#75 美味しいパンをどうぞ
チェアリィのことや後ろ盾になってもらうための話し合いも一段落したところで、カスミは今朝ここに来る前に作ったあるものを収納ポーチから取り出した。
そして、気を利かせたフィオが収納魔法から魔力を流すとテーブルになる手のひらサイズでキューブ状の魔道具を取り出してくれたので、そのテーブルの上にカスミは収納ポーチから取り出したものを並べていく。
「これは…… パンですか?」
「はい、パンですね」
それを見たマリーエルの言う通り、カスミが並べたのは2種類のパンだった。
「良ければこちらのパンから食べてみてください。 ……あ、ナイフとか用意した方がいいですかね」
「カスミ様の想定はどういった食べ方なのでしょう?」
フォルネンがそうカスミに聞いてきた。
「えっと、紙で包んでると思うんですけどそこを手で持ってかぶりつく感じで……」
「では、そのように」
カスミ的には貴族であるフォルネン達に素手でパンを食べさせるのはダメかもと出してから思ったのだが、フォルネン達はなんの疑いも持たず、また毒味などもせずにそのパンを口に運んでいった。
「おお!? な、なんでしょうこれは! 中にとても香り高く味の濃いものが……! とりあえず、美味しいですね!」
すると、まずはイセトがそのパンの中に入っていたものに対して驚きの声を上げた。
「中身もそうですが、外側がカリッとしててとても食べ応えがありますわ」
「そちらはカレーというスープのような料理をパンの中に詰めたカレーパンになります。 表面がカリッとしているのは、粉で衣を付けて油で揚げたからですね」
イセトに続いてマリーエルも驚きと称賛の声を上げ、それに対してカスミはこのパンがカレーパンという食べ物で、その作り方も軽く説明した。
今回用意したこのカレーパンは、泊まっている宿の厨房からパン生地を借りてカスミが作ったものだ。
一応、カスミもある程度パン作りはできるが、必要な材料も時間も足りなかったので、宿の従業員達にお願いした形だ。
そして、その判断は賢明だったようで、パン作りのプロが作ったパン生地はとてもものがよく、油で揚げると外はカリカリ、中はふわふわなとても美味しいパンができた。
そうして揚げたパンの中には、何かに使えるかと思ってちょっと取っておいた、つい先日作ったカレーが入っており、出来の良いパン生地と合わさることでそれはもう満足感のある一品に仕上がっていた。
「カスミ様はこういった料理を広めるのが使命なのですな」
「まだまだ途上というか、始まったばかりなんですけどね」
「このような素晴らしいものならすぐに広まりましょう。 特にこの国にとってパンは切っても切り離せないものですし、すぐに受け入れられると思います」
誰よりもこの国を知るフォルネンにもそう言ってもらえ、カスミはとても安心した。
「では、もう一つの方もどうぞ。 こちらは甘いパンになっています」
そんなカレーパンはあっという間に感触され、それによる感動も収まらない中、カスミはもう一つのパンも食べて欲しいと勧めた。
それに従い、フォルネン達はもう一つのパンの方も口に運んでいった。
「んんっ♡!? な、なんですかこれ……♡! 美味しいですっ♡」
すると、マリーエルが一気に目を輝かせながらそんな風な感想を漏らした。
「そちらもパンの中に別のものを詰めた一品で、今回はカスタードクリームを詰めてあります」
「カスタードクリーム……! とっても濃厚な甘さで、でも決してしつこくは無く、柔らかいパン生地と絶妙にマッチしてて美味しいっ……♡」
マリーエルはそう言いながら、感動した面持ちでカスタードクリームパンを味わっていく。
やはりこの世界の者からすると、カスミが作る甘味はもう別次元の美味しさに感じるようだ。
「確かにこれは素晴らしいです! 私はそこまで甘いものに執着はありませんが、それでもこれなら何個でも食べたくなってしまいますね!」
「この歳になると甘いものは胸焼けしてしまうものですが、こちらの品はそんなことも起きませんね。 子供達にもとても人気が出そうです」
そこまで甘いものが好みではないというイセトとフォルネンも、カスタードクリームパンはとても美味しいと感じてくれたようだ。
そんな教国の面々を見ていたビフレストのメンバー達は、カスミの料理は凄いだろうと本人以上に誇らしげにしており、カスミとしてはちょっとむず痒かったが、美味しいと感じてもらえるのは何よりも嬉しかった。
「カスミ様、これはぜひ広めましょうっ♡」
「そ、そうですねっ」
そして、教国の面々が2種類のパンを食べ終えると、まずマリーエルがカスミの手を取りながら迫ってきた。
その顔にはデカデカとまたカスタードクリームパンが食べたいと書かれており、そこまで気に入ってもらえたのは素直に嬉しいが、あまりの熱意にカスミはちょっと後退ってしまう。
「と、とりあえず、カスタードクリームパンはそんなに作るのも難しくないので、他のいくつか現状でも作れそうなパンのレシピと一緒にお渡ししますね」
「いいのですかっ?」
「はい。 それらのレシピは商業ギルドにも登録しますし、近日中にデラフト商会から私が携わった色んな調味料やレシピが発売されますので、普段の食事にも生かしてもらえればと」
「まぁ、カスミ様はあのデラフト商会と関わり合いがあるのですね」
どうやらデラフト商会の名は教国にも轟いているようで、マリーエルは驚きの表情を浮かべた。
「そうしましたら、後日デラフト商会ともお話をしましょう」
フォルネンもそのように言ってくれ、この国でもカスミが携わった調味料とレシピが売れるよう後押ししてくれることになった。
「それにしても、本格的に我々がもらってばかりで申し訳なくなってきますな」
「い、いやいや、後ろ盾になってもらえることに比べたら、些細なことですよ」
「カスミ様は謙虚ですな。 ……では、あまり長くこちらに引き留めるのも申し訳ありませんから、この場はこの辺りでお開きといたしましょう」
そんな試食会も含めて有意義な時間になった今回の会談も一段落し、カスミはちょっとした達成感に包まれながら聖堂を後にするのであった。
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