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#73 祈ってみる

「は、初めまして、カスミと申しますっ」



 とても丁寧に挨拶をしてくれたフォルネンとマリーエルに、カスミは緊張しながらも挨拶を返した。


 それに続いてビフレストの面々も簡潔に名乗っていった。



「挨拶を返していただき、誠に感謝致します。 この場は公的な思惑などは一切絡みませぬので、自然体でいてくだされ」



 フォルネンはそう優しい笑顔のまま口にする。


 その言葉には純粋な気遣いとリスペクトしか感じられず、警戒していたビフレストの面々もなんだか毒気を抜かれたような気分になった。



「本日はイセトが我儘を言ったようで、呼びつけるような形となり申し訳ない」


「い、いえ、他の国にも行きたいと思ってたところでしたから」



 フォルネンの言葉にカスミは慌ててそう返す。

 


「寛大な御心に感謝を。 しかし、我々もイセトが見たというカスミ様の神気に興味が尽きず、一度その御姿を見てみたいと思ったのは事実です」


「う、うーん、あんまり自覚はないんですけどね……」


「そうだ、カスミ様! 良ければこちらの女神像の前で以前と同じように祈りを捧げてくださいませんか?」



 カスミがフォルネンと話していると、それに割り込む形でイセトがそう提案をしてきた。



「イセトよ、そんないきなり言ってもカスミ様が困るだろう」


「あ…… そ、そうですね、すみません。 ただ、以前見たカスミ様の神気を思い出すと、どうしても熱くなってしまうのです!」


「そこまで言われると私もやはり興味がありますね」



 そう口にしたのは、フォルネンの横にいた大聖女のマリーエル。


 彼女はその言葉と共にゆっくりとカスミの方へ近づいてきた。

 


「カスミ様、私も貴女が祈る姿を一度見てみたいです」


「え、えっと、ご希望に添えるかは分かりませんよ?」


「もしそうなっても、カスミ様になにか思うことはございません。 代わりにイセトを叱ります」



 可愛らしい笑顔でそう言うマリーエルにはどこか圧があって、てっきりカスミはマリーエルのことを少女だと思っていたが、それなりの年齢なのかもしれないと思わされた。


 この世界はレネやフィオのように、見た目は少女でも実年齢はカスミより遥かに上という存在もいるので。



「わ、分かりました」



 カスミもチェアリィのことをどう言うべきか分からないので、祈りが見たいという要望に応えつつ、チェアリィに会ってどうすべきかを相談することにした。


 ということで、カスミは女神像の前まで躍り出て、いつも通りの祈りの体勢を取った。



(チェアリィ様……)


「いらっしゃい、カスミ」



 すると、いつものようにすぐに視界が切り替わり、以前訪れた神界にある庭園にカスミは立っていた。


 そして、目の前には変わらず美しいチェアリィもおり、カスミのことをおもむろに抱っこしてきた。

 


「わっ、チェアリィ様っ」


「ふふ、貴女の保護者達がよくこうしてるのを見るけど、確かにこれはいいわね。 可愛いわ」


「あ、あぅ……」



 どうやらチェアリィまでカスミを抱っこする楽しさに気付いてしまったようで、カスミは嬉しさやら恥ずかしさやらで顔を赤くしてしまう。


 チェアリィは色んな意味で恩のある存在なので、降ろしてとも中々カスミは言い出せず、結局チェアリィの気の済むまで抱っこされ続けるカスミだった。



「それで、聞きたいのは女神教の者達のこと?」


「は、はい」



 それからしばらくして、ようやくチェアリィに降ろしてもらえたカスミは、庭園にあるガゼボでチェアリィとテーブルを挟んで座り、今回来た目的を果たそうとしていた。



「うーん、まぁ、今カスミちゃんの目の前にいる者達には、私のこととか使命について話してもいいわよ」


「いいんですか?」


「今の女神教はとても良い形に収まってるようだからね。 それを成し遂げているトップの者達にはご褒美があっても良いでしょう」


「話を聞かせるだけでご褒美になりますかね?」


「なると思うわ。 私の容姿とか、どんな話し方なのかとか教えるだけでも、きっと喜んでくれるわよ」



 とりあえず、チェアリィのことやカスミの使命については話しても良いということになったので、カスミ的には一安心だ。



「チェアリィ様、今の女神教はって言いましたけど、昔はあまり良くなかったんですか?」


「そうね。 数百年前にはいわゆる宗教戦争が起きたの。 まぁ、宗教とかは建前で、実際にはただ領土を増やそうとして侵略行為をした形ね」


「そんなことが……」


「それより前は実は私も地上に降りたりしてたのよ」


「えっ、そうなんですか?」


「元々女神教は、有事の際に私が神託を与えられるように巫女…… 今風に言うと聖女ね。 を各世代に一人選んでたんだけど、その巫女の一人が始めた宗教なの」


「そうだったんですね」


「少しずつ信徒も増えてって、とても熱心に祈ってくれる者が多かったから、数年に一度、宗教が興った生誕祭の日に降臨して、ちょっとしたお話したり、こっそり人に紛れてお祭りを楽しんだりもしたわ」



 そう語るチェアリィの表情はとても明るく、良い思い出になってるんだなとカスミは思わされた。



「……でも、時に人は歪んでしまうもので、さっきも話したような戦争が起きた。 で、その時に女神の怒りだとか言って、私のことを騙った。 それは私からしても看過できず、教国には神罰を落としたわ」


「神罰……」


「歪んだ欲望を持った当時の教皇や国の上層部には、5年間戦争で散った者達の怨念を悪夢として見せ、かつて私が降臨したという記憶や歴史を人々から奪った」



 チェアリィは本当はしたくなかったという感情が伝わってくる悲しい表情でそう口にする。


 チェアリィからしても、女神教の信徒達は我が子のような存在で、神罰を与えるのは自分の身が引き裂かれるような思いだった。



「だから、私はもう数百年降臨してないの」


「そうなんですね……」


「でも、今の教国も世界もとても平和だから、また降臨したいわね。 やっぱりここから見てるのと実際に地上に降りて見るのとは感じ方が全然違うから」


「とっても良いと思いますっ」


「それに、カスミちゃんもいてくれてるしね。 カスミちゃんを守ってくれてる子達にお礼も言いたいし、カスミちゃんが作るご飯とか甘いものを地上で食べてみたいわ」


「ふふ、その時は目一杯おもてなししますね」



 とりあえず、降臨はもう少し様子を見てとのことだったので、その後も1時間くらいカスミはチェアリィと心温まるのんびりとした時間を過ごすのであった。


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