子だ」


「帰ったら俺らも怒られるか?」


「まぁ、秘密にすることを承諾したから怒られるかも〜……?」


「けど、結局許して美味いもん食わせてくれるんだろうな」


「ね〜…… 本当に良い子〜……」



 今となってはクリスタだけでなく、フィオもアネッタも、ローニャもレネもカスミが大好きになっていた。


 なので、カスミを進んで怒らせようとは思わないが、怒ってても小動物じみてて可愛いんだろうなと思ってしまう。


 実際、昨日軽く怒られたクリスタは、反省はしつつも、腰に手を当てながらムスッとした表情を浮かべて怒っているカスミのことを可愛いなと思ってしまっていた。



 ――ゴポゴポ……



 そんな風にカスミのことをクリスタ達が想っていたタイミングで、船が集まっている方の海面が不自然に泡立ち始めた。



「おい、なんだあれ?」


「ランペイジバス…… いや、デカくねぇか……!?」



 その泡はどんどん大きくなっていき、終いにはその下に薄らと巨大な影が見え始めた。



「……! 来る〜……! 船の方〜……!」


「よりによって人が集まってる方に行くとは……!」


「ローニャを拾ってくる!」



 一瞬で戦闘モードに切り替わったクリスタ達は、全速力で船が集まる方へと向かった。


 そんな中、海面から見えていた巨大な影は、ザパァァンと海を割りながら海面へと浮上してきた。



「で、デカすぎるだろ……!?」



 冒険者の一人の呟きは、その場にいた者達全員の気持ちを代弁していた。


 その者達の視線の先には、海面から出ているだけでも100メートルはあろうかという、体はイカのような形で、体の左右からは巨大なカニのような腕を生やし、10本以上の長くて太いイカとタコを足して2で割ったような触手を携えた異形の怪物の姿があった。



「プギィィィィィィィィィーー!!」



 その怪物は、甲高い不愉快な鳴き声を上げると、獲物を見つけたと言わんばかりに船の方へと迫ってきた。



「撤退にゃ! 早く船を下げるにゃ!」



 そんなあまりに巨大な怪物に身を竦ませていた冒険者や船乗り達に、ローニャが大きくよく通る声で指示を出した。


 すると、全員ハッとした表情になり、慌てて船乗り達は船を下げるべく舵を取り、他の船に撤退の指示を出す信号弾を上げた。


 冒険者達も、大砲や魔法を使って怪物へ牽制攻撃を仕掛けていく。


 だが、怪物は大砲や魔法に当たろうがびくともせず、最後尾にいた船目掛けて巨大な触手を振り下ろしていった。



「退避っ! 退避ぃぃーっ!?」


「む、無理だ、間に合わねぇ!」



 自分達が乗っている船よりも大きい触手が降ってくる光景は絶望でしかなく、その船に乗っている者達は死を覚悟した。



「おぉぉらぁぁぁっ!!!」



 ――ズバァァァァァっ!!



「プギィィィ!?」



 だが、その触手が船に当たる寸前、小さな人影が横から猛スピードで飛んできたかと思うと、その触手は中程から一太刀で斬り飛ばされた。



「おぉ! 中々強そうじゃねぇか!」



 それをやったのは、獰猛な笑みを浮かべるアネッタだった。


 アネッタはそのまま怪物に斬りかかりたい気持ちもあったが、一旦堪えて船の一隻まで飛んでいくと、そこにいたローニャを迎えにいった。



「ローニャ、行くぞ」


「えー、ローニャはいらにゃいんじゃ……」


「つべこべ言うな」


「にゃ〜……」



 ローニャは自分が巨大な魔物との戦闘には向かないとわかっているので、このまましれっと船に乗って帰ろうと思っていたようだが、結局アネッタに抱え上げられ、戦闘に参加する羽目になった。



「プギッ! プギッ!」


「怒ってる〜……」


「まぁ、あれだけ強大な魔物なら、誰かに害される経験も初めてだろうからな」


「おーい、ローニャ連れてきたぞ」


「うへー、近くで見るとよりデカいにゃー。 絶対ローニャはいらにゃい気がするにゃ」



 触手を斬り飛ばされ、怒り狂う怪物の前に立ち塞がるのは、この世界における最強戦力であるビフレストの面々。



「とりあえず、ローニャはあいつの体をちょろちょろしてろ」


「指示が雑にゃ!」


「ほら、行ってこーい」


「にゃぁぁぁ!? せ、せめてゆっくり降ろせにゃあぁぁ〜〜……!」


「さて、ローニャと俺が気を引いてる内に、デカいの頼むぞ」


「了解〜……」


「ああ」



 こんな時でも緊張感のないやり取りをするビフレストの面々だったが、それも当然で、目の前にいるような強大な魔物を倒すのがSランク冒険者パーティーの仕事なのだ。


 そのため、こんな状況も慣れっこで、簡単な作戦を立てると、それぞれ怒り狂う怪物に対して攻撃を仕掛けていくのであった。

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