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#143 三国会談

 この世界でも大国に分類され、ヒト族が人口の大半を占める3国のトップによる会談が、帝国の城内にある広い会議室で行われていた。


 その会議室の中には、三国のトップと、それを補佐する者が一人か二人いるのみだ。


 さらに、会議室の中央に置かれた大きな円卓に着いているのは、ナステリア王国の王、ダスロウ、宗教国家ラテルハルトの教皇、フォルネン、そして今回の会談の開催国でもある、帝都の名と同じ国名を持つ、ペアスピア帝国の皇帝、スカーレットの3名のみだった。


 スカーレット…… 正式にはスカーレット・イラ・ペアスピアは、名前から察せるように女性であり、歳は40を超えているはずだが、真っ直ぐに伸びた背筋に美しい顔立ち、そして腰まであろうかという乱れ一つ無い赤髪を携えており、少なく見積もっても30代前半、人によっては20代にも見えるような美しい女帝だった。



「さて、各国の魔物被害についてだが……」



 そんなスカーレットは、よく通るハスキーな声で問題を提起し、それぞれどういう対策をしていくのか、協力はできそうかなどといった話し合いを主導して行っていった。


 魔物や盗賊による被害、周辺国との情勢、魔法技術の進展についてなど、話すことには限りがなく、会談が午前中に始まってからあっという間に数時間が経過し、現在時刻は正午を回っていた。



「大分話し込んでしまったな。 お二方とも、疲労はないか?」



 そんなタイミングで、スカーレットがダスロウとフォルネンに少し肩の力を抜きながらそう尋ねた。



「いや、私は大丈夫だ」


「私もです」



 それに対し、ダスロウとフォルネンも相好を崩しながらそう答えた。


 かつて王国、教国、帝国の三国は戦争をしていた時代もあったが、今は三国の仲は良好で、こういった会談などでよく顔を合わせていることもあり、個人としても付き合いがあるくらいだった。

 


「そうか。 だが、時間も程よいし、一度話は切り上げて、昼食としようか」


「ああ、構わない」


「ふむ? ナステリア王、なんだか機嫌が良いな?」



 昼食の話を切り出したところで、ダスロウの表情が少し明るくなったのをスカーレットは見逃さなかった。



「今日の昼食は彼女が関わっているからな。 自ずと期待が高まってしまう」


「そうですな。 私も楽しみにしておりました」



 ダスロウに続いてフォルネンもそう口にし、表情を綻ばせていく。



「話は聞いているが、そこまで凄いのか、件の料理人というのは」


「ペアスピア皇もきっと世界が変わるぞ」


「そこまで言われると気になってしょうがないな。 では、食堂へ行こうか」



 という事で、3人の王達は会議室から少し歩いた場所にある、普段は皇家の者が使っている食堂へと向かった。


 そうして辿り着いた食堂の扉を護衛の騎士達が開けると、既に3人分の料理が並べられた大きな机が広がっており、その机の前には帝城の料理人をまとめる料理長の男と、可愛らしいドレスに身を包んだカスミがいた。



「おや、其方が件の料理人か?」


「は、はいっ。 カスミと申しますっ。 皇帝陛下、お会いできて光栄ですっ」


「ほう、礼儀もなっているし、少女の姿をしているとは報告を受けていたが、なんとも可愛らしいな」



 スカーレットはそう言うと、相好を崩して着ている豪奢なドレスの裾を摘んで、見事なカーテシーを披露した。



「私は皇帝、スカーレット・イラ・ペアスピアだ。 ナステリア王にラテルハルト皇から其方の話は少し聞いている。 其方が私に何をもたらしてくれるのか、期待しているよ」


「は、はいっ。 頑張りますっ」



 一国の王がこうして礼の姿勢を取るのは、対等な者…… つまり一国の王と張れる価値がある者のみなので、それだけスカーレットはカスミに期待をしているということだ。


 カスミ的には「プレッシャーかけないでぇ……」と、ちょっとナイーブな気持ちになったが、ひとまず料理についての説明は帝城の料理長が行ってくれるので、スカーレット、ダスロウ、フォルネンが席に着いたところでススっと壁際に移動した。



「では、本日の昼食についての説明をさせていただきます」



 それから手筈通り、今日の昼食として用意された、最高級ワイバーン肉の盛り合わせ、季節のサラダ、そしてキングバイソンのテールスープの説明を帝城の料理長が行っていった。



「……と、そういった料理になります。 そして、ワイバーン肉の盛り合わせはカスミ様がご教授してくださった3種類のソースをお好みでディップして食べていただければと。 サラダの方にかかっているシーザードレッシングも同じくカスミ様からの提供品で、テールスープに関してもより美味しくなるように工夫をカスミ様が教えてくださったので、食べ慣れているスカーレット皇帝陛下も楽しめると思います」


「それは楽しみだ。 では、早速いただくとしよう」



 そうして料理長の説明も終わったところで、早速スカーレットの音頭で昼食がスタートし、まずは3人ともメインであるワイバーン肉を、ナイフとフォークで切り分け、それぞれ惹かれたソースを付けて口に運んでいった。



「んっ…… おお……! これは、素晴らしいな!」



 すると、甘めのステーキソースを付けたスカーレットから、絶賛の声が上がった。



「甘めだが塩気もある、深い味わいのソースが肉の旨みをより引き上げている…… ソースひとつでここまで変わるとは!」



 そんな賛辞の言葉に、ダスロウとフォルネンもワイバーン肉を噛みしめながらうんうんと頷いており、その後は早く次が欲しいと言わんばかりに、3種類のソースを楽しみながらワイバーン肉の盛り合わせを食べ進めていった。



「サラダもかけられているドレッシング? のおかげで非常に美味だし、我が国自慢のテールスープも、より美味しくなっている…… ふふ、カスミ?」


「はいっ」



 ワイバーン肉の盛り合わせに続いて、サラダとテールスープも楽しんだスカーレットは、おもむろにカスミに声をかけてきた。

 


「其方は凄いな。 正直、ここまでとは思っていなかった。 どの料理も非常に美味だよ」


「お褒めに預かり、光栄ですっ」



 一国のトップであるスカーレットから、なんの含みもない素直な賛辞が送られ、カスミ的には肩の荷が大分降りた気分になった。


 もちろん、その後にダスロウとフォルネンからも美味しいと言ってもらえ、併せてとても嬉しい気分になるカスミなのであった。

 

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