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#91 大きなタコでタコ飯を

 ハンソンの街に来てから数日が経った本日。


 カスミはログハウスのテラスに出て、海面に足を入れてちゃぷちゃぷしながらのんびり過ごしていた。


 近頃日中は気温もかなり上がってきて、外で普通に過ごしていたら暑く感じてしまう程だが、今日はちょうど良い風も吹いており、何より足を入れている海の水が冷たくて、なんとも心地いい体験ができていた。


 そんなカスミが海の方へ目を向けると、ちょっと離れたところでバシャバシャと水飛沫が二つ上がっていた。


 その水飛沫達はかなりのスピードで移動をしているのだが、その正体は体を動かしたいと言ってTシャツとショートパンツ姿で海に飛び込んだアネッタと、海に入るのが初めてだというガリュウだった。


 カスミも一緒に泳ごうかと聞かれたが、カスミはそこまで泳ぎが得意なわけでは無いし、何より水着を持ってなかったので、やんわりとお断りした。


 ただ、せっかく海沿いの街に来たわけなので、泳ぎたいという気持ちはある。


 そのため、ランペイジバスの大量発生による騒ぎのほとぼりが冷めたら、他のビフレストのメンバー達と一緒に水着を買って泳ぎたいなと思っていた。


 一応港に近いこの辺りの海は、魔物避けの魔道具や定置網で魚が寄り付かないようにはされているそうだが、ランペイジバスが大量発生する期間はたまにそれを越えて来たりすることもあるそうなので、どちらにせよ今はカスミは海に入れないというのも今カスミが海に入っていない理由の一つではある。


 そんなカスミがしばしのんびりと海風に当たっていると、アネッタとガリュウが戻ってきた。



「クルゥー」


「あ、おかえりなさーい、ガリュウさーん、アネッタさーん」


「おう。 ……ん? なんだ?」



 ただ、テラスから数メートル離れたところにいたアネッタにカスミが大きな声でおかえりと声をかけたタイミングで、アネッタはおもむろに動きを止めると、次の瞬間、目にも留まらぬ拳を自分の足元目掛けて放っていった。


 すると、ドパァンという海面を叩く大きな音と共に、ザパァンと大きな水飛沫が上がり、カスミの方にも細かい飛沫が飛んできた。



「わっ、アネッタさーん、どうしましたかー?」


「なんか足に絡みついてきた。 ……こいつか?」



 そう言ってアネッタが海の中から腕を引き抜くと、そこには力無くぐでぇっとしている生物がいた。



「わぁ、大きいタコですねっ」



 その生物は、カスミからすると見覚えしかないタコだった。


 かなり大きなサイズではあるものの、アネッタの拳で一撃KOされたようで、動きは止まっていた。



「ウネウネしててきもいな。 どっから来たんだ?」


「タコは軟体生物なので、凄い小さな隙間でも通れちゃうんです。 だから、どこかから入ってきちゃったみたいですね。 ちなまに調理したら美味しいですよ」


「そうなのか?」


「はい。 ……あ、でも、勝手に獲って食べたりしてもいいんですかね?」



 カスミの前世では漁業権というものがあり、それで定められた場所では勝手に生物を獲ってはいけないという決まりがある。



「ちょっとホテルの人に聞いてきますね」



 この街にももしかしたらそういうルールがあるかもしれないので、カスミは受付までパタパタと小走りで向かい、ホテルの従業員にタコを捕まえたことを伝えた。


 すると、特に捕まえたりすることは問題無いそうで、むしろタコをみすみす宿の敷地内に侵入させてしまったことを謝られた。


 それに関しては気にしてないと伝え、カスミはログハウスに戻っていった。



「捕まえても問題無いそうです」


「そうか。 ……んで、本当にこれ食えんのか?」


「じゃあ、タコを使った料理を昼食に作りますね」



 タコに馴染みのないアネッタからすると、食べ物には全く見えないようだったが、とりあえずカスミはアネッタにタコをキッチンに運んでもらい、まずは下処理をすることにした。


 アネッタが図らずともパンチで一撃で締めてくれたので、もうピクリとも動かないタコは非常に調理しやすく、内臓などを処理したら氷水で洗い、片栗粉を塗して網目の細かいザルに擦り付けてぬめりを取っていく。



「んしょっ、んしょっ」


「大変そうだな。 俺がやろうか?」


「あ、助かります」



 子供の体で力もあんまりないカスミなので、タコのぬめり取りに苦戦していたところ、見かねたアネッタがその作業を代わってくれた。


 その間にカスミはタコ料理に必要なものを用意しておく。



「こんなもんか?」


「うん、良い感じです」



 そうこうしていると、力自慢のアネッタはぬめり取りの作業をあっという間に終わらせてくれ、カスミはタコを扱いやすいサイズに切り分けていく。


 そして、乾燥昆布からとった出汁にカットしたタコの頭と足の半分を入れ、ボイルすると同時にタコの出汁を取っていく。


 そうしてボイルしている間に、ボイルしていない生の状態のタコを薄切りにしておく。



「なんか赤いな?」


「熱すると色素のバランスが変わって赤くなるんですよね。 出汁もちょっと赤っぽくなります」



 それから鍋の中でボイルされて赤くなっていったタコにしっかりと火が入って出汁が取れたら、タコを取り出して出汁はザルでこしていく。


 そして、出汁に酒、醤油、みりんを少しずつ加えて味を整えたら、炊飯ジャーに入れたライスの上に注ぎ、刻んだ生姜と乾燥昆布を加えて炊飯器で炊き上げていく。


 パーティーハウスから持ってきた炊飯器なので、炊き上げる作業は一瞬で終わり、炊飯器の蓋を開けると、とても良い匂いを放ちながら赤茶色になったライスが姿を現した。


 そうしたら、昆布を取り出し、先程切った生の薄切りにしたタコを加えて混ぜ合わせていく。


 こうすると、ライスの熱でタコに火が入り、とても柔らかい半生のタコが楽しめるのだ。


 もちろん、タコを先に入れて炊いて、しっかり火を通したタコ飯も美味しいので、そこは気分によって変えればいいだろう。


 そうしてしっかり混ぜたタコ飯は余熱でもう少しタコに火を入れるため置いておき、その間にボイルした方のタコの足をぶつ切りにして、わかめと薄切りにしたきゅうりと共に、酢と砂糖を混ぜ合わせて作った甘酢と和えれば、タコの酢の物の完成だ。


 それが完成する頃にはタコ飯も良い感じになってきたので、それぞれ皿に盛り付けて、今日の昼食として実食することとなった。



「ん、美味いな! 弾力あって、魚ともまた違う旨みもあって良い」


「新鮮なタコ美味しいですねぇ」



 まさに獲れたてでよく肥えたタコで作ったタコ飯と酢の物は絶品で、他のメンバー達にこれはタコから作ったんだと言うと、とても驚かれた。


 皆タコという生き物自体は知っていたものの、食べ物という認識は無かったようだ。


 

「他にもカスミからすれば食べ物だけど、捨てられてるものとかもあるかもしれねぇな」


「それはあるかもしれませんね。 次朝市に行ったらちょっと聞いてみます」



 アネッタの言う通り、こちらの世界ではライスがそうだったように、カスミからすれば美味しい食べ物だが、捨てられたり別の用途で使われたりしているものが他にもあると思うので、そういう食材の食べ方も広めていきたいなと密かに思うカスミなのであった。

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