#30 収穫と別のライス
メッコ村での昼食を兼ねたライスの試食会から少し時が経ち、カスミはライスを育てている畑を見学させてもらっていた。
「女神様、こちらです!」
「女神じゃないですっ」
そこでも変わらずカスミ達を案内してくれているマキだったが、先程からマキはカスミの事を女神様と呼ぶようになっていた。
カスミはその都度女神じゃないと言っているのだが、中々聞いてもらえない。
「でも、私にとっては女神様ですし……」
「……百歩譲ってそう思ってくれるのは良いですが、呼び方は戻してくださいっ」
「えぇー……」
「崇められるより、私はマキさんとお友達になりたいです」
「でも、私なんて女神様に比べたら……」
「女神様じゃないですっ」
女神と呼ばれたらカスミは即座に否定をするので、流石にマキも少したじたじになってしまう。
「あう…… か、カスミちゃんに比べたら、何の取り柄も無いですし……」
「何ができるできないで人の価値は決まりませんよ。 その人ができる事を一生懸命やってたら、その人は凄いんです。 誰かと比べるものじゃ無いです」
「あぁ…… そんな嬉しい事を言ってくださるなんて、やっぱり女神様……!」
「だから、女神じゃないですっ!」
うがー! と、目を吊り上げながら、その後もマキが女神と呼ぶたびにカスミは否定した事で、何とか女神呼びが定着する事は防ぐことができた。
「ふふ、楽しそうだな」
そんなカスミを横で見ていたクリスタは、他人事のようにクスクスと笑っていた。
「笑ってないでクリスタさんも助けてくださいよぉ……」
「良いじゃないか、女神でも。 カスミはこの村の人にとってそう思われて然るべき事をしたんだ」
「絶対嫌ですっ」
(私が持ってる知識なんて、お菓子作り以外は地球人の誰でも知ってるような事ばかりだから、それを私の手柄みたいにされて崇められるのはこそばゆいっ)
カスミのマインドはいたって普通の一般人なので、誰かから崇拝されるなんて事は嬉しいよりも恐縮の方が勝ってしまうのだ。
「めが…… カスミちゃん、着きましたよ」
「わぁ、広いですね」
そんな呼び方論争で一悶着あったが、ひとまず目的地である畑に辿り着いた。
そこでは収穫しきれていなかったライスを、村人達が張り切って収穫していた。
「ライスが売れないから、収穫作業も皆んな億劫になっちゃって、中々進んでなかったんですけど、カスミちゃんのおかげで皆んな楽しそうに収穫してる!」
「それでも大変そうですね」
「ふむ…… 根本から切れば良いんだな? マキ、村人達を畑から一度上がらせてもらって良いか?」
「えっ? わ、分かりました。 おーい! 皆んなー!」
クリスタに言われた通り、マキは収穫作業をしていた村人達に呼びかけ、畑から上がらせた。
「クリスタさん、何するんですか?」
「まぁ、見てれば分かる。 『ウィンドカッター』」
カスミの問いかけにそう答えたクリスタは、風の刃を作り出す魔法を発動させた。
すると、一面の畑に生えていた稲穂が、綺麗に根本からバッサリと一気に全て刈り取られた。
さらに、宙に浮いた稲穂は、風を生み出す魔法でそのまま浮かせ、村人達が稲穂を置いていたスペースに運ばれていった。
「こんなものか」
「「「おおーーっ!!」」」
その見事な収穫方法に、村人達は歓声を上げながらクリスタに拍手を送った。
「クリスタさん、凄いです!」
「ふふ、やろうと思えばできるものだな」
そうして時間のかかる収穫作業がクリスタの手によって一瞬で終わったので、村人達は感謝しながら稲穂をまとめたり干したりする作業に取り掛かっていった。
この作業はカスミにもできそうだったので、村人達に混ざって少し体験させてもらった。
「あれ、そういえば、もうお一方の龍人の方は……?」
「ああ、アネッタなら魔物の匂いがするって言ってあっちの林に入っていったぞ」
マキの質問に答えたクリスタの言う通り、昼食を終えたタイミングでアネッタとは別行動を取っている。
クリスタ曰く、ここ数日戦っていなかったから、魔物の気配を感じて戦闘衝動が湧いてきたのだろうとの事。
「すみませーん、女神様。 ちょっと聞きたいことが」
「女神じゃないですっ。 ……なんですか?」
それからカスミが黙々と稲穂を縄で束にまとめる作業をしていると、村人の一人が声をかけてきた。
「実はうちの村のライスは、より家畜が食いつきやすくなるように改良したりもしてるんですけど、その中でちょっと変わったライスがいくつかあって、女神様なら知ってるかなって」
「そうなんですね、見てみたいです。 ……あと、女神じゃないですからっ」
何だかもう女神があだ名みたいになってきたことにゲンナリしつつ、カスミはライスの品種改良をしているという小屋に向かった。
「こいつらですね。 試しにさっき教えてもらったやり方で炊いてみました」
そこには、二つの土鍋の中に炊き上げられた、先程食べたライスとは別の姿をしたライスがあった。
「あ、こっちは玄米ですね」
その二つの内の片方は、見ただけで何かすぐに分かった。
「精米…… あー、こっちではお掃除でしたか。 その工程で皮や胚芽を残したものでしたかね?」
「おお、流石詳しいですね」
「玄米も普通に同じ調理法で食べられますよ。 何なら栄養素は玄米の方が断然高いです。 食感や味は白いライスに軍配が上がりますけど」
玄米も若干残っている独特な風味と、硬めの食感さえ気にならなければ、とても美味しく食べられる。
ちなみにカスミは硬めの米が好きなタイプなので、玄米も普通に好きだったりする。
「そしたらこっちはどうです?」
「これは…… 見た目は普通のライスですけど……」
そして、もう片方の土鍋に入っていたのは、一見すると普通の白いライス。
「あ、もしかして…… 粒の状態のものってありますか?」
「ああ、これです」
ただ、少し違和感を感じたカスミ、村人に頼んで炊き上げられる前の粒の状態のものを見せてもらった。
ただ、それも一見普通のライスのように見えたが、若干普通のものよりも白くて、不透明な色をしていた。
「多分これは餅米…… こっち流で言うと餅ライスですかね?」
「餅ライス、ですか?」
「そうですね…… 何かすりこぎみたいなものとかないですか?」
「ああ、ありますよ」
普通のライスとの違いを見せるため、カスミはお椀に炊き上げられた餅ライスを少し盛り、すりこぎでそれを時折水を足しながら潰していった。
「こんな感じで潰して一纏めになったものを、餅って言うんです」
「おお、綺麗に一つになってますね」
「普通のライスじゃここまで綺麗に一つにはなりません。 そしたら、こうして……」
それから綺麗にまとまった餅に、カスミは収納袋から砂糖を取り出し、少し餅に加えて、馴染ませるようにすりこぎでこねていく。
「塩でも食べれると思いますが、砂糖をかけても美味しいですよ。 はい、どうぞ」
そう言ってカスミは、村人とクリスタに団子状に丸めた餅を渡して食べてもらった。
「おっ、柔らかいな! これは美味い!」
「ほのかな甘さで良いなこれは。 小腹が空いた時にちょうど良さそうだ」
そんな餅を食べた村人とクリスタは、そのもちもちとした食感を楽しみながら、それぞれそんな風な感想を述べた。
(本当は醤油を付けて海苔で巻いて食べたいけど、醤油は今出せないからなぁ。 まぁ、砂糖だけでもつき立てってだけで凄い美味しい)
「こちらの二つは余ってますか?」
「ああ、何袋か分くらいはありますよ」
「じゃあ、それも買わせてください。 余裕があれば、これらも量産してくれると嬉しいです!」
「了解です。 相談してみますわ」
ひょんなことから新たな食材まで確保できたカスミは、ウキウキ気分で小屋を出た。
その後は正式にライスを買わせてもらい、それらを収納袋に詰めていく作業をしていたら、その途中で近くの魔物を倒しに行っていたアネッタが戻ってきた。
そんなアネッタは、なんとこの辺の魔物のヌシだという、グレートボアという大きな猪の魔物を担いで帰ってきて、村人達に非常に感謝されたり、解体したグレートボアの肉も今回のお礼として分けてもらったりと、賑やかな時間が過ぎていった。
そして、そろそろ日も沈もうかというタイミングで、カスミ達はパーティーハウスへと帰る事となった。
「カスミちゃん、もう行っちゃうんですね……」
「そんな顔しないでください、マキさん。 またライスを買いたくなったら来ますし、なんならこっちに遊びに来てください。 いつでも歓迎しますよ」
「……はいっ! 必ず行きます!」
短い時間だったが、マキを始め気の良いメッコ村の住人達との別れを惜しんだカスミは、アネッタが呼んだガリュウの背に乗り込み、飛び立っていく。
「皆さん、お元気でー!」
「「「女神様、ありがとうーー!!」」」
「だから、女神じゃないですー!!!」
最後はそんな風に、もはやお約束みたいになったやり取りを村人達としてから、カスミはサミアンの街へと帰るのであった。
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