#144 甘くとろけるチョコレート
「ああ、本当に美味だった。 食事でこんなにも満足感を得られたのは久方ぶりだ」
会談終わりの昼食を食べ終えたスカーレットは、その言葉通り満足げな表情を浮かべてくれていた。
「デザートの方も用意していますが、いかがなさいましょう?」
「ほう、カスミが作ったのか?」
「はい。 私の本業はスイーツ作りなので、デザートは全て私が作らせていただきました」
「それは俄然期待が高まってしまうな。 私はすぐ食べられるが、ナステリア王、ラテルハルト皇はどうだろうか?」
「構わないよ」
「カスミ様の作るデザート、楽しみですな」
ダスロウとフォルネンも腹の空き具合に問題はないようだったので、そのままデザートも出すことになった。
なので、カスミは食堂から厨房に繋がる扉を開け、そこに設置してあった冷蔵庫からデザートを取り出し、ワゴンに乗せて3名の王の下へ運んでいった。
「これは…… とても美しいケーキだな」
「相変わらず素晴らしい出来栄えだな」
「ケーキの周りに置かれているものも気になりますな」
運ばれてきたのは、茶色のクリームがふんだんにあしらわれたケーキと、その周りに衛星のように並べられている、黒、茶色、白色の何かが載った皿だった。
「こちらはチョコレートケーキになります。 周りに並べられたものは、それぞれビターチョコレート、ミルクチョコレート、ホワイトチョコレートというものです」
そう、今回カスミが用意したデザートは、先日作り上げたチョコレートを使ったケーキだった。
その時作ったのはビター寄りのチョコレートだったが、あれからフィオやビフレストの面々と協力して、ミルクチョコレートとホワイトチョコレートも作ってみた。
ミルクチョコレートは味付けのタイミングで粉糖や粉乳を加えるだけで良いので簡単だったがホワイトチョコレートはカカオ豆に含まれるカカオバターを抽出しなければいけなかったので、少し工夫が必要だった。
とは言っても、抽出に関してはフィオが重力を操る魔法でカカオニブを圧縮してカカオバターを搾り出してくれたので、割とあっさり手に入った。
そこから砂糖の量などで味を整えたりする方が時間がかかったりした。
「では、早速ケーキからいただこうか」
皿に載せられたケーキとチョコレートの美しさを目で楽しんだスカーレットは、満を持してチョコレートケーキをフォークで切り、口に運んでいった。
「ん、んんっ……♡!? な、なんだこれはっ……!」
それからスカーレットの口に広がったのは、これまで食べてきたケーキは何だったのかと思う程の美味しさ。
それはチョコレート特有のビターな香りと味だったり、クリームや生地に使われている牛乳や卵が生み出す自然な甘みと、それをアシストする砂糖の程よい甘さが見事に調和したことで生まれた美味しさだった。
「カスミ、其方は…… 本当に凄いなっ。 こんなデザートが作れるなんて」
ここまでは一国の王として、余裕のある態度を見せていたスカーレットも、このケーキには興奮を隠せなかったようで、語気強めにカスミのことを褒め称えてくれた。
「お褒めいただき、光栄です」
「以前食べたケーキも素晴らしかったが、これもまた素晴らしい。 甘さが控えめな分、こちらの方が私は好みかもしれない」
「話には聞いていましたが、ここまでとは。 この歳になって甘いものは受け付けなくなってきてしまったのですが、こちらのケーキはくどくなくて食べやすいです」
ダスロウとフォルネンもカスミのケーキをとても美味しそうに頬張ってくれ、その顔を見るだけでカスミはもうこれ以上無いくらい満たされていた。
「このケーキの周りにあるチョコレートも食べていいんだろうか?」
「もちろんです。 今回チョコレートケーキには黒と茶色のものを主に使ってます」
「では黒いものから…… おお、苦いが決して嫌なものではなく、後からくる甘みが丁度いい。 この状態でも非常に美味だな」
ケーキの周りに並べられたビターチョコレートを食べたスカーレットは、そのような感想を漏らした。
それから紅茶を合間に挟みつつ、ミルクチョコレートとホワイトチョコレートも続けて口に運んでいく。
「茶色のものは黒いものより甘めでクリーミーな感じがするな。 ……おお、白いのはさらに甘く、より口溶けが良い。 どれも最高に美味なことには変わりない、素晴らしい品だ」
ミルクチョコレートもホワイトチョコレートも、スカーレットは大層気に入ってくれたようで、口の中に残る風味と甘味をしばし楽しみ、残りのケーキも味わいながらしっかり全て平らげてくれた。
「ふぅ…… なんと満足のいく食事だっただろうか。 メインだけでも驚かされたのに、デザートはもう言葉で言い表せないくらいの驚きだった。 カスミ、其方に最大限の感謝と賛辞を送ろう」
「恐縮です」
「其方の料理は、王国や教国ではもう普及しているのか?」
「王国では王都や一部の街ではかなり広まってきている。 小規模な村や集落にもそう遠くないうちに広まるだろう」
「教国はまだ王国ほど広まってはおりませんが、特産品の小麦を使った料理は市井でもかなり噂になっているようです」
「そうか…… ならば、帝国もその後に続こう」
「でしたら、ぜひデラフト商会にお話をしてみてください。 私の携わったレシピや商品はデラフト商会が主体となって扱ってますので」
「分かった。 それでは昼食はこれで一段落としよう。 カスミ、其方とは個人的にもっと話をしたいから、後日またここに招かせてくれ」
「はい、喜んで」
そうしてカスミの仕事だった昼食は大成功と言っていい終わりを迎え、一安心しながらカスミは世話になった挨拶をしに帝城の厨房へと向かうのであった。
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