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#149 スカーレットに夕食を

「おや、気付けばもうこんな時間か」


「そうですね」



 昼過ぎくらいにスカーレットが来てから、リビングでのんびりしたり、庭に出て少し散歩をしながら色々と話をしていたら、空がもうかなり暗くなっていた。



「そうしたら、そろそろお暇しようか」


「もしまだ余裕があるなら、少し早めですけど夕食も用意できますよ?」


「ほう、それはかなり惹かれるが、いいのか?」


「はい。 もしかしたらそうなるかもと思って、ちょっと多めに仕込んでおいたので」


「それなら、お言葉に甘えていただこうかな」


「お任せください」



 夕食にはまだ少し早い時間なので、ビフレストの面々の分はまた後で作ることにし、ひとまずカスミはスカーレットのために、一人分の夕食を作ることになった。



「ここ最近肉料理が多かったので、今日は魚料理なんですけど、大丈夫ですか?」


「ああ、任せるよ」



 スカーレットは魚料理に忌避感などは無いようなので、カスミはキッチンに移動して、仕込んでおいたものや他にも使う食材を用意し始めた。



「見ててもいいか?」


「はい、大丈夫ですよ」



 そんな様子を、スカーレットはキッチンの前のカウンター席に座って見物することにしたようだ。



「帝国はほとんど海に面していないから、魚料理はあまり食べてこなかったな」


「そうなんですね」


「ああ。 ちなみに、その魚はなんの魚だ?」


「こちらはアジという魚ですね」



 カスミが取り出したのは、丸々と肥えたアジで、カスミはそれをサクサクと3枚に下ろしていく。



「見事な手際だな。 魚を捌くのは難しいと聞くが」


「ある程度のコツを掴めば簡単ですよ。 私からしたら、魔物を解体する方が凄いと思います」



 基本的に魔物の解体は、冒険者ギルドに隣接している解体場で職員が行ったり、解体してもらうのにも少額だがお金がかかるので、それを防ぐために自ら解体をする冒険者もいるそうだ。


 カスミ的には、両手に収まる魚を捌くのなんかより、人間より遥かに大きいオークやバイソンといった魔物を解体する方が断然大変だと思ってるので、もし機会があればやってみたいという気持ちもある。


 今の非力な少女の体では難しいかもしれないが。


 それはさておき、カスミは捌いたアジの小骨を取り、食べやすいサイズに切ったら、片栗粉を塗してフライパンで揚げ焼きにし始めた。


 揚げ焼きは焦げやすいので、弱火〜中火の間くらいで注意しながら焼いていき、火が通ったらフライパンから取り出していく。


 そして、あらかじめ仕込んでおいた、何かが入ったちょっと大きめの容器を取り出した。



「それはなんだ?」


「酸味のある調味液に、切った玉ねぎとにんじんを入れたものですね」



 その容器には、酢や砂糖、和風出汁などを混ぜ合わせて作った調味液に、薄切りにした玉ねぎと千切りしたにんじんが混ぜ込まれており、カスミはそこへ先程揚げ焼きしたアジを入れていった。



「あとはこれを10分ほど漬け込めば、南蛮漬けの完成です」


「あんまり味の想像がつかないな?」


「食べたことはない味かもしれませんね。 でも、美味しいですよ」



 そんな南蛮漬けは冷やしても美味しいので、ラップをして冷蔵庫にしまっておき、味が染みる間に味噌汁と小松菜と鰹節を白だしで和えたサラダを作っておく。



「そろそろ良いですかね」



 そうして、味噌汁とサラダが完成した頃には南蛮漬けもいい感じになったので、それぞれ皿に盛り付け、ライスを盛り、それらをスカーレットの前に並べていった。



「美味しそうだ。 なかなかこういった家庭料理を食べる機会が無いからありがたい」



 スカーレットは並べられた料理を見てそう感想を漏らすと、まずはアジの南蛮漬けから口に運んでいった。



「おおっ、強い酸味があるが、決して嫌なものじゃない…… むしろその酸味のおかげでとても食べやすいな。 魚の旨みも引き立っている」



 スカーレットの言う通り、アジ本来の旨みが南蛮漬けにしたことによってより引き立っており、肉厚で食べ応えがあるのにどんどん次が欲しくなってしまうような、そんな美味しさがあった。



「カスミ、この横の白い粒はなんだ?」


「あっ、すみません、いつもの癖で出しちゃってましたけど、それはライスなんです」


「ライス? 家畜の餌のか?」



 完全に流れで出してしまっていたが、スカーレットを始め、帝国ではまだライスを食べる習慣が無く、スカーレットは白い湯気を立てるライスを不思議そうな目で見つめていた。



「もし忌避感があるようなら食べなくても大丈夫ですっ」


「いや、カスミが出すなら美味しいんだろう。 いただくよ」


「でしたら、南蛮漬けと一緒に食べてみてください」



 そんなスカーレットは、せっかく出されたのだからと、ライスに挑戦してみることにしたようで、カスミに言われた通り南蛮漬けと一緒に口に運んでいった。



「んっ、これは…… 美味だな。 ライス自体にほとんど味はないが…… なるほど、濃い味の主菜と合わせて食べるものなんだな」



 すると、スカーレットの口の中で、ライスの仄かな甘みと南蛮漬けの旨みが合わさり、なんとも言えない幸福感のようなものが生まれた。


 そして、早くもライスの美味しさと役割に気付いたスカーレットは、南蛮漬けとライスの後に味噌汁を飲んで、その後味の良さにも驚いてくれた。


 結局、スカーレットは出された一人分の食事を割とすぐに平らげ、満足そうな表情を浮かべながら一息ついた。



「ふぅ、美味しかったよ、カスミ」


「それは良かったです。 まだおかわりありますよ?」


「いや、私も歳だからな。 若い頃のように腹を満たすと体に良くないから、この辺にしておくよ」


「そうですか。 でも、そんなこと気にしないでいいくらいスカーレット様はお綺麗ですよ」


「ふふ、カスミの賛辞は貴族共のものとは違って裏がないから素直に嬉しいよ」



 スカーレットはそんな風に言ってカスミに笑いかけつつ、カスミと食休めとして少し話をし、それも一段落したところで帰りの準備を整えていった。



「ではな、カスミ。 とても有意義な時間だったよ」


「私もです」


「もしまた帝国に来ることがあれば報せてくれ。 歓迎するよ」


「ありがとうございます!」


「……そうだ、最後に一つ、頼みがあるんだが」


「なんでしょう?」


「抱っこさせてくれないか?」


「へっ?」



 思いもしてなかったスカーラとの頼みに、カスミは思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。


「私は子供を産めない体質だが、子供は好きなんだ。 ただ、他所の子供を私が抱くのは色々問題があるからなかなかできなくてな」


「な、なるほど?」


「カスミは可愛いし、他の貴族共の目にも留まらない今ならいいと思うんだが、どうだ?」


「ち、ちょっと恥ずかしいですけど、いいですよ……」


「そうか、ありがとう」



 スカーレットはそう礼を言うと、ひょいっと軽々カスミをお姫様抱っこした。


 やはり元々冒険者というだけあって、かなり力はあるようだ。



「ふふ、可愛いな、カスミは」


「あ、ありがとうございます……」


「このまま持って帰りたくなってしまうが、そんなことをしたらビフレストの者達の怒りを買うだろうな」


「ま、まぁ、そうですね」


「後継を見つけて退位し、余裕ができたら、先程話した学校の教師にでもなって、子供達を導くのもいいかもしれないな」


「いいと思いますっ」



 そんな他愛もない会話をカスミはスカーレットに抱っこされながら少しし、5分ほどである程度満足したのか、スカーレットはカスミを地面に降ろしてくれた。



「ふぅ、なんだか心が満たされたよ。 では、今度こそまたな、カスミ」


「はいっ、お気をつけて」


「ああ。 また会ったら、その時も良ければ抱っこさせてくれ」


「えっ、わ、分かりましたっ」



 どうやらスカーレットは思いの外カスミを抱っこするのを気に入ったようで、なんだかツヤツヤした様子で迎えの馬車に乗り込んでいった。


 カスミはそれを見送りつつ、ビフレストの面々以外にも抱っこ好きが増えてしまったなと、苦笑いを浮かべるのであった。

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