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#45 始末とハンバーグ

「……といった話の流れでした」



 カスミが王城を後にした頃。


 王城内の一室では、先程ディケルトが何を仕出かしたのかを、王であるダスロウ、第一王妃のアリレイン、そしてディケルトの母である第二王妃のシャラミラがムッダから聞かされていた。



「……そうか。 ムッダ、報告ご苦労。 下がってよい」


「は。 失礼します」



 ムッダからの報告を聞いたダスロウは、王家の問題でもあるということで、ムッダを下がらせた。



「……ディケルト、とんでもないことをしてくれたな」


「……っ」



 ムッダの退室を確認したダスロウは、底冷えするような低い声でディケルトに声をかけた。


 それはディケルトが初めて自分に向けられた、父の怒りが込もった声だった。



「相手がカスミ殿でなかったら、最悪首が飛ぶか、最低でも廃嫡になるような仕出かしだ」


「……はい」


「その様子だと、レインにもうその辺は言われたようだな。 ……ディケルト、お前は今後どうする?」


「どう、って……?」


「お前が今後、王族としてどうすべきか、分かっているか?」


「……ちゃんと、勉強する」


「お前は勉強をよくサボっていると聞くが」


「……っ。 も、もうそんなこと、しないっ……! ちゃんと勉強して、王族に相応しい男になる……!」


「その言葉、決して忘れるな。 2度目はないぞ」


「うん…… じゃなくて、はいっ……!」



 確かな決意を感じさせるディケルトの態度に、ダスロウは表情を少し緩め、ディケルトの頭をポンポンと叩いた。



「シャラ。 今回のことは貴女にも責任があるわ」


「はい…… 申し訳ありませんでした」



 ただ、まだ話は終わらず、アリレインはディケルトの教育不足について、母親であるシャラミラに指摘した。

 


「息子が可愛いのは分かるけど、甘やかすのはディケルトのためにならない。 ……前から言ってたけど、今回のことで痛感したでしょう?」


「はい……」



 シャラミラは第二子としてディケルトを授かり、ディケルトのことを溺愛してきた。


 それだけならまだ良かったのだが、王族としての苦労をディケルトに課すのが心苦しくなってしまい、ディケルトが勉強をサボったりするのを黙認してきたのだ。



「か、母様は悪くない……!」


「ディケルト……」



 そんなシャラミラを、ディケルトのが庇うような発言をするが、アリレインはそれを冷めた目で見ていた。



「いいえ、シャラミラの監督不行き届きよ」


「お、俺が勝手にしたことだから……」


「そういう訳にはいかないのが、今のディケルトの立場よ。 貴方の仕出かしは、シャラの責任でもある。 それが嫌なら、一日でも早く一人前の王族になりなさい」


「は、はい……」


「それくらいで良いだろう、レイン。 あまり追い詰めすぎても良くない」


「……分かりました」



 そうダスロウに嗜められ、アリレインはまだ少し言い足りなさそうだったが、一旦口を噤んだ。

 


「それにしても、カスミ殿は聡明だな」



 カスミが厨房でディケルトに言った言葉は、先程ムッダから聞かされていて、カスミが王族との協力を打ち切るという演技をし、ディケルトの行いを正そうとしてくれたことも聞いた。



「そうですね。 カスミ様にはまた改めて謝罪の場を設けて、何かお詫びの品でも送りませんと」


「そうだな。 ……それに、カスミ殿を害せば、ビフレストの面々も敵になる。 それも避けねばな」



 ダスロウのそんな言葉に、アリレインとシャラミラは強く頷いた。


 この国にとって、ビフレストの面々は有事…… 特に魔物災害の際に頼れる最高戦力とも言っていい存在なので、万が一怒らせて他国へ行かれてしまうと、魔物災害への防衛力はガタ落ちしてしまうのだ。



「ふぅ、それでは一旦話は終わりだ。 私は執務に戻る。 ディケルト、しっかり励むのだぞ」


「は、はい……!」



 こうしてディケルト絡みの問題も一段落し、一旦その場はお開きとなった。


 なお、この日からディケルトは、自ら発した誓いに違わず、苦手な勉強にもしっかり取り組むようになったのであった。




 *




「……ったく、カスミは甘いよな」


「あはは……」



 カスミが王城から帰って少し時は経ち、現在夕食の準備中。


 今日はアネッタも夕食作りを手伝ってくれているのだが、アネッタは今日の出来事についてまだ少し納得いってなさそうだった。



「あの王子とは初めて会ったが、とんだポンコツだったな。 マジでカスミを寄越せと言われた時はぶん殴りたくなった」


「まぁまぁ…… ディケルト殿下はまだ10歳とのことですし……」


「第一王子と王女がそれより小さい時に顔合わせたことあるが、2人とも立派だったぞ」


「ひ、人には向き不向きがありますからっ」


「やけに庇うな?」



 ディケルトをフォローするような発言をするカスミに、アネッタが不思議そうな顔をしながらそう聞いてくる。

 


「うーん、庇ってるわけではないですよ。 私だってちょっと苛立ちましたし」


「まぁ、そうだよな」


「でも、子供の頃の一回の失敗で全てを失うなんて、流石にやり過ぎだと思うので、これを機に成長してくれればなーと」


「……それもそうかもな」



 カスミ的には悪いところを指摘して謝らせるのでもちょっとやり過ぎたかなと思っていたのだが、王族というのはやっぱりカスミの思っている以上に厳しい世界のようで、ディケルトはかなり怒られてしまった。



「まぁでも、クリスタとフィオは割とキレてるから、王族からなんか貰えそうなら貰っとけよ。 カスミが王族と話しつけないと、あの2人が勝手に色々王族から搾り取ろうとするかもな」


「そ、そうですね」



 今日あったことは他のビフレストのメンバーにも報告したのだが、大なり小なり皆んなお怒りで、特にクリスタとフィオはかなり怒っていた。


 そのため、カスミが王族から何も詫びをもらわないなんて事になったら、カスミが知らないところで2人が王族に対して何かしかねないので、そうならないようにするためにも、なるべく早いうちに正式な謝罪は受け取っておこうとカスミは思っていた。



「にしても、今日の飯は美味そうだな」


「もう少しで焼けますよ」



 そんな風に話している最中も、ちゃんとカスミの手は動いており、今は蓋をしたフライパンの上で焼いているものに火が通るのを待ちながら、サラダや付け合わせを作っていた。



「そろそろ焼けましたかね」



 それからカスミがフライパンの蓋を開けると、そこには大きな肉の塊が10個くらい所狭しと並べられていた。



「まさか家でハンバーグが食えるとはな」



 そんなアネッタの言葉通り、今日はハンバーグを作っていた。


 一応、この世界にもハンバーグはあるそうなのだが、焼くのに時間がかかり、失敗しやすいという点から、割とお高めのレストランなどでしか食べられない高級料理という認識だそうだ。


 カスミ的にはハンバーグは確かに作るのに時間は少しかかるものの、手順はそこまで難しくないので、いずれは一般家庭でも食べられるようになるといいなと思いながら、焼けたハンバーグを皿に盛り付けていった。


 かなり大きめのハンバーグなので、カスミは一個で十分なのだが、ビフレストのメンバーは恐らく2個以上食べたがると思うので、もう5個くらい弱火で焼いておくことにした。


 そうしておけば、恐らく誰かがお代わりに行く頃にちょうどよく焼き上がっているだろう。



「今日のメインはハンバーグです」


「美味そうにゃ!」



 そんなハンバーグを食事スペースに運び終わった頃には、行儀良く全員が席に着いていたので、早速出来立てを皆で口に運んでいった。



「ん、美味いな。 ふわふわでジューシーで、ライスが進む」



 ハンバーグ作りを手伝ったアネッタの言葉通り、しっかり時間をかけて火を通したハンバーグは、肉汁たっぷりのジューシーでかなりの食べ応えがある仕上がりになっていた。

 


「アネッタさんが沢山作ってくれたので、お代わりも沢山ありますよ」


「アネッタが作ったの〜……?」



 この世界では高級料理扱いのハンバーグを、そこまで料理経験がないアネッタが作ったと聞き、フィオが驚きの声を上げた。



「おう。 ……だが、思ったより難しくなかったぞ。 俺一人でも作れそうだった」



 アネッタの言う通り、ハンバーグは極論挽肉さえあれば、それをこねて塩胡椒で味付けをし、手で整形しながらしっかり空気を抜いて焼けば、普通に美味しいものができる。


 特にアネッタは力があるので、こねる作業も成形する作業もあっという間に終わらせてくれ、思ってたよりも早く夕食が始められたので、カスミ的には大助かりだった。



「今はカスミに食事を任せきっているが、この先カスミが家にいないこともあるだろうから、私達もある程度料理をできるようになっておかないとな」



 クリスタの言葉に、ビフレストの面々は強く頷いた。


 ただ、それは追々頑張るとして、今は目の前の美味しいハンバーグを堪能することにしたようで、結局沢山作ったハンバーグはしっかり全て平らげられ、満足感に浸りながら明日に備えて早めに眠りにつくビフレストの面々であった。


 

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