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#93 隠し事

「じゃあ、行ってくるな?」


「はい。 お気をつけて」



 朝方、宿の玄関でカスミはクリスタ、フィオ、ローニャ、アネッタのお見送りをしていた。


 というのも、これからその4人は、沖合で大量発生したランペイジバスの討伐依頼をこなしに行くのだ。



「私も留守番がいい〜……」


「大規模戦こそお前がいるべきだろう」


「む〜……」



 そんな中、フィオは心底面倒くさそうにしており、もう何度目か分からない行きたくない宣言をクリスタにあっさりと受け流され、ムスーッとした表情を浮かべていた。


 なんだかんだでフィオがちゃんとした冒険者の依頼を受けているのを初めて見るカスミは、膨れっ面を浮かべているフィオに苦笑しつつ、応援の言葉をかけた。



「レネとガリュウはカスミを頼むぞ」


「はいはーい」


「クルゥ」



 そして、今回はレネとガリュウはカスミと一緒に留守番だ。


 レネもかなりの戦闘力は持っているものの、今回は海上戦なので前衛タンクのレネは行っても結局船の上で留守番することになるので、ならカスミと一緒に留守番してた方が有意義だという話になった。


 ガリュウは今の大きさでもかなりの強さはあるが、殲滅力は無いし、本来の姿で戦わせたら、ランペイジバス以上に周囲の生物を怖がらせて生態系を破壊しなかねないので、レネと同じく留守番だ。



「恐らく夜には一度帰ってくるよ」


「分かりました」



 そんな今回の依頼は長丁場になることが予想されている。


 それほどランペイジバスは数が多いし、なにも全てのランペイジバスが一つの群れをなしているわけではなく、それなりにばらけているので、断続的に現れて船に襲いかかってくるのだ。


 そのため、冒険者達も何陣かに分かれて出撃し、全てを撃退するのには恐らく数日はかかると言われている。


 

「まぁ、万が一もないから、ゆっくりしていてくれ」


「分かりました。 美味しいご飯作って待ってますね」


「それは楽しみだな」



 それから改めて見送りの言葉をカスミがかけると、クリスタ達は笑顔で宿を後にし、港の方へ向かった。


 カスミはそんなクリスタ達の背が見えなくなるまで見送り、ログハウスへと戻ってレネとガリュウと過ごすことにした。



「うーん……」



 それから少し時は経ち、もうすぐ夕方といった時間になったのだが、カスミはソファで足をパタパタさせていた。



「なんか落ち着きないね、カスミちゃん」


「クルー」



 そんな落ち着きのないカスミの隣にレネが腰掛け、ガリュウがパタパタ飛んできて、カスミの膝に猫のように丸まって収まった。

 


「その、今も皆さん戦ってると思うと、なんかのんびりする気分になれなくて……」



 名も知らない冒険者達ならまだしも、同じビフレストの仲間が戦っている時にのんびりするのはカスミの性分的にちょっとできなかった。



「カスミちゃんは優しいねー」


「むにゅ……」



 レネはそう言いながらカスミのほっぺを摘んでむにむにしていく。



「別にクリスタ達からすれば、その辺でちょっと運動するくらいの感覚だけどね」


「ほうでふは……」


「ランペイジバスの大量発生はね。 ……うーん、カスミちゃんには秘密にしててって言われたんだけど、やっぱい言うべきだよねー」


「……?」



 レネはそんな風に思わせぶりな発言をしながら、カスミのほっぺから手を離し、話を続けていく。



「今回のランペイジバス…… というか、これまでもなんだけど、大量発生してこの辺の近くに来るのは、実は奴らにとって脅威になる存在が現れて、それから逃げてくるからなんだって」


「えっ……?」


「ランペイジバスは群れを成すと危険度はBランクくらいあるから、そんなランペイジバスが逃げ出す存在ともなると、危険度はAランクかそれ以上…… そんな存在が、どうやら今年はかなりこの街に近い場所まで来る見込みなんだ」


「それって、危ないですよね……?」


「うん。 でも、街の人達はそれを知らない。 フィオが個人的に調べて判明したことだからね」


「ど、どうするんですか?」


「そいつが現れそうになったタイミングで、他の冒険者達や衛兵達を逃して、クリスタ達が迎撃するよ。 多分、現場にいる人達には伝えてると思う」


「あ、危ないじゃないですかっ。 そんな危険度の高い存在と戦うなんて……」


「そういう存在と戦うのが、私達Sランク冒険者パーティーなんだよ」


「そ、それはそうかもしれないですけど……」



 危険はないと聞かされていたカスミだったので、危険度の高い存在と戦いに行ったというクリスタ達を心配する気持ちが膨れ上がってしまう。

 


「あーん、ごめんねカスミちゃん。 でも、クリスタはカスミちゃんをこうして不安な気持ちにさせたくなかったんだよ」


「そう、ですか……」


「でもやっぱり、家族に隠し事はしちゃダメだよねー。 クリスタは過保護だから、ちょっとでも心配かけたくなかったんだろうけど」



 レネはカスミを横から抱きしめながらそんな風に言う。


 それでもやっぱり、カスミ的にはちゃんと隠さずに言って欲しかった。


 クリスタの気持ちは理解できるし、ありがたいことでもあるのだが、危険な場所に行くのを隠されるのは、カスミを守るべき存在としか見てくれていないように思ってしまう。


 カスミはビフレストの面々を対等な家族として思っているのに。



「……レネさん、ちょっと手伝ってくださいっ」


「うん、良いよ! ……あ、戦場行くのはダメだけど」


「戦場で戦えれば一番良かったんですけど…… 私にはそれはできないので、私は私にできる戦いをしますっ」


「おお、かっこいいね、カスミちゃん! 分かった、なんでも手伝うよ!」


「クルゥ!」



 それからカスミは、自分にできる戦いをするべく、動き始めるのであった。

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