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#61 試作品

 王都滞在の日程も残りわずかとなってきた本日。


 カスミはデラフト商会にローニャと一緒にやってきていた。


 目的は食料の買い出しと、シクウと少し話す約束をしているので、早速カスミとローニャはデラフト商会の中へ入っていった。



「いらっしゃいませ、カスミさん」



 すると、入口近くでシクウが待ってくれており、そのままカスミとローニャは商談スペースに通された。



「さて、まずはミーユイア第二王女殿下の誕生日パーティー、お疲れ様でした。 もう大好評だったと聞きましたよ」


「良い形にできたみたいでよかったです」


「パーティーに参加した方がこぞって我が商会に問い合わせをしてきてますよ。 レシピや調味料の発売はいつになりそうかと」


「迷惑になってませんか?」


「とんでもない。 期待に応えられるよう、準備を進めてますし、多少待たせて期待感を持ってもらえた方が、より満足度も高まりますからね」


「悪い顔してるにゃー」


「おっと、私としたことが」



 シクウもカスミが関わる商品によって生まれる利益を楽しみにしているようで、その表情は非常に明るかった。



「それで、カスミさんに試作品を確認していただきたいのです」



 そんなシクウは、あらかじめ部屋に用意してあった箱から、黒い液体が入った細めの瓶を持ってきて、その液体を小皿に少量注いでいった。



「こちら、試作品の醤油になります。 確認していただけますか?」


「分かりました」



 小さなスプーンも用意してくれたので、カスミはその試作品の醤油をちょっと掬って口に運んでいった。



「……うん、美味しいです!」



 すると、キレのある塩味と香ばしい香りが口の中に広がり、カスミの前世のスーパーなどで売られていた市販品と大差ないとカスミは感じた。



「それはよかったです」


「凄いですね? 普通に作ったら半年とか一年くらいかかるものだったと思いますけど」


「熟成や発酵は魔法で工程を短縮できましたから。 あとはレシピ通りに作っただけなので、レシピを作ってくれたフィオさんに感謝ですね」



 醤油やみりんなどの調味料の作り方は、フィオが鑑定魔法で調べてまとめてくれたのだが、どうやらとても正確なレシピだったようだ。



「ひとまず、来月にこちらの醤油に加え、みりん、酢、味噌、あとコンソメ、和風出汁を粉末状にしたものを売り出す予定です」


「もうそんなに用意できてるんですねっ」


「頑張らせてもらいました。 ただ、数に限りがあるので、まずはこの国中心に販売をして、他国に関しては、まず富裕層へ宣伝を行い、量産の体制が整い次第、順次販売をしていこうと思っています」


「いいと思いますっ」



 商売に関してはカスミはほぼ素人なので、売り方はシクウに任せるつもりだ。



「そういった展望もあって、カスミさんから貸していただける土地は本当にありがたいですね。 量産するための工場をどこに建てるか頭を悩ませていたので」



 シクウが言うカスミの土地というのは、先日第二王子のディケルトから受けた失礼の詫びとしてカスミが王家からもらった土地のことだ。


 話の早いことで、王都から少し離れたところにある荒野の権利書が、先日カスミの手に渡った。


 カスミとしては土地の権利書なんていう大層なもの、どこかへ放り投げたい気持ちがあったが、カスミが常に携帯してる収納ポーチに入れておけば失くす危険もないし、とりあえずシクウに格安で貸し出すことにしたので、誰かに役に立っているならまあいいかと、無理やり自分を納得させた。


 ちなみに貸し出し料金は、相場よりかなり安く設定させてもらった。


 シクウが最初提示してきた相場通りの値段は、はっきり言ってカスミの手には有り余りすぎる額だったので、お世話になっている礼と言って、シクウの商人としての矜持に反しないギリギリのラインまで値下げさせてもらった。



「ただ、工場で働く人手が足りないのがまた新たな問題ですね」


「そうなんですね?」


「正直、猫の手も借りたいくらいですよ」



 そんなシクウの言葉を聞いて、カスミの脳裏には一つのアイデアが浮かんだ。



「工場で働くとなると、それなりに手当も出ますよね?」


「もちろんです。 おそらく忙しくなるでしょうから、ちゃんとそれに応じた給与を出しますよ」


「だったら、スラムに求人とか出してみたらどうですか?」


「スラムに、ですか?」


「スラムにいる人は働きたくても働き先がない人が多いって以前クリスタさんに聞きました。 工場勤めなら専門的な知識が無くてもできる仕事とか沢山ありそうですし、良いんじゃないかなって」


「ふむ、確かに良いアイデアかもしれませんね」


「いっそのこと、新しい土地に工場建てるついでに、居住スペースも作ったりすれば住み込みで働けますし、工場で作った調味料を使った食堂とかあったら、スラムで暮らすより確実に良い生活になるんじゃないですかね」


「確かに、工場で作ったものを使えば手数料や輸送料もかかりませんから、格安で食堂運営なんかもできそうですね。 いっそ工場の周りに畑なんかも作れば……」



 何気なくアイデアを出してみたカスミだったが、思ってたよりも刺さったようで、シクウはぶつぶつと採算が取れるかどうかの計算をし始めた。



「したい話はもう終わったにゃー?」


「ああ、すみません。 はい、報告したいことももうありません」



 自分の世界に入りかけていたシクウに、ローニャがもう話したいことはないかと聞いたところ、話したいことはもう話せたそうなので、一旦この場はお開きとなった。


 カスミ的には食文化を広めるという使命のためにシクウの存在は必要不可欠だと考えているので、今後も可能な限り協力はしていこうと思いつつ、その後はローニャと一緒に食料の買い出しに向かうのであった。

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