#90 新鮮な刺身でポキ丼を
朝市から帰ってきたカスミは、フィオに強制二度寝に付き合わされたり、起きたらクリスタとローニャとトランプで遊んだりして時間を過ごしていた。
「なんか遊んだりくつろいでばっかりですねぇ」
「カスミは普段から働きすぎだ」
「遊んだりくつろいでるのにソワソワするのは、仕事に取り憑かれてる証拠にゃ。 良くないにゃ」
「そ、そうですかね?」
カスミはいつもこの時間は、パーティーハウスの掃除をしたり、洗濯をしたりしていることが多い。
それをせず、今こうして遊んだりしているのに罪悪感をちょっと抱いてしまうのは、確かに仕事に取り憑かれていると言っても過言ではないかもしれない。
「とりあえずこの街にいる間は、料理以外はしなくていい。 料理も代わってやりたいくらいだが」
「料理は全然体力使いませんし、楽しいから私がやりますっ」
「必死にゃー」
料理まで取られてしまったら本当にダメ人間になってしまうと思ったカスミは、必死に自分がやると宣言した。
この辺の価値観は、前世でも働き過ぎだと言われていた日本人的価値観なのかもしれない。
「そうしたら、そろそろお昼なのでご飯作りますね」
「そうか。 じゃあ、それを食べたらまたこうして遊ぼうな」
「ふふ、分かりました」
色々言いはしたが、カスミもビフレストの面々と遊んだりのんびりする時間は、当然洗濯や掃除をしている時間よりも楽しくて幸せなので、気持ちは切り替えて、ありがたく休暇を楽しませてもらうことにした。
そんなビフレストの面々に喜んでもらうべく、カスミは先程朝市で買ってきた新鮮な魚介を使った昼食を作ることにした。
まずはパーティーハウスから持ってきた炊飯器にといだライスをセットし、使う食材をキッチンに並べていく。
「今日は何作るんだ?」
そうこうしていると、クリスタがカスミの作業を覗きにやってきた。
「今日は前に作った海鮮丼の亜種のようなものを作ります」
「ふむ。 手伝おうか?」
「簡単な料理なのでそんなに作業は無いんですけど…… あ、じゃあ、これをやってもらいたいです」
そう言ってカスミは、黒い皮に覆われた食材を取り出した。
「これはなんだ?」
「これはアボカドですね」
「アボカド? あれは確か緑色じゃなかったか?」
カスミが取り出したのはアボカドで、何度か料理に使ったことはあるものの、皮付きの状態で見るのは初めてなクリスタだった。
そもそもアボカドはこの世界だと不人気も不人気で、ビフレストの面々もカスミが料理に使うまで、名前すら知らなかったほどだ。
「皮はこんな感じなんですよ。 でも、こうして切ると……」
「お、中身は見たことあるな」
そんなアボカドをカスミが真ん中の種に沿ってぐるりと包丁で切り込みを入れ、捻るようにして割ると、クリスタにも見覚えのある黄緑色の身が露わになった。
「種もこんなに大きいんだな」
「種はこうして包丁のお尻で刺してグリってすれば取れます。 あとはこれを四等分くらいに切って、皮を剥けば食べられます」
「なるほどな」
「この作業をお願いしていいですか?」
「ああ、任せろ」
そんなアボカドを食べやすいサイズにする作業はクリスタに任せ、カスミは今日朝市買ってきたマグロとサーモンの切り身を、程よいサイズの四角い形にぶつ切りし、醤油、みりん、ごま油で作った漬けダレに10分ほど漬け込んでおく。
「なんかいつも食べてるものより質が良さそうだな」
「見るからに違いますよね」
そんなマグロとサーモンは、料理にそこまで明るく無いクリスタから見ても、明らかに身の質が良さそうで、やっぱり新鮮さは命だなとカスミは思った。
そうしてマグロとサーモンを漬けている間、鍋で湯を沸かして、こちらも朝市で手に入れた生わかめをカットし、鍋に入れた。
すると、黒かった生わかめは一瞬で鮮やかな緑色になり、そこへ味噌を溶き入れて生わかめの味噌汁を作っていく。
「アボカドはこれぐらいでいいか?」
「はい。 ありがとうございます」
そうこうしていると、クリスタもアボカドの処理を終わらせてくれたので、いい感じに漬けダレが染み込んだマグロとサーモンと一緒にほかほかのライスの上に乗せ、小ネギと炒りごまを散らせば完成だ。
「マグロとサーモンのポキ丼の完成です」
「おお、美味しそうだな」
そんな色鮮やかで見るからに美味しそうなポキ丼を食事テーブルに運び、他のメンバーも呼んで、早速出来立てを口に運んでいく。
「んっ、これは…… 凄いな! 弾力と旨みがこれまで食べたものとは全然違う」
そう感想を漏らしたクリスタの言う通り、新鮮なマグロとサーモンは歯応えがあって、これまで食べてきたものより新鮮さを感じられる旨みをしていた。
というのも、これまで食べてきた魚の刺身は、冷凍処理をされて数日熟成したものばかりで、それはそれで柔らかい食感と濃厚な旨みがあって美味しかった。
ただ、今回のマグロとサーモンは、半日から一日くらいの短期間熟成されたもので、程よい弾力が残っており、こっちもこっちで絶品だった。
「味噌汁も美味しいにゃー」
「生わかめの味噌汁、良いですよね」
そして、そんなポキ丼の横にある生わかめの味噌汁も、脇役にしてはかなりの美味しさに仕上がっていた。
カスミも初めて生わかめの味噌汁を前世で食べた時は、乾燥わかめとの違いに大きく驚いたものだ。
それぐらい生わかめの味噌汁は美味しいので、今回沢山手に入ってカスミとしてはとてもありがたかった。
「そういえば、海を荒らす魔物の依頼も数日後にあるんですよね?」
「ああ。 まぁ、すぐ終わらせて帰ってくるよ」
実は今日の朝の朝市も、カスミからすれば凄い量の魚が売られているように見えたが、ランペイジバスが既に沖合で群れを成しつつあるらしく、危険なのでいつもより船が出せておらず、本当だったら倍くらいの量の魚が並ぶらしい。
「なんならガリュウに暴れさせるか」
「クルゥ?」
「やめておけ。 ガリュウが暴れたら他の魚までいなくなって生態系が壊れる」
アネッタの冗談混じりの提案は、クリスタによって却下された。
「それもそうだな」
「だからガリュウはカスミと留守番だな。 こういう私達が出なきゃいけない時にはガリュウの存在は助かる」
「クルル!」
カスミのことを任されたガリュウは「任せろ」と言わんばかりにやる気に満ち溢れた表情で頷いた。
そんな依頼のことも頭の片隅には置きつつ、ひとまずは目の前の美味しいご飯と休暇を楽しむカスミ達なのであった。
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