#34 不穏な男
「では、明後日王都にてお待ちしております」
「はいっ」
これから売り出すカスミの調味料やレシピについてだったり、王女の誕生日パーティーについての話がようやく一段落した。
おにぎりなどの試食時間を含めると、2時間くらいは話し込んでいたようで、昼過ぎにここに来たのだが、窓から見える空は少し茜がかっていた。
今回の話し合いを経て、とりあえずカスミが現状力を入れるべきは誕生日パーティーの準備だということは再認識できたので、早速カスミは帰ってパーティーに出す料理やデザートについて考えるつもりだ。
なお、シクウは先に王都に行って、カスミが指定した食材などの準備と、他にも色々と仕事をこなして、カスミが王都に来たら何かと面倒を見てくれるとのこと。
それに対して、色々してもらってばかりで申し訳なく思うカスミだったが、シクウからすればこの先カスミが生み出す利益を考えれば、その程度は何の苦でもないそうだ。
今回の王女の誕生日パーティーも、一見直接的な利益は無いように思えるが、貴族や王族にカスミの作る料理をアピールできるというのは、またとないチャンスなんだとか。
なにせ、この世界はインターネットなどがなく、様々な流行りは貴族から生まれるものなので、カスミの調味料やレシピを販売する際に、こちら側が何もしなくとも勝手に広告塔になってくれるらしい。
その話をしている時は、シクウもジリアムもちょっと悪い顔をしていて、苦笑いが浮かんだカスミだった。
何はともあれ、そんな話し合いも終わったので、カスミ達は部屋を出た。
「おやおや、ジリアム殿。 こちらにいらっしゃいましたか」
すると、待ち構えていたかのように、部屋の前にはでっぷりと太った、沢山の宝石があしらわれた装飾品を身に纏う偉そうな男が、部下を何名か引き連れて立っていた。
「……おや、これはマルズロ様」
その偉そうな男、マルズロに話しかけられたジリアムは、見事な営業スマイルを顔に貼り付け、対応をした。
「どうしましたか? 商談の予定などは入っておりませんし、わざわざこんな奥まった部屋まで」
言葉遣いはとても丁寧なジリアムだったが、先程まで優しい表情で対応してもらっていたカスミには「何アポ無しで来てるんだ。 しかもここは関係者専用の場所だぞ」と、言っているように聞こえた。
(じ、ジリアムさん、表情は笑顔だけど、なんか怖いよぉ……!)
「それが、とても良い儲け話が突然振ってきましてな。 これはぜひジリアム殿にも聞いてもらいたいと思ったのです」
カスミがジリアムの静かな怒りを感じ取ってあわあわしている中、マルズロはそんなジリアムの様子には全く気付かず、自分本位で話を進めていく。
「……分かりました。 では、私の信頼できる部下を呼びますので、あちらの部屋でお待ちください」
「ふむ、私はジリアム殿に話をしに来たのだがね。 ……そこのエルフの者とは話をしていたようだが、私とはできないと?」
(当たり前でしょっ。 アポ無しで話せる程、組織のトップのジリアムさんは暇じゃないよっ。 それに、なんかシクウさんにも嫌な目向けてくる……)
クリスタの後ろに隠れながら、カスミは心の中で自分本位なマルズロにツッコミを入れていた。
「シクウ様とは前々から話すことになっておりましたし、申し訳ありませんが、私はこの後外せない用事がございますので」
「……ふん、まあいいでしょう。 ……おや?」
思い通りにならず、不満そうに鼻を鳴らすマルズロだったが、都合悪く、クリスタの後ろにいるカスミに気付いた。
「おや、そちらの少女は……」
(や、やばいっ、目を付けられた……!)
「こちらの少女はクリスタ様の身内で、一人でお家で留守番させるのは不安だということで同席したんです。 今日の商談はエルフ族についての事を色々と……」
マルズロに目を付けられて慌てたカスミだったが、ジリアムがまるで本当のような話をでっちあげ、しかも別の話題にすぐに切り替えてマルズロの意識をカスミからずらした。
「もう私は行っていいかい?」
「私もそろそろお暇させていただきます」
そして、マルズロの意識をジリアムが逸らしてくれたタイミングで、クリスタとシクウはフェードアウトを図った。
「もちろんです。 シクウ様、クリスタ様、今日はありがとうございました」
ジリアムは話の途中だったが、そう手短にシクウとクリスタに挨拶をし、その後もマルズロと他愛もない話をして注目を惹きつけてくれた。
その隙にカスミ、クリスタ、シクウの3人は足早に商業ギルドを後にし、少し離れた大通りまで出ていった。
「ふぅ、厄介なやつがいたな」
「機転を効かせてくれたジリアムさんに感謝ですね」
マルズロが見えなくなったところで、クリスタとシクウはうんざりとした表情を浮かべながら一息ついた。
「えっと、あの方はどちら様なんでしょう?」
「マルズロさんはアヴァリス商会のトップですね」
カスミの質問に、シクウはそう答えた。
「なんか、シクウさんの事、敵視してませんでした……?」
「おや、よくお気づきで。 どうやらそうみたいなんです。 まぁ、商売敵ですから、仲良くなくて当たり前と言えば当たり前かもしれませんが」
「それでも、あまりに露骨というか……」
「前々から敵視はされていましたが、実は今回カスミさんに任せる王女様の誕生日パーティーを担当する立場を狙っていたようで、色々手を尽くしていたようです。 ……が、王家の方々が私に直接声をかけてきたので、その手間が無駄になり、苛立っていたのかもしれません」
「自業自得じゃないですか……」
カスミがそう言うと、シクウも同じ気持ちだったのか、軽く肩をすくめた。
(でも、シクウさんは向こうのことを別に敵視はしてなさそう…… 一方的に恨まれてる感じなんだね)
「アヴァリス商会は、最近景気が悪いという噂を聞いたな」
カスミがシクウをちょっと気の毒に思っていると、クリスタがそんなことを呟いた。
「よくご存知で。 アヴァリス商会はかなり歴史のある商会で、保有する大きな鉱山から採れる資源で財産を築きました。 しかし、ここ数年で鉱山の資源がかなり減ったようですね」
「そんな急に資源が採れなくなる事なんてあるのか?」
「鉱山資源は有限である以上、断言はできませんが、しっかりと管理していればそうはならないくらい、アヴァリス商会が保有する鉱山は大きいです。 これは推測ですが、無茶な発掘などをしたのではないでしょうか?」
「命じたのは当然トップのマルズロ…… 目先の利益のために、鉱山に問題が起きるまで発掘したのか」
「あくまで推測ですが。 ……先代、先先代のトップはとても優秀な方でしたがねぇ……」
エルフなので百年単位で生きているシクウは、知り合いだったアヴァリス商会の先代達を思い出し、遠い目をしながらそう呟いた。
(シクウさん、それ言外にマルズロが優秀じゃないって言ってませんか……?)
「とりあえず面倒そうだから、カスミ、あいつには近づくなよ」
「分かりましたっ」
クリスタの言葉に、カスミは強く頷いた。
「では、私もこれにて失礼します。 次は王都でお会いしましょう」
「はいっ。 ありがとうございましたっ」
それからシクウとも別れを告げ、カスミは暗くなってきた帰り道を、クリスタと仲良く手を繋いで歩いていくのであった。
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