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#37 王都の拠点

 王都の富裕層が住むエリアにその建物はあった。



「中々良いじゃねーか」



 そんなアネッタの言葉通り、そこにはサミアンの街にあるビフレストのパーティーハウスとまではいかないが、十分に豪邸と呼べるくらいの立派な一軒家がカスミ達の王都滞在時の拠点として用意されていた。



「いらっしゃいませ、ビフレストの皆様」



 そして、そこには若い正装を着こなした男性がいて、カスミ達に声をかけてきた。



「私は商業ギルドからの使いでございます。 サミアンの街の商業ギルド長、ジリアムよりこの家の案内をするように言われ、お待ちしておりました」



 その男性は丁寧な言葉遣いでそう言うと、持っていた鍵で家の扉を開け、カスミ達を中へ通してくれた。


 それから一通りリビングや主要な部屋を案内してもらったのだが、6人でも余裕で暮らせそうなくらい中も広々していて、家具などもしっかり揃えてあった。


 そして何より、ビフレストのパーティーハウスよりも綺麗で広いキッチンがあった。



「わぁ、キッチン綺麗ですねっ」


「こう見ると、パーティーハウスのキッチンは6人分の食事作る割には少し狭いかなー?」



 綺麗なキッチンに喜ぶカスミを見て、レネがそう呟く。



「不便はしてないですよ?」


「でも、調味料置く場所とか、材料置く場所もっと広い方が嬉しいでしょ?」


「それはまぁ、広いに越したことはないですね」


「よし、帰ったらパーティーハウスのキッチンを改築しよ!」



 恐らくこのキッチンは、料理をするカスミにジリアムが気を利かせて、綺麗なキッチン付きの物件を用意してくれたのだとは思うが、そのキッチンを見てレネが対抗心を燃やしていた。


 早速勉強も兼ねて、カスミと一緒にキッチンの機能を確認していったのだが、パーティーハウスにある冷蔵庫やオーブンには、中に入れたものの時間が進むタイムシフト機能が付いているが、こちらのものには付いていない。


 なので、その機能を付けてもいいか案内役の男性に聞いたところ、全然構わないとの事だったので、あとでそれらはフィオやレネが付けてくれることになった。



「大変じゃないですか?」


「全然! 機能付けるだけなら10分くらいでできるよ!」


「凄いですっ」



 カスミがそう褒めると、レネは鼻を高くしながらカスミを抱っこして、その場でくるくる回って喜びを表現した。



「では、一通り案内は終わりましたので、私はこれにて。 それと、皆様が来られた事は門で紹介状を見せた門番から王城に既に伝わっておりますので、1時間後くらいに王城から馬車が来ると思います。 それに乗って、王城までお越しくださいとの事です」



 案内役の男性は最後にそう言い残し、この場を後にした。



「わざわざ馬車なんて用意してくれるんですね」


「王の賓客だからな。 外聞を気にしてのことだろう」



 クリスタの言う通り、カスミは王女の誕生日パーティーを任せることになるかもしれない大切な人材なので、王家からしてもしっかりともてなすべき相手なのだ。


 当の一般市民のカスミからすれば、恐縮でしかないのだが。


 その後、1時間ほどのんびりしたり、王家との謁見の時に出す予定の軽食の確認をしたりしていたら、家の前に何かが来た気配がした。



「来たようだな。 いくぞ、カスミ、フィオ」


「はいっ」


「ん〜……」



 準備を済ませたクリスタとカスミとフィオが玄関から外に出ると、家の前に黒塗りの立派な馬車が停まっていた。



「冒険者パーティー、ビフレストのクリスタ様、フィオ様、カスミ様ですね」



 その馬車の前には、とても綺麗な若草色のドレスを身に纏った、10代後半くらいの気品溢れる金髪ロングヘアの少女がいた。



「私はこの国の第一王女、コレントです。 お迎えに上がらせていただきました」


(だ、第一王女様!?)



 まさかの王族自らのお出迎えに、カスミは目を見開いて驚いた。


 てっきり、城勤めの騎士の人や、執事の人が来ると思っていたので、いきなりの王族との邂逅に心拍数が上がってしまう。



「クリスタ様、フィオ様、お久しぶりでございます」


「お久しぶりです、コレント様」


「久々〜……」



 ただ、そんなカスミを横目に、クリスタとフィオはコレントと普通に会話をしていた。



「わざわざコレント様が来てくださるとは」


「ビフレストの皆様は我が国に多大なる貢献をしてくださってますし、何より、大事な妹の誕生日パーティーを盛り上げてくれる方と聞いたら、いてもたってもいられなくて」



 クリスタの言葉に、コレントはちょっと悪戯そうな笑みを浮かべてそう答えた。


 どうやら、コレントも驚かせるだろうなという自覚はあったようだ。



「それで、貴女が話に聞く料理人の方ですね?」


「は、はひ……!」



 そんな中、コレントはカスミにも話を振ってきて、カスミはガチガチに緊張しながらもなんとか返事を返した。



「シクウ様から少女とは聞かされていましたが、本当にそうなのですね。 ふふ、とっても可愛らしいです」


「あ、ありがとうございますっ……!」


「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」



 コレントはカスミにそう言うと、わざわざしゃがみ込んでカスミと目線を合わせながら手を取ってくれた。



「貴女が作ると言う料理、とても楽しみにしていました。 でも、たとえ失敗したり、この話がなかった事になっても、決して貴女を罰したりとかはしないから、安心してください」


「わ、分かりましたっ」


「そういえば、まだお名前を聞いていませんでしたね」


「か、カスミですっ」


「カスミ様、ですね。 ふふ、近くで見るとやっぱりとても可愛らしいです」


(こ、コレント様の方がよっぽど可愛いですぅ……! お姫様オーラが凄いぃ……!)



 カスミからすると、コレントは一般人とかけ離れたオーラのようなものを纏っていて、ふんわりと微笑んでくれている姿は、正しくお姫様。


 女であったら誰しもがお姫様に憧れを持つものだが、実際のお姫様を見てみると、直視するのも憚られるくらい眩しい存在感があった。



「では、早速行きましょうか」



 そんなコレントに連れられ、カスミ達は馬車に乗り込んだ。


 その馬車の中は、柔らかい革素材の椅子が両サイドにあり、とても広々としていた。


 その一角にカスミが腰掛けると、両隣にクリスタとフィオが座ってきて、対面にはコレントが座った。


 そうして全員が腰掛けると、馬車はゆっくりと走り始めた。



(乗り心地良いなぁ)



 カスミのイメージだと、馬車はかなり揺れるものだと思っていたが、この馬車は全く揺れを感じさせず、乗り心地は最高だった。


 というのも、この馬車には揺れを防止する造りと魔法が使われており、乗り心地を良くするためにいろんな工夫がされているのだ。


 その分、値段はかなりのものなのだが、王家が使うとなると、馬車もこのくらいのレベルが求められる。


 王家がみすぼらしい馬車に乗っていては、威厳がないので。



「皆様は話を聞くに、1ヶ月ほどこちらに滞在するのですよね?」


「はい、そのつもりです」



 コレントの質問に、クリスタがそう答える。


 言葉遣いがいつもと違って丁寧なので、よりカッコよさが際立つなぁと、カスミは横で話を聞きながら思ったり。



「でしたら、妹の誕生日パーティーとは別に、ぜひお茶会などでお話をしたいです」


「私は構いませんが、他のメンバー達はあまり貴き方々との交流に慣れていないので、確約はしかねますが……」


「もちろん、無理強いはしません」


「ですが、そうですね…… カスミが作るお菓子などが食べられると言えば、来るかもしれませんね」



 クリスタは隣に座るカスミの頭を撫でながらそんな風に言う。



「そこまでカスミ様の作るものは凄いのですか?」


「はい。 きっとコレント様も、食べたら世界が変わりますよ」


「ち、ちょっと、クリスタさんっ……」



 やたらとハードルを上げるクリスタに、カスミはちょっと慌ててしまう。



「自信を持て、カスミ。 行き過ぎた謙遜は逆に失礼になりかねないぞ?」


「あう…… き、気を付けます」



 クリスタの言う事も一理あると思うカスミではあるが、相手は王族なので、どうしても実際に料理が喜ばれている姿を見ないと、安心はできなさそうだった。


 そんなカスミを乗せた馬車は大通りをゆっくりと進んでいき、やがて城の敷地内へと入っていくのであった。

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