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#29 メッコ村へ

「お、あれじゃないか?」



 ガリュウに乗っての空の旅が始まってから1時間ほどが経過した頃。


 眼下に人の集落っぽいものが見えてきた。


 恐らく、それがメッコ村なのだろう。



「ガリュウ、もう少し高度を下げてくれるか?」


「グル」



 それからメッコ村のちょうど真上くらいに来たタイミングで、クリスタがガリュウにそう指示をした。


 その指示通り、ガリュウは雲の上くらいの高度からゆっくりと降下していく。



「よし、そのくらいでいいぞ」



 そうして地上との距離が3kmくらいになったタイミングで、クリスタは目を閉じて何かの魔法を使った。



「……よし、これで良いだろう。 ガリュウ、あの村の近くに降りてくれ」


「グルル」


「クリスタさん、何をしてたんですか?」


「私は念話というスキルを持ってて、大体3kmくらいの範囲の人間の頭に直接言葉を送る事ができるんだ。 それであの村の5人くらいに、Sランク冒険者パーティーの者がドラゴンに乗ってその村に降り立つと伝えた」


「なるほど……!」



 ドラゴンが急に人里の近くに現れたら、確実にパニックが起きてしまうだろうという配慮のもと、先にドラゴンが来るぞとアナウンスをしたようだ。



(飛び立った時も、人気のないところでガリュウさん呼んでたもんね)



 それから数分程かけて降下したガリュウは、村の入口らしき場所の近くに降り立った。



「ガリュウ、この辺飛んで待ってろ。 帰る時にはまた笛鳴らす」


「グルゥ」



 そして、ガリュウはカスミ達を降ろすと、また空へと飛び立っていった。



「あっ、貴方達は……!」


「あっ、マキさん!」



 カスミ達がガリュウを見送っていると、村の入口に以前ライスを売ってくれたマキが立っていた。



「さっき念話でマキを呼んで欲しいと頼んでおいたんだ」


「そうだったんですね」



 ちょうどよくマキが来てくれた理由に関しては、クリスタがそう教えてくれた。



「急に村の人からSランク冒険者様がお呼びだって言われて…… 皆さん、Sランク冒険者だったんですね……! 以前は知らずにご無礼な態度を……」


「気にしてないさ。 冒険者の界隈じゃ私らは有名かもしれないが、普通の人からすれば知らないのも当然だ」



 頭を下げてくるマキに、クリスタは気にしてない事を伝えた。

 


「そう言ってもらえると助かります。 でも、ドラゴンに乗ってくるなんて、やっぱり凄いんですね……」



 やはり危険はないと分かっていても、ドラゴンが目の前に来るのは非日常的過ぎたようで、マキと話しているカスミ達の事を、他の村人達が遠目で観察していた。



「それで、今日はどうしてこの村に……?」


「前言った通り、ライスを買いに来ました!」


「ほ、本当ですかっ? ああ、ありがとうございますっ」



 ライスが売れなくなってしまった事がかなり問題となっていたのか、ライスを買いに来たとカスミが言うだけで、マキだけじゃなく後ろで聞き耳を立てていた他の村人達まで笑顔になっていた。

 


「では、こちらへどうぞっ」



 それからマキの案内で村を進んでいくと、木造の倉庫に辿り着いた。


 その中に入ると、袋詰めされたライスが、もうあと少しで倉庫からはみ出てしまいそうなくらい積まれていた。



「凄い量ですね?」


「かなり急にお得意先との契約が切られてしまったせいで、今年収穫した分がほとんど残っちゃったんです……」


「クリスタさん、どれくらい買えますか?」


「別に全部買っても良いぞ? 収納袋も持ってきたから」


「ぜ、全部買ってくださるんですか!?」



 クリスタの全部買ってもいいという発言に、マキが目の色を変えて食いついてきた。


 

「うーん、私も全部買いたい気持ちはあるんですけど…… マキさん、ライスって美味しいんですよ」


「あ、前にも食べるって言ってましたよね。 でも、村の人達に食べるために買う人がいたって言ったら、笑われちゃいました……」


「……分かりました。 私が皆さんにライスの食べ方をお教えします!」



 ライスの原産地であるにも関わらず、ライスの魅力を知らないメッコ村の住人達を見て、ライス大好きなカスミの心に火がついた。



「料理できる場所ってありますか?」


「あ、それなら村の共有厨房があります」



 メッコ村は裕福な村というわけではないので、厨房だったり浴場は大きな施設を一つ作り、そこを村人達で共有しているようだ。


 そんな共有厨房に案内してもらったカスミは、先程の倉庫にあったライスをとぎ、厨房にあった土鍋を何個か借りて、ライスを炊き始めた。


 ちなみにこの様子は、マキを始め村人の半数ほどが見学しに来ていた。



「こうして水につけて熱する事で、ライスは柔らかくなって食べられるようになります」


「そんな方法が……」


「でも、このままではあんまり味がないです。 なので、ライスに合うおかずを作ったり、工夫して食べたりします」



 丁度時間も昼食時だったので、村人達にも協力してもらい、ライスに合うおかずとして、バイソン肉のステーキを焼いてもらった。


 バイソン肉はカスミが知るところの牛肉に似た魔物の肉で、とても安価で美味しい肉として、この世界では一番人気で普及している肉だ。


 なお、味付けはいつも村人が食べている、塩、胡椒のみとなっている。


 ここでカスミが持っている調味料を使ってしまうと、ライスよりそっちに目がいってしまい、変にカスミが目立ちすぎてしまうかもしれないので。


 ……ライスを調理する可愛らしい少女がいるという時点で、大層目立ってしまってはいるのだが。



「よし、そろそろですね!」



 ライスを炊き始めてから1時間近くが経過した頃。


 カスミが土鍋の蓋を開けると、そこには見事にふっくらと炊き上がったライスがあり、カスミにとっては良い匂いが辺りに広がっていく。


 そんな膨らんだライスを見て、村人達は興味深そうな表情を浮かべていた。


 それからカスミは、村人達のためにせっせと共有厨房にあったお椀にライスを盛り、バイソン肉のカットステーキも皿に盛り付けていった。


 そうして盛り付けも済んだら、集まってきた村人達を共有厨房の前にある食事スペースに座らせ、ライスとバイソン肉のステーキを配膳していった。



「では、お肉と一緒に食べてみてください!」



 カスミが高らかにそう言うと、村人達は「本当に大丈夫かな?」みたいな表情をしつつも、不味くはなさそうだったので、バイソン肉のステーキと一緒にライスを口に運んでいった。



「おお!? こ、これ美味いぞ!」


「肉とめちゃくちゃ合ってる!」



 すると、バイソン肉の野生味あふれる強い旨みがライスと合わさることで新たな美食へと変化し、カットステーキ一切れ飲み込む間に何度もライスを口に入れたくなってしまうくらい、最高の噛み合わせを見せていた。



「美味しい……! 本当にライスって食べられるんですねっ」



 もちろん、その場にはマキも居て、ライスが美味しいという事象にとても驚いていた。

 


「お肉やお魚を使ったおかずには大体合いますよ」


「凄い……!」


「お腹にも溜まりますから、ぜひライスはこの村の食料としても残して欲しいですし、この先も育てて欲しいです」


「確かに、食料も最近は満足に買えないくらいお金がなかったんですけど、ライスならいくらでもありますから、食費が浮きますっ」


「あと他の食べ方として、こんなのもありますよ」



 そう言ってカスミは、収納袋からカスミとクリスタ、アネッタ用に用意してきたお弁当箱を取り出し、蓋を開けた。



「これ、何ですか? ライスが黒いものに巻かれてる……?」


「これはおにぎりと言って、その名の通りライスを三角だったり俵形に握ったものです。 黒いものは海苔という海藻を加工したものですね。 アネッタさん、どうぞ」


「お、腹減ってたんだ、助かる。 ……ん! これ美味いな! 中に入ってるの、これなんだ?」



 おにぎりの美味しさを伝えるために、カスミはアネッタにおにぎりを一つ渡して食べてもらった。



「焼いたサーモンに塩を振って解したものを詰めてます。 こんな感じで、中に何かおかずを入れてもいいですし、海苔とか中に何も入れたりしなくても、塩を振っただけのおにぎりも全然美味しいですよ」


「これは嵩張らないし腹にも溜まるから、携帯食としてとても良さそうだな」



 クリスタの言う通り、この世界の携帯食は、乾パンや干し肉くらいしか現状ない。


 だが、それらに比べておにぎりは、美味しいしお腹に溜まるので、携帯食としてはうってつけだろう。



「これらのライスを使ったレシピを商業ギルドにこれからどんどん登録していくつもりなので、ライスの需要もきっと高まると思います」



 カスミがそう言うと、村人達の表情はとても明るくなった。


 不要在庫になりかけていたライスが、これまで以上に売れるかもしれないと聞けば、それも無理はないだろう。



「カスミちゃん……! いや、カスミ様っ!」



 そんな中、マキがカスミの事をなぜか様付けで呼び出した。

 


「さ、様っ?」


「ありがとうございますっ! 村の存続も危ぶまれてた中、私達の作るライスにこんな価値を見出してくれて……! あの市場で会えたのは本当に奇跡で運命でした……!」


「ま、マキさん?」


「カスミ様はこの村の救世主、女神様です……! そう思いますよね、皆さんっ!」


「ああ、間違いねぇ!」


「女神様ばんざーい!」


「「「ばんざーい!!」」」


「ちょちょちょっ……! 辞めてくださいっ、私は普通の……」


「「「女神様ばんざーい! 女神様ばんざーい!」」」


「あぁぁ……」



 女神なんかじゃないよと否定しようとしたカスミだったが、村人達の盛り上がりにあっさりとかき消されてしまった。


 この瞬間、メッコ村を始め、ライスの売れ残りで危機に陥っていた村々に長く語り継がれる事となる、ライスの女神が誕生したのであった。

 

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