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#51 商会を見て回る

 引き続きデラフト商会を見て回っているカスミは、次に食材や調理器具が並ぶエリアに足を運んでいた。



「わぁ、どれも新鮮ですね」



 今はもう夕方手前くらいの時間帯なのだが、並べられている野菜はどれもみずみずしく、肉類もパック分けされて売られていたが、ドリップなどが一切出ていなかった。



「売り場の台に収納袋と同じ、時の流れを緩やかにする効果を付与していまして、いつでも新鮮な状態を保てるようにしています」


「そこまでやってるのに、値段は市場とそこまで変わらないんだな」



 デラフト商会で売られている商品は、仲介業者が間に挟まっていたりするので、市場で売られているものよりはほんのちょっと高い。


 だが、いつでも新鮮な状態のものが買えるし、品質チェックもしっかり行われているので、市場よりもこっちで買う顧客もかなり多いようだ。



「商品を売るためには品質とネームバリューが大切ですからね。 デラフト商会はいつでも新鮮な良いものを提供するという売り方でやっています」



 カスミとしては割と馴染み深いシクウの考えだが、法整備も甘く、SNSなんかもない異世界でそれを実現しているのは、シクウの商人としての腕が優れていることの何よりの証明だろう。



「カスミさんの商品ができたら、この辺りに大々的に並べたいですね」


「もっと目立つ店頭とかに置いても良いんじゃないか?」


「ああ、確かにそれもアリですね」



 クリスタとシクウの中では、カスミが考案した商品が売れることはもう確定しているようで、どう商品を並べるかについて話し始めた。



「カスミさんだったらどうやって売りますか?」


「うーん、私が買う立場だったら、やっぱり調味料とそれに合う食材が近くに売られていた方が分かりやすいですね。 あとはレシピとかも」


「それは間違いないですね」


「他には試食コーナーを作るとかですかね?」


「試食、ですか?」



 どうやらこちらの世界に試食という文化はないようで、シクウが首を傾げた。



「新しい商品を使った一口で摘める料理を無料で食べてもらうんです」


「ほうほう」


「特に調味料だけだと、使い方も分かりませんし味の想像がつきませんから、この調味料を使えばこんな料理が作れますっていうのを分かってもらうために試食してもらうのはアリなのかなって」


「確かに仰る通りですね。 試食コーナーを作り、その近くに必要なレシピと食材を置けば、より手に取っていただける…… なんなら作る場面も見せてパフォーマンスをしても良いかもしれませんね」


「無料ならとりあえず食べてみるだろうしな」



 シクウもクリスタも、カスミが提案した試食コーナーについて大いに感心してくれた。



「カスミさんはその歳ながら、商売についてよく分かってらっしゃいますね」


「あはは…… 思いつきですよ」



 中身は30歳のカスミなので、年齢を引き合いに出されると苦笑するしかないのだが、シクウからすればカスミの生い立ちなどは正直どうでもよく、有効な関係が築けているだけで満足なので、カスミについて深く聞いたりしてくることはなかった。


 その辺の他者と関わる上での線引きの上手さも、シクウが一流の商人としてやっていけている一つの要因なのだろう。



「あ、調理器具も売ってるんですねっ」



 それでも一応、年齢の話から別の話に切り替えたかったカスミは、近くにあった調理器具エリアを指しながらそう言った。



「そうですね。 調理器具も取り扱っております」


「どれも綺麗ですね」



 カスミも料理人なので、調理器具にもそれなりにこだわりはある。


 そんなカスミから見ても、目の前で売られているフライパンや鍋などは、どれもものがよく、眺めているだけでかなりの時間が潰せそうだった。



「あれ、こっちのはちょっと違いますね」


「流石、お目が高いですね。 そちらはドワーフ製の調理器具になりまして、耐久性や使い勝手はこちらの方が段違いで良いですし、中には魔法が付与されたものなんかもあります」



 そんな普通に並べられている調理器具とは別に、ドワーフ製だという明らかに質の良さそうな調理器具が、透明なボックスに入れられて仰々しく売られていた。



「包丁とか、よく切れそうですね」


「いざとなったら魔物ともこれで戦えるらしいですよ」


「それは凄いですね……」



 流石にそこまで切れる包丁は、うっかり手に当たったりした時に怖いので、カスミは必要ないと思ったが、冒険者や騎士の中には遠征の時に料理を作る役職の者がおり、そういう戦えもする料理人がこういう包丁を使ったりすることがあるそうだ。



「あ、しかも値段が凄い……」



 そんな質のいいドワーフ製の調理器具は、当然の如くかなりの値段がし、先程見た普通の調理器具より桁が一つ、ものによっては二つ違うものもあった。



「ドワーフ製のものは調理器具に限らず、武具や魔道具も総じて値が張りますね。 もちろんそれだけ質は良いので、特に武器なんかは職人の手が追いつかないくらい人気なんですよ」


「そうなんですね。 ……それだと、レネさんに色々もの作り頼んでるのって、かなり贅沢なことしちゃってます……?」


「まぁ、レネが例えば包丁を全力で作ったら、そこに売っているドワーフ製のやつのさらに倍以上は値段がつくかもな」



 カスミの質問に、クリスタはそうあっけらかんと答える。



「や、やっぱりレネさんって凄いんですね……」


「ドワーフの中じゃ、あいつは鍛冶姫って呼ばれてるからな。 確実に今いるドワーフの中でも5本の指には入る技術を持ってるぞ」



 当然、カスミも頼めばあっという間になんでも作ってくれるレネのことは凄いと思ってたが、どうやらカスミが思ってたよりレネは凄いらしい。



「まぁ、ドワーフは総じて気に入った相手になら割と何だって作ってくれるし、そもそも物作りが好きだから、別に気にしないでいいと思うぞ」


「そ、そうですかね?」



 折角のレネの技術を、調理器具を作るのに使わせるのは勿体無いかなとカスミはちょっと思ったが、クリスタがそれを否定した。



「確か、カスミさんが考案した調理器具なんかもその内、設計図を売り出すそうですね?」



 そんなカスミとクリスタのやり取りを横で聞いていたシクウが、思い出したかのような態度でそう尋ねてきた。

 


「そうですね」


「レネさんが作ってくれる設計図なら安心ですね。 それもまた大いに売れそうです」



 シクウもレネの実力は知っているらしく、調理器具の設計図については何の心配もしていないようだった。


 恐らくカスミの調味料、調理器具、レシピなんかをいざ発売するとなると、相当シクウは忙しくなることが予想されるが、それでもなおシクウはワクワクとした様子だった。


 そんなシクウを見て、根っからの商人なんだなぁと、カスミは感心すると同時に、自分も任されていることはしっかりやり遂げようと、改めて奮起するのであった。


 そして、その後もデラフト商会を一通り回り、何かを買ったりはしなかったものの、どんなものが売られているのかは把握できたので、今度またゆっくり買いに来ますとカスミはシクウに伝え、今日のところは拠点へと帰っていくのであった。

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