#50 デラフト商会へ
大教会でチェアリィと話したり、イセトに捕まったりと色々あったが、カスミは予定通り王都にあるデラフト商会の支店へと到着した。
「わぁ、大きいですねっ」
「世界でも有数の商会だからな」
クリスタの言葉を裏付けるかのように、目の前にはカスミの前世でいうところのホームセンターくらい大きな建物が建っており、売られている商品を求めて沢山の人が出入りをしていた。
「お、来ましたね」
そして、そんな商会の入口には、本日カスミを呼んだ張本人であるシクウ本人がおり、カスミとクリスタを見つけて歩み寄ってきた。
「お忙しい中、ご足労いただきありがとうございます、カスミさん、クリスタさん」
「いえ、お気になさらずっ」
「わざわざ会長自ら出迎えとはな」
「商人は信頼が命ですから。 本来であれば急に呼びつけたこちらが馬車なども用意すべきかと」
実際、ここへ来て欲しいというシクウからの手紙には、馬車を手配しようかという問いかけも記されていたが、カスミが寝泊まりしている王都の拠点からここまでは全然歩いて行ける距離なので、丁重にお断りした。
「では、あまり大声で話せないこともありますので、こちらへどうぞ」
とりあえず、今日呼ばれた理由について話すべく、カスミはシクウの案内で商会のバックヤードにある商談スペースに通された。
「それで、どうかしましたか?」
「単刀直入に申し上げますと、ミーユイア王女殿下の誕生日パーティーにおいて、少し問題が発生しまして」
カスミの質問に、シクウはそんな風に話を切り出した。
「問題、ですか?」
「王族の方から私に連絡が来まして、どうもアヴァリス商会の方がパーティーで料理を振る舞うという話になったそうで」
「えっ、アヴァリス商会というと……」
「以前商業ギルドで見かけた、マルズロさんが会長の商会ですね」
(あの太ってる常識ない人かぁ……)
以前、カスミはサミアンの街の商業ギルドで、ギルド長であるジリアムと話をしたのだが、その時にアポ無しでジリアムを訪ねてきたのが、アヴァリス商会の会長であるマルズロだった。
「でも、なんで急に……」
「以前チラッと話しましたが、アヴァリス商会は今回のミーユイア王女殿下の誕生日パーティーの支援先となれるよう方々に手を回していました。 その役目は結局我がデラフト商会が担う形になりましたが、諦めきれなかったようですね」
「いいんですか、そんな無理やり……」
「心象は悪いですね。 ただ、アヴァリス商会が保有する鉱山はこの国の重要な資源なので、王族の皆様もアヴァリス商会を無下にはできず、やむを得ず要望が通った形ですね」
「なるほど……」
「王族からのお手紙には、カスミさんに申し訳なく思っている旨が書かれていました」
「いえ、仕方がないと思います」
「後日この件に関しても、正式に謝罪するとのことです」
「う、うーん、そんなに気にしてないんですけど……」
というのも、カスミは先日のディケルトとの一件に関しても、また改めて謝罪させて欲しいと言われており、それに加えて今回のアヴァリス商会の件の謝罪も重なるとなると、逆にカスミの方が色んな手間や心労をかけさせて申し訳なくなってしまうくらいだった。
「ただ、私はアヴァリス商会に同情してしまいますね」
「えっ?」
「恐らく、アヴァリス商会は最高級の食材を使ったメイン料理とデザートの2品ほどを用意するつもりだと思いますが、カスミさんの料理と同じ場所に並べられたら、確実に恥をかく形になると思います」
「それは…… どうなんでしょう?」
「カスミさんがパーティーに出す料理は確か、そこまで高級品は扱っていませんよね?」
「そうですね」
一応王族や高位貴族が参加するパーティーなので、例えばオーク肉がオークジェネラルというワンランク上の魔物の肉になっていたりはするが、カスミとしては手軽に手に入る食材でも美味しい料理が作れるということを今回知らしめたい気持ちがある。
なので、美味しさが分かりやすい肉類は王族や貴族に出しても失礼にならない最低ラインのものを使用し、野菜やデザートに使う果物なんかは市場で普通に売っているものを使うことになっている。
「最高級の食材を用意したとしても、カスミさんの料理には遠く及びませんよ」
「……そうですね、パーティーの参加者の皆さんにもそう思ってもらえるよう、クオリティを上げていこうと思います」
「私達デラフト商会も引き続き応援させていただきます」
何やら思いがけぬ事態にはなったようだが、カスミがすることは変わらないので、引き続き王城の料理人達と協力をしていこうと改めてカスミは思った。
「とりあえず伝えたかったことは以上です。 この後もしお時間があれば、商会の案内を致しますが、いかがでしょう?」
「ぜひお願いしますっ」
ひとまずこれでカスミを呼んだ目的は果たせたようなので、折角ならとシクウが商会を案内してくれることになった。
なので早速、カスミ達が商談スペースを後にし、一般開放されているエリアに行くと、まず手前には様々なアイテムが売られていた。
「これは、魔道具ですか?」
「そうですね。 こちらが魔道具で、その一個奥が魔道具ではない普通のものです」
そこに売られているアイテムは、どうやら冒険者や行商人向けの便利アイテムのようで、魔力を流すと光る魔道ランプや、防汚という汚れが付きにくい魔法が付与された絨毯といった、カスミからするとまさしく魔法のようなアイテムがたくさん並んでいた。
「あ、これは……」
その中には、カスミも見たことあるような形状をしたアイテムもあった。
「そちらは換気機能付きの魔道コンロですね」
シクウがそう説明してくれたのは、形状はカスミのよく知るバーベキューコンロで、焼く部分の上に屋根のようなものが付いていた。
「外で何かを焼いたり温めたりする時に使えますね。 魔力を流せば、屋根の部分が煙を吸って無害な魔素にしてくれるので、魔物がいる森の中なんかでも使えます」
どうやら屋根部分は換気扇的な役割があるそうで、バーベキューする時にちょっと困る煙が気にならなくなるというのは魅力的だなとカスミは思った。
「あまりこれを使う人はいないがな」
ただ、冒険者であるクリスタからすると、そんなに実用性はないアイテムらしい。
「そうなんですか?」
「収納袋とかがあれば良いが、無いと嵩張るからな。 こっちの小型化されたやつの方がよく使われてる」
クリスタはそう言いながら、その魔道コンロの隣にある、地球でいうところのカセットコンロをさらに薄くしたようなものを指差した。
どうやらこちらは火の魔石が組み込まれており、魔力を流すだけでどこでも手軽に使えるのだとか。
先程の大きなコンロは換気機能はあっても、火は炭や薪を使って起こさないといけないようなので、もっぱら小さい方が売れているとのこと。
「でも、こっちはバーベキューに使えそうですね」
「「バーベキュー?」」
(あっ、こっちにはないんだ)
カスミがバーベキューという単語を呟くと、クリスタもシクウも揃って首を傾げた。
「バーベキューは屋外でこういうコンロを使ってお肉とか野菜なんかを焼いて食べるイベントみたいなものですね」
「わざわざ屋外でか?」
クリスタがそんな風に聞いてくる。
「皆んなで好きなものを焼いて食べられるので、楽しいですよ。 海とか川沿いで遊ぶついでにしたり、綺麗に咲いた花を見ながらしたりするのもいいですね」
「確かにイベントとしては面白そうですね」
シクウはバーベキューという新たに商売のネタになりそうなものの話が聞けて、なんだか嬉しそうにしていた。
カスミもカスミで、サミアンの街のパーティーハウスには、とても広い庭があるので、帰ったらバーベキューをしても良いかなと思ったり。
そして、その後も色んな魔道具を見て周り、それが一段落したら食材などが売っているエリアにも足を運ぶカスミなのであった。
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