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#127 クリスタの誕生日①

「クリスタさんって、好きな食べ物ってありますか?」



 ある日のこと。


 カスミは風呂場の掃除をしながら、手伝ってくれているクリスタにおもむろにそう尋ねた。



「カスミの料理なら何だって好きだよ」


「そ、それは嬉しいんですけどっ。 特定の食材で何か無いのかなって」


「うーむ、そう言われると何だろうな」



 嫌いな食べ物は特にないクリスタなので、カスミが何を作っても美味しいと言ってくれる。


 そのため、逆に特定の好物を聞かれた時に、これと即答できる食べ物が無いのか、カスミの問いかけにうーん、と首を捻った。



「強いて上げるとすれば、きのこだろうか」


「そうなんですね」


「エルフは普通、体があまり強くなくて、肉が食えない者も多い。

だからエルフの国では、きのこや山菜、果物なんかが主食なんだ」


「クリスタさんはお肉とか普通に食べますよね?」


「私は鍛えてるから、胃袋も強いんだ」


「なるほど?」



 種族的に肉が食べられないというわけではないんだな、とエルフの生態についてまた一つ知ったカスミだった。



「ところで、どうして急にそんな質問を?」


「何かクリスタさんを祝うような時があったら、やっぱり好物料理を作りたいじゃないですか」


「ふふ、なるほどな。 ただ、そう祝われるようなこととかはあまり無いかもしれない」


「うーん、あ、誕生日とかっていつなんですか?」


「ああ、そんな概念あったな。 確か…… お、明後日だな」


「えぇっ!?」



 何気なくクリスタの誕生日を聞いてみたのだが、なんと明後日とのこと。



「な、何で言ってくれなかったんですかっ」


「い、いや、誕生日なんて百何十回も経験したら、どうでも良くなるから……」


「どうでも良くなんてことはないですっ。 おめでたい日ですよっ」


「そ、そうか?」



 どうやら長命種が故に、誕生日の特別感というのをクリスタはもう忘れてしまっているようだ。



「こうしてられませんっ。 色々準備しないとっ」


「別に、そんな気にしなくたって……」


「とりあえず早くお風呂掃除終わらせましょう、クリスタさんっ」


「あ、ああ、分かった」



 それから今やっている風呂掃除を急いで終わらせたカスミは、明後日のクリスタの誕生日のために、ガリュウと共に街へ繰り出していった。


 クリスタもそれに付いていこうとしたが「当日まで何が出てくるの内緒です!」とカスミに言われ、同行させてもらえなかった。




 *




 そんな出来事からあっという間に2日が経過した。



「何やってるんだろう……」


「さぁな?」



 現在、時刻は夕食時といった頃合いなのだが、クリスタは1時間ほど前にカスミに「準備するので待っててください!」と言われて、自室に押し込まれていた。


 もちろん1人で待たせるのは寂しいので、今はアネッタと一緒にチェスを楽しんでいた。



「とりあえず、色々準備はしてたぞ」


「そうか…… 誕生日を祝うなんてこと、いつ以来だろうな」


「全員ガキの頃以来じゃないか?」


「違いないな」



 そんな会話をクリスタとアネッタがしていると、ガチャリと部屋の扉が音を立てて開いた。



「お待たせしました!」



 扉を開けたのはニコニコ笑顔のカスミで、クリスタのことを迎えにきたようだ。


 そんなカスミに連れられ、クリスタが階段を降りてリビングに入ると、そこはいつものリビングの様相とは異なっていて、紙でできた飾りや風船などが壁に吊るされていたり、綺麗な花が使われているブーケやリースが飾られていたりと、とても華やかな空間になっていた。


 そして何より目を引くのは、いつもの食事テーブルに、さらにもう一つ同じテーブルをくっつけた広いスペースに所狭しと並べられた、沢山の料理だろう。



「おお…… すごいなこれは」



 そんな空間を見て、思わずクリスタは感嘆の声を漏らした。

 


「皆さんにも協力してもらいました」



 カスミの言う通り、今回用意した飾りや料理は、カスミだけじゃなく他のビフレストメンバーも材料を買ってきたり作ったりするのを手伝ってくれた。


 2日しかなかった準備期間の割にとても良いものができたのは、その協力あってのことだろう。



「さ、クリスタさん、座ってください。 出来立てを食べましょう?」


「ああ、そうだな」



 それからクリスタには一番上座のお誕生日席に座ってもらい、カスミはそんなクリスタの前に、色んな料理を取って載せた皿を置いた。



「どうぞ、クリスタさん」


「ありがとう」


「おかわり欲しくなったら取り分けるので言ってくださいね!」


「自分で出来るぞ?」


「今日は素直にもてなされてください! 誕生日なんですから!」


「ふふ、そうか。 分かったよ」



 今日はもう、カスミはクリスタに何かをさせるつもりは無いようで、料理の他にもグラスにワインを注いだりして、クリスタのことをもてなしていった。


 そんなカスミにクリスタは感謝を述べつつ、皿に乗った料理に手を伸ばしていった。



「んっ、美味しいな」



 まずクリスタが口に運んだのは、椎茸の傘の部分にチーズを詰めて焼き上げた料理で、ジューシーな椎茸の旨みとチーズの塩気が口の中に広がり、一口でなんとも言えない幸せな気持ちになった。


 他にも、エリンギとえのきのバター醤油焼きや、この世界では安価で手に入る松茸を豪華に使った炊き込みご飯など、きのこを使った料理がかなり多かった。


 もちろん、フライドチキンや鯛の塩焼きなど、肉や魚を使った華やかな料理も用意されていて、どれもがメインを張れるくらい絶品の料理ばかりだった。



「私のためにこんな沢山手の込んだ料理を作ってくれたんだな」


「はい! お誕生日おめでとうございます、クリスタさん」


「……ふふ、なんだかもう忘れていた感覚だな。 誕生日を祝われてこんなに胸が温かくなるのは。 ありがとう、カスミ。 皆んなも」



 クリスタがそう改まって礼を言うと、カスミも他のビフレストのメンバー達も笑みを浮かべて、クリスタの誕生日を祝うのであった。

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