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#71 教国の特産品

「お休みのところ失礼いたします」



 カスミ達が宿の部屋で休んでいると、夕方頃に宿の従業員が部屋を訪ねてきた。



「大司教のイセト様より伝言が先程届きまして、それをお伝えに参りました」



 それから聞かされたその伝言は中々に堅苦しいものだったが、要約すると、来てくれてありがとう、会いたいんだけどいつがいい、こちらとしてはいつでもいいよ、という内容だった。



「どうします?」


「そこまで長く滞在するつもりもないし、明日でいいんじゃないか?」



 カスミの問いかけにクリスタはそう答え、他のメンバー達も異論はないようだったので、従業員の人にもそう答えた。



「かしこまりました。 詳しい時間は定かではないですが、近日中の指定だった場合、昼頃に迎えの馬車を寄越すとのことです。 また詳しい時間が分かり次第お伝えします」



 そう言って宿の従業員は深々とお辞儀をし、部屋を後にした。



「私達が来たって伝わってるんですね」


「検問の時か宿に来た時だろうな」


「ねーねー、ところで晩ご飯どうするー?」



 明日の予定が決まったところで、レネがそんな風に聞いてきた。



「宿の食事を取りますか?」


「うーん、でも、そんな美味しくないよ?」


「そういえば、イセトはカスミが凄い料理を作れることを知らないのか」


「あー、確かに言ってませんでしたね」



 王都に滞在した時は、物件を用意してくれたサミアンの街の商業ギルド長、ジリアムが気を利かせてキッチン付きの物件を用意してくれたが、今いる宿の部屋にキッチンはなかった。


 こういう豪華な部屋に泊まるような者は普通料理などしないので、当たり前といえば当たり前なのだが。



「うーん、キッチン貸してもらえますかね?」


「貸してもらえるかもしれないが、間違いなく目立つと思うぞ」


「それはそうですね……」



 カスミの料理はまだこの世界で普及してない調味料をたくさん使うし、調理手順も特殊なので、あまり見られるのはよろしくない。



「ふふ〜、そんなこともあろうかと〜……」



 どうしようかとカスミが頭を捻っていると、おもむろにフィオが収納魔法から何かを取り出した。


 それは手のひらサイズの四角い物体で、フィオがそれを部屋の空きスペースにポイっと投げると、その物体は巨大化し、詰めれば2、3人入れそうな扉付きの箱に早変わりした。



「わっ、フィオさんなんですかそれっ」


「ん〜…… テント〜……?」


「にしては機械的ですね……」


「まぁまぁ、細かいことはいいから入ってみてよ〜……」



 そうフィオに促されるまま、カスミはその箱の扉を開けて中に入ってみた。


 すると、中には豪邸のリビングくらい広い空間が広がっていて、その一角には綺麗なキッチンも備わっていた。



「わぁ、凄い広いですねっ」


「空間魔法で中は広くしてある〜…… 色々安全機能も備わってるから、野宿でも安心〜……」



 その後も話を聞くと、認識を阻害する魔法が付与されていたり、そもそも頑丈な素材で作られているので、そこらの魔物には気付かれないし、万が一攻撃されても傷一つ付かないとのこと。



「あ、でも、料理した時に使ったゴミとか水とかってどうなるんですか?」


「そこのゴミ箱とか排水溝と換気扇は、私が持ってる土地のゴミ捨てる建物に繋がってるから大丈夫〜……」


「フィオさん、土地持ってるんですね」


「長く生きてると色々もらう〜……」



 いつもだらけている姿を見ているので忘れがちだが、フィオはもう何百年も生きている大魔法使いなので、国からの褒賞などは数え切れないくらいもらってきている。


 その中の一つに土地があり、そこに魔道具研究で出たゴミを捨てる建物を作っているそう。


 その建物の管理や掃除をするために人を雇って給料も渡しているとのことで、自然を傷付けたり誰も不幸にならないようにしているのは流石と言えるだろう。



「こんなものまで作れるなんて、フィオさんやっぱり凄いですっ」


「むふ〜…… もっと褒めるがよろし〜……」



 フィオも今回のこのアイテムは自信作なようで、カスミが褒めると可愛らしいドヤ顔を浮かべた。



「そうしたら、早速ご飯作りましょうか」



 そうしてフィオに礼を言いつつ、カスミは夕食作りを始めることにした。


 ただ、部屋から出ていないのに何も食事を頼んだりしないのは宿の従業員達に心配されてしまうかもしれないので、ルームサービスで気になったものも注文してみることにした。



「にしても、なんだかパンが多いですね?」



 ルームサービスのメニュー表を見てみると、黒パン、白パンを始め、他にも赤パン、青パンといったよく分からない色のパンや、丸パン、四角パンといった形が異なるパンがズラッと書いてあった。


 ただ、どれも色や形、あとは硬さが少し違うだけで、味はどれも普通のプレーンのパンのようだ。

 


「教国は確か小麦が特産品だった気がする〜……」


「そうなんですね」



 とりあえず、いくつかのパンとサラダをルームサービスで頼むことにし、カスミはメインの料理を作ることにする。



(にしても、勿体無いなぁ。 色とか形だけじゃなく、もっと美味しくパンを食べる方法あるのに……)



 この世界でパンはスープ…… それもそこまで工夫がなされていないものに浸して食べるか、生地に少し砂糖を混ぜて甘みをつけ、それ単体で食べるのが主流とされている。


 大食いのものは肉を載せて食べたりもするそうだが、カスミ的には中に色々詰めたり、具材を挟んだりすれば無限と言ってもいいくらい色んな美味しいパンが作れるのになと思ってしまう。


 しかも、果物を加工する発想がないからか、ジャムなんかも無いので、カスミからするとやっぱり味気なく感じてしまう。



(食文化を広める使命を果たすためにも、明日会う教皇様とか大聖女様に何か持っていこうかな)



 ナステリア王国の方では食文化の発展の兆しが見えてきたので、この国でも美味しい料理が広まることを夢見つつ、カスミはメイン料理の仕上げを行なっていった。



「できましたよー」



 そうして完成させた料理を盛り付け、テントの外に運ぶと、部屋のテーブルには既にルームサービスによって運ばれてきたパンとサラダが並べられていた。


 そんなパンの横に、カスミが作ってきたメインの料理も並べていく。



「おっ、魚にゃ!」


「はい。 鯖をトマトソースで煮付けたものになります」



 今日のメインは、サミアンの街にちょくちょくやって来る魚を売ってくれる商人から仕入れた鯖をしっかり焼いた後に、玉ねぎ、にんにく、しめじ、オリーブオイル、白ワイン、そしてお手製のトマト缶を煮詰めて作ったソースでさらに煮込んだ一皿だ。


 早速それを、カスミはルームサービスで頼んだ白パンに載せて口に運んでいく。



「ん〜、美味しいっ」



 すると、鯖の濃厚な旨みが溶け出したトマトソースが、柔らかい白パンに染み込むことで一つの料理として完成した。


 まだ一口食べただけにも関わらず、もう既に満足感と幸福感がじんわりと体全体に広がっていく。



「このパン美味しいですね」


「ルームサービスで来た従業員も、自信満々そうにしてたな」



 クリスタの言葉も納得で、恐らくこの宿の厨房で焼いているであろう白パンは、当たり前のように焼き立てで、香ばしい香りと柔らかい食感が非常に際立っていた。


 他にも黒パンや丸パンというのも頼んでみたので、それも口に運ぶと、それぞれ違った美味しさがあって、この国のパンにかける情熱をカスミは垣間見たような気がした。


 そんな教国に来て始めての食事は、いつも通り和やかに進んでいき、その後は明日の教皇との邂逅に備えて早めに眠りにつくカスミ達なのであった。

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