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#46 王都の市場へ

「よし、じゃあ行こっかカスミちゃん!」


「はいっ」



 早朝。


 出かける準備を整えたカスミは、レネと共に王都の拠点を出た。


 これから向かうのは、王都の城下町にある朝市で、その規模は世界有数と言われており、一日で全部回るのは無理なレベルらしい。



「カスミちゃんは何かお目当てのものはある?」


「とりあえず当面の食糧と、まだ扱ったことのない食材があったら買いたいですね」


「おー、新しいものが見つかったら、新しい美味しいご飯が食べれるってことだよね! 楽しみだなー♪」



 まだ見ぬ食材を求めて、ウキウキしながらカスミとレネは市場を目指して歩いていく。


 それから程なくして、少しずつ通りを歩く人が増えてきたかと思うと、大きな通りの両サイドに所狭しと屋台や露店が並ぶ市場が見えてきた。


 しかも、どうやらもう一つ隣の大通りも市場になっているようで、カスミが話に聞いていた通りの規模の大きさをしていた。



「王都に滞在中に全部見れますかね?」


「うーん、人気の出店以外は結構入れ替わりも激しいみたいだから、来週とかにはもう結構様変わりしてたりするかもね?」


「凄いですねぇ……」



 何はともあれ、ひとまず市場に足を踏み入れたカスミとレネは、きょろきょろと興味を引くような食材がないか見回しつつ、市場をゆっくりと進んでいく。



「あ、お肉屋さんがありますね」


「行ってみよー!」



 その中でまずは見るからに新鮮そうな肉が並べられた露店があったので、そこへ足を運んでみた。


 その露店の商品を近くで見てみると、カスミにとってもお馴染みになりつつある、オーク、バイソン、ビックバードといった定番の肉はもちろん、見たことない肉も結構な種類売られていた。



「らっしゃい! 新鮮な肉仕入れてるよ!」



 店に近付いてきたカスミとレネに、大きな声でその肉屋の店主の男が声をかけてきた。



「とりあえず、これとこれ、あとこれも10人分ください」


「おお! 気前いいな嬢ちゃん!」



 とりあえず、これまで食べたことのある肉をカスミは大量に購入した。


 ただ、それだけ買っても割とすぐに消化されてしまうので、王都滞在中にこの店にはまた何度か訪れることになるだろう。



「ちなみにこっちのお肉はなんですか?」


「こっちは他じゃあんま売ってない肉で、その向こうが高い肉だな」



 この肉屋はどんな肉かをエリア分けして分かりやすく置いてくれており、カスミは折角ならと、まだ食べたことない肉もいくつか買ってみることにした。



「これはなんですか?」


「これはブラックグリズリーの肉だな。 その隣がファングウルフとアイアンディアの肉で、奥にあるのがマウンテンタートルの肉だ」



 珍しい肉エリアに並んでいたのは、それぞれ熊、狼、鹿、亀の魔物の肉ということで、全く味の想像がつかなかったが、とりあえずどれも美味しいとのこと。


 なので、料理の参考にするために、ざっくりとそれらの肉の特徴を聞きつつ、一食分くらいを買ってみることにした。



「カスミちゃん、こっちは買わないのー?」



 そんな中、レネが高級肉が並べられているエリアを指差しながらそんな風に聞いてくる。

 


「うーん、お高いお肉はいいかなって」


「お金なら心配いらないよ?」


「そういうのは何か特別な日とかに使って食べたいですね。 常日頃から高いお肉ばかり食べるのも逆に勿体無い気もしちゃうので」



 高級肉のエリアには、コカトリス、レッサードラゴン、オークジェネラルといった、強そうな名前の魔物肉が売られていたが、今回はそちらは買わないことにした。


 ビフレストの資金力なら、それらの高級肉を常日頃から使っても何も問題はないが、日頃食べている安い魔物肉でも十分過ぎるくらい美味しいので、これ以上を求める必要は現状ないのだ。


 それに、せっかくの高級肉なのに常日頃から食べていたら、ありがたみが無くなってしまう気がするカスミだったので、高級肉は何かきっかけがあったら買うことにする。


 なにはともあれ、大量の肉を買えたので、一旦肉屋を後にし、その後も野菜を買ったり、乳製品を買ったりしながら、カスミとレネは市場をゆっくりと回っていく。



「あっ、これは……」



 そんな中、カスミは気になる店を見つけた。



「いらっしゃーい」


「ここは…… 香辛料屋さんですかね?」


「そうだよー。 砂漠の国ラナンドの特産品さー」



 よく日に焼けた頭にターバンのようなものを巻いた男性が店主のその露店には、スパイシーな香りを仄かに発する香辛料が瓶詰めされて売られていた。



「あ、これ、シナモンですね。 こっちはローリエ…… わぁ、バニラビーンズもある……!」


「おやおや、お嬢さん詳しいねー」



 そこにはカスミがかなり欲しかった香辛料が色々と売られていた。


 特にシナモンやバニラビーンズはスイーツ作りに使えるし、ローリエも煮込み料理やスープの風味付けに重宝するありがたい香辛料だ。



「そうしたら、これとこれと……」


「おー、太っ腹だねー。 毎度ありー。 こっちのとかはこの場で粉末状にもできるけどー?」


「お願いしますっ」



 とりあえずカスミが使い方を知っているものはそれなりの量購入し、粉末状にしてくれるサービスもあったので、それを利用しながら他にも何かないかと露店を隅々まで眺めていく。



「あ、これってもしかして……」



 その中に、見覚えのある黄色い粉があった。



「店長さん、これって……?」


「お、それはカリーパウダーって言って、ラナンドではそれを水に溶かしたカリースープっていうのがあるんだよー」


(やっぱりカレー粉だ……!)



 それはカスミにとってはかなり馴染み深い、カレー粉だった。


 名前こそカリーという形になっているが、恐らく漂ってくる匂い的にも、スパイスの調合は地球にあったカレー粉とそこまで大差がないように見えた。



「これもください! ありったけ!」


「おー、毎度ありー」



 なのでカスミは、大きな瓶に入れられたカリーパウダーを一括購入させてもらった。


 そんな思いがけぬ収穫もあり、ニコニコ笑顔でカスミは香辛料屋を後にした。



「いっぱい買ったねー?」


「とっても良い買い物でしたっ」


「香辛料って何に使うかよくわからないもの多いけど、全部料理に使うの?」


「そうですね。 とっても美味しいものができますよ」


「全然想像つかないけど、カスミちゃんが言うならそうなんだろうね!」



 そんな香辛料を買い終えた頃には、もう朝市の時間も終わりといった時間だったので、カスミとレネは拠点に帰ることにした。



「お、カスミちゃん見てみてー」



 その途中、レネが何か見つけたようで、カスミはレネが示すものを見に行った。


 それは建物の外壁に貼られた張り紙で、カスミはその張り紙に書かれた内容を確かめていく。



「生誕祭、ですか?」


「第二王女の12歳を祝う祭りだって! 第二王女って、カスミちゃんが料理作ってあげる王女様だよね?」


「そうですね」



 どうやらミーユイアの誕生日を祝う祭りを城下町でもやるようだ。



「こういうお祭りもあるんですね」


「王族の誰かが12歳を迎えた時はやるみたいだね!」


「この日付は、誕生日パーティーの2日後ですか」


「折角だし参加する?」


「そうですね。 面白そうです」



 こちらの世界に来てから初めてのお祭りなので、どんなものなのかカスミも見てみたくなった。



「割とこういうお祭りはよくあるんだよねー」


「そうなんですね」


「皆んなこういう娯楽に飢えてるから、何かと理由をつけてお祭りやりたがるんだ。 王都では一ヶ月に一回くらい何かしらのお祭りやってるんじゃない?」


「凄いですね」


「私達のパーティーハウスがあるサミアンの街もそこまでじゃないけど結構お祭りあるよ」



 この世界は地球に比べると娯楽に乏しいので、こういったお祭りはよく開かれるのだとか。


 カスミ的には、時代の流れなのか、どんどん少なくなったり規模が小さくなっていっている日本のお祭り文化を少し寂しく思っていたので、こちらの世界ではお祭りが盛んと聞いて、なんだか嬉しくなった。



「なんならカスミちゃんは屋台でも出しちゃえば?」


「えっ、私がですか?」


「申請すれば割と簡単に出せるよ」


「うーん…… それも楽しそうですけど、今回はやめときます。 ミーユイア様の誕生日パーティーの方に集中したいですし、普通に皆さんとお祭り回りたいです」


「そっか! じゃあ、お祭りの日は一緒に楽しもーね!」


「はいっ」



 レネとそんな約束なんかもしつつ、カスミは今度こそ拠点への帰路につくのであった。


 

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