#153 風邪を引いちゃった②
「ん……」
窓から差し込む光が茜色に染まり始めた頃。
風邪を引いて寝込んでいたカスミは、ふと目を覚ました。
「おっ、起きたか?」
「クルルー?」
「アネッタさん…… ガリュウさんも……」
そんなカスミに声をかけてきたのは、ベッドの横の椅子に座って静かに愛用の籠手の手入れをしていたアネッタと、カスミのすぐ横で寝そべっていたガリュウだった。
「体調はどうだ?」
「んー…… まだ少し体が重いですね…… でも、そんなに辛くはないです……」
「そうか」
風邪を引くと、自覚症状が出てすぐが結構キツかったりするのだが、今回カスミはクリスタに眠りを促す魔法をかけてもらったおかげで、そのキツい時間をスキップすることができていた。
ただ、熱はまだあるようで、倦怠感と寒気、あと関節や頭の痛さに襲われていた。
「クルゥ……」
そんなカスミの顔を、心配そうな雰囲気を醸し出しながらガリュウが覗き込んでいった。
「ふふ…… 大丈夫ですよ、ガリュウさん…… それより、そんな近くにいて移りませんか……?」
「クル!」
「ドラゴンに人間の病原菌は効かないから大丈夫だ。 俺も他の奴らも長く生きて体が強くなってるから、風邪とかにはならないぞ」
「そうですか……」
「カスミ、食欲はあるか?」
「うーん…… あんまり無いですけど、ちょっとは食べないとですよね……」
「そうだな。 それじゃあ、他の奴らと相談して何か作ってくる。 少し待っててくれ」
「分かりました……」
「ガリュウ、カスミを頼むぞ」
「クルル!」
そう言ってガリュウをカスミの見守りに残し、アネッタは一度カスミの部屋を後にした。
「お、交代にゃ?」
それからアネッタがリビングに行くと、ローニャが声をかけてきた。
「いや、カスミが起きたんだ」
「どうだったにゃ?」
「まだ熱はあるみたいだな。 まぁ、普通に会話はできるから、めちゃくちゃ酷い訳では無さそうだ」
「それは良かったにゃー」
「んで、カスミに何か食わせてやりたいんだが……」
「それなら、前にカスミが作ったお粥を作ろう」
以前カスミは、普通に食事として肉や野菜を入れたお粥を作ったことがある。
そこで味付けをもっとマイルドにしたら、病人食になると言っていたことをクリスタは覚えていたので、お粥を作ってみることにした。
「私も手伝うー!」
「私も〜……」
「ローニャも!」
「じゃあ俺も」
「いや、ライスを水で煮込むだけだから、そんな人手はいらないと思うが……」
すると、全員がカスミに何かをしてあげたいという想いから手伝いを申し出てきたので、ライスを研ぐ者、鍋で湯を沸かす者、少量の塩と和風出汁で調味する者、ライスを入れて軽くかき混ぜる者、出来上がったものを味見して器によそう者に分かれてお粥を作っていった。
むしろ5人に分かれて作ったせいで、1人で作るのに比べて少し時間はかかってしまったが、5人分の気持ちはたっぷり込められたお粥が無事完成した。
「カスミ、入るぞ?」
「はい…… あ、皆さん……」
そんなお粥なので、折角なら全員で持っていくかということになり、結果的にカスミの部屋にビフレストの面々が全員集まることとなった。
「皆んなでお粥を作ってみたんだ。 食べられそうか?」
「はい…… ありがとうございます……」
食欲は正直あまり無いカスミだったが、皆でわざわざ作ってくれたお粥は何としてでも食べたかったので、ゆっくり体を起こそうとした。
「カスミ、体起こすにゃー」
「ありがとうございます、ローニャさん……」
「いえいえにゃー。 そしたら、このままもたれるにゃ」
体が重そうなカスミを見かねて、ローニャが優しくカスミのことを抱き起こしながら、ベッドサイドに座らせ、そのままカスミを後ろから抱くようにして背もたれになってあげた。
その間に、ベッドサイドに置かれたテーブルをカスミの前まで移動させ、その上にお粥とスプーンを置いた。
「美味しそうですね……」
「よーし、そしたら私が食べさせてあげる!」
レネはそう言うと、カスミの横に座って、出来立てで湯気を立てているお粥をスプーンで掬い、ふーふーと息で冷ましてからカスミの口元に運んでいった。
「ん…… あぁ、美味しいです……!」
「よかったー!」
レネが食べさせてくれたお粥は、仄かな塩気と出汁の風味が丁度よく、出来立てなのもあり、しっかりと体の内側から温めてくれた。
「私もカスミちゃんにあーんする〜……」
さらに、今度はレネと反対側の隣にフィオが座ってきて、レネと同じようにカスミにお粥をあーんしてきた。
普段の元気な状態だったらこんな風にあーんで食べさせてもらうことはまぁ無いだろうが、色々と弱っているからか、恥ずかしさよりも嬉しさとありがたさの方が勝ったようで、その後もカスミは運ばれてくるお粥をパクパクもぐもぐと食べ進めていった。
「まだいけるか?」
「はい…… 全部食べられそうです……」
「しっかり噛んで食べるにゃー!」
「無理しなくていいからな」
そして、いつの間にかメンバー達の位置が変わって、ローニャ、アネッタ、クリスタにもそれぞれあーんで食べさせてもらった。
カスミはお粥に集中していて気付いていなかったが、もきゅもきゅと小動物のようにお粥を頬張るカスミを、他のビフレストの面々は我が子を見るかのような優しげな表情で見つめていた。
「ふぅ…… ごちそうさまでした……」
そして、それなりに時間はかかったが、カスミは用意されたお粥を完食し、満足気な表情を浮かべた。
「とっても美味しかったです…… 皆さん、ありがとうございました……」
「それは良かった。 そうしたら、また眠りの魔法を……」
そんなカスミを再びベッドに寝かせたクリスタは、眠りの魔法をかけようとした。
「あっ、クリスタさんっ……」
「うん?」
「その…… まだ皆さんとお話してたいです……」
だが、お粥を作ってくれたり、食べさせてくれたりしてもらって、嬉しさから気持ちが高まっていたカスミは、ビフレストの皆とまだ一緒にいたくなってしまい、クリスタに小さな声でそう口にした。
「……ふふ、そうか。 もちろんいいぞ」
「ありがとうございますっ……!」
その後、カスミはビフレストの仲間達と他愛もない話をして、心温まる時間を過ごしていった。
そして、30分ほどすると、お腹や心が満たされたこともあってか、自然な眠気が襲ってきて、それを確認したメンバー達に代わる代わる頭を撫でられたことで、カスミはゆっくりと眠りに落ちていった。
そんな一日が過ぎ、カスミが次に目を覚ました時には、熱や症状は治っていた。
ただ、過保護なビフレストの面々によって、それから3日間は家事全般を禁じられ、強制的にお休みさせられるカスミなのであった。
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