#132 なめらか豆腐の麻婆豆腐
本日、カスミはキッチンであるものを作っていた。
それは以前から欲しいとは思っていたものだが、世界中の食材に知見のある商業ギルド長のジリアムに存在を確認してみたところ、どうやらこの世界には無さそうだったので、もう自分で作ってしまうことにした。
今はその工程の7割ほどが終わり、もう少しで完成といったところだ。
「また何か作ってんのか?」
そんなカスミのところへ、暇だったのかアネッタがやってきた。
「そうですね。 もう少しで完成といったところです」
「どれ…… んー、見ただけじゃとにかく白いこと以外、全然分かんねぇな」
カスミが作業をしている鍋の中には、何やら白いものが入っており、アネッタにはそれがなんなのか全く想像ができなかった。
「食べ物なんだよな?」
「はい。 こちらはこれから豆腐という食材になります」
そう、カスミが今作っているのは、和食においては欠かせない豆腐だった。
日本ではスーパーに行けばいくらでも買えるものだが、実は手作りも可能で、手順さえ覚えてしまえばそんなに難しくもない。
カスミは子供の頃に、様々なものを手作りする祖母から豆腐の作り方も教えてもらったこともあって、作り方を見ずとも普通に作れる。
ただ、手作りでは量はそんなに作れないので、いつもお世話になっているデラフト商会のシクウに量産を頼むつもりだ。
沢山食べるビフレストの面々のために毎回手作りするのは、時間的にも量的にもちょっと大変なので、できれば完成品をこの世界でも買えるようになって欲しいとカスミは思っている。
「液体に見えるな?」
「これは大豆という豆を豆乳という状態にしたものですね。 今からここに、にがりを入れていきます」
「にがり?」
「にがりは海水を煮詰めて、出てきた塩の結晶を取り除いた液体部分のことです」
豆腐作りに欠かせないにがりだが、これはカスミのスキル、デメテルによって生み出すことができた。
にがりも一応、肉を使った煮込み料理などに少量加えれば、とても柔らかくジュージーになったり、味噌汁やスープなんかに入れると、コクや旨みが出たりもするので、調味料と言ってもあながち間違いではない。
そのため、調味料を生み出すカスミのスキルでも生み出せたのだとカスミは推察していた。
それはさておき、鍋で温めた豆乳へそのにがりを全体に行き渡るように入れ、軽く混ぜながらしばし様子を見ると、豆乳が徐々に固まっていった。
「おー、液体だったのにどんどん固まってったな」
「あとはこれをザルに移して水気を切れば完成です」
今回の仕込み分で大体2〜3食分くらいの豆腐が出来上がったので、シクウへの実物提供の分は別で取っておき、早速今日この後すぐの夕食に使ってみることにした。
「手伝おうか?」
「じゃあ、ライス炊くのと、お味噌汁作りをお願いします」
「分かった」
そのまま夕食を作り始めたカスミを見て、アネッタが手伝いを申し出てくれたので、ありがたく味噌汁作りをお願いした。
もうアネッタも他のビフレストのメンバー達も、何度もカスミの手伝いをしたおかげで、ライスを炊く、サラダを作る、味噌汁を作るくらいのことはカスミが色々言わなくとも作れるようになっていて、カスミ的には大助かりだった。
「メインは何を作るんだ?」
「豆腐は色んな料理に使えるので悩むんですけど…… うん、折角なら麻婆豆腐にしましょう」
様々な料理に使える豆腐なので、何にしようか悩んだカスミだったが、折角なら名前に豆腐を冠している麻婆豆腐を作ることにした。
まずは先程作った豆腐を、冷蔵庫のタイムシフト機能を使って、しっかり水気が切れた状態にし、四角く食べやすいサイズに切っておく。
続けてにんにく、生姜、ネギをみじん切りにし、油を注いだフライパンで、ひき肉と一緒に炒めていく。
そうして香味野菜達から香りが出てきたら、豆板醤を加えてさらに炒めていく。
ちなみに豆板醤の量は、子供舌のカスミに合わせて控えめにしておいた。
「もう良い匂いしてきたな」
「きっとアネッタさんは気に入ると思いますよ」
「そりゃ楽しみだ」
そんな風に軽口を叩きつつ、豆板醤が馴染んだら、今度はそこへ水、醤油、酒、砂糖、鶏がらスープの素、甜麺醤で作った合わせ調味料を加え、煮立たせていく。
ちなみに甜麺醤というのは、唐辛子を使った辛い味噌である豆板醤とは違い、小麦粉と麹をベースにした甘い味噌であり、これを入れると味にかなり深みが出るのだ。
そんな甜麺醤を使った合わせ調味料が煮立ってきたら、切っておいた豆腐を加えて、2〜3分ほど煮詰めていく。
その間に、カスミはもやしをレンジに入れて加熱し、しっかり水気を切って、千切りにしたきゅうりと共にボウルに入れたら、そこへ醤油、酢、砂糖、ごま油、白ごまを加えてしっかりと和えて中華風サラダも作っておいた。
「カスミ、味噌汁の具は?」
「折角ですから豆腐とわかめにしましょうか」
「味噌汁に入れんのか?」
「私にとっては一番馴染み深い具なんですよね」
様々な具材で楽しめる味噌汁だが、やはりその中でも豆腐は定番中の定番で、この世界に来てからずっと味噌汁に豆腐入れたいなぁとカスミは思っていた。
なので、賽の目状に切った豆腐を、わかめと共に味噌汁に入れてもらった。
そうこうしていると、麻婆豆腐の方もいい感じに煮詰まってきたので、仕上げに水溶き片栗粉を入れてとろみを付け、最後に香り付けにごま油を回しかければ完成だ。
「めちゃくちゃ美味そうだな」
「ですね。 早く食べましょう」
その頃には、キッチンに麻婆豆腐の食欲をそそる良い匂いがこれでもかと広がっており、カスミとアネッタはいそいそと麻婆豆腐、ライス、味噌汁、中華風サラダをそれぞれ盛り付けリビングの食事テーブルに運んでいった。
「今日のメインは麻婆豆腐という料理です。 ライスとよく合うので合わせてどうぞ」
それから集まってきた他のメンバー達に麻婆豆腐について軽く説明をし、早速皆でまずは麻婆豆腐を口に運んでいった。
「ん! これ、めちゃくちゃライスと合うな!」
「ん〜、美味しいですねぇ」
すると、絶妙な甘味と塩味が織りなす強い旨みが口の中に広がり、仄かに感じる辛味によって、どんどん次が欲しくなってしまうような美味しさがその麻婆豆腐にはあった。
「豆腐は舌触りが良くて食べやすいな。 味噌汁にもよく合ってるし、仄かに豆の風味もある」
そんなクリスタの発言通り、カスミが今回手作りした豆腐はとても滑らかな食感をしていて、単体での主張はそこまで無いものの、そこにあるだけで仕事をするような、そんな食材になっていた。
「ライス全然足りないな」
「ローニャもお代わりにゃー」
「もしもっと食べたければ、どんぶりにライスよそって、上から麻婆豆腐をかけて丼にすると良いですよ」
そんな豆腐を使った麻婆豆腐は、やはりよく食べるビフレストの面々には非常に好評で、その中でもよく食べるアネッタとローニャは、2周目から麻婆豆腐丼にして、掻き込むようにしながら美味しそうに沢山食べてくれたのであった。
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