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#126 一旦お別れ

「……帰りたくないわぁ」



 ツキがパーティーハウスに来てから3日目の朝。


 カスミが朝食を作っている姿をカウンター席から眺めながら、ツキがそんな風に口にした。



「別の予定があるんでしょー?」



 名残惜しそうにカウンターにぐてぇと体を投げ出したツキを指でツンツンしながら、その隣の席に座るレネがそう尋ねた。

 


「そうやけどぉ…… 別に妾がいなくともどうとでもなるしなぁ」



 どうやらツキは獣人の国においては中々重要な立場の人間らしい。


 なので、国の政治事にも関わる機会があり、今回の用事はその政治関連なんだとか。



「妾は長生きしとるから、顧問みたいな感じで呼ばれとるだけやし…… もうこれを機に後輩達に任せたろうかなぁ」


「別に良いんじゃない?」


「他人事みたいに言っとるけど、レネだって立場あるやろー? 鍛冶姫なんやし……」


「わぁーっ!? ちょっ、ツキ静かに!」



 何やらツキの言葉にレネが強い反応を示した。



「どうしたんですか、レネさん?」



 そんなレネにちょっと驚いたカスミがそう尋ねる。



「き、聞こえた、カスミちゃん?」


「鍛冶姫? みたいなワードは聞こえました」


「そ、そっかぁ……」


「べ、別に話したくないようなことなら話さないでいいですよ?」



 人には一つや二つ隠したいことはあると思っているカスミなので、レネが何かを隠していても別に思うところは特にない。



「なんでそんな隠したがるん?」


「は、恥ずかしぃ……」


「はえ?」


「私、もういい歳なのに、姫とか……!」


「……なんや、そんなことかいな」


「なんやってなにさ!」



 てっきりレネが鍛冶姫というワードを隠したがるのは、なにか深い理由があるのかと思っていたツキだったが、ただ恥ずかしいだけと聞かされ、そんなことかとため息を吐いた。



「いいじゃないですか、レネさん」


「えっ? か、カスミちゃん?」


「鍛冶姫なんて、可愛いしかっこよくて、とってもいい通り名だと思いますよっ♪」



 とっても良い笑顔でカスミはレネの鍛冶姫という通り名に対してそんな風に言う。



「んぐぅ……!? な、なんかカスミちゃん、根に持ってないっ……?」


「なにがですか?」


「そ、その、カスミちゃんが女神とか天使とか言われてることへの当てつけに感じるんだけど……」


「いやいや、そんなことないですよ。 仲間ができたなんて思ってないです♪」


「思ってるよね!?」



 何故か色んなところで望まぬ呼び名が付くカスミなので、同じように呼び名で苦しむレネを見て、仲間意識が芽生えたようだ。



「レネさんも前に、私が女神だの天使だの呼ばれてるの、可愛くて良いじゃんとか言いましたよね?」


「ね、根に持ってる……!?」


「鍛冶姫、可愛いですね♪ レネさんにピッタリだと思いますっ♪」


「ふぐぅ……!? す、すみませんでした…… もう言わないので許してください……」



 これが同族とかならまだ良かったのかもしれないが、カスミに鍛冶姫と呼ばれるのはかなりダメージが大きいのか、ぺしょぺしょになりながらレネはカスミに許しを乞うてきた。



「まぁ、いいでしょう。 私がこの先変な呼び方で困ってたら、助けてくださいね?」


「わ、分かりました……」


「ちなみに、鍛冶姫というのは何かの称号なんですか?」


「えっと、ドワーフが主に住む鉄の国では、3年に一度鍛冶の腕を競う大会みたいなのがあるんだけど、そこで優勝した人は代々鍛冶王って呼ばれてるの」


「ふむ」


「それで、私が前回優勝したんだけど…… 女性では初めてって事でなんか鍛冶姫って呼ばれるようになっちゃって……」


「なるほど?」


「別に女でも鍛冶王で良いじゃんっ! 分けるにしても鍛冶女王とかならまだ良かったのに……」


「レネはちっこくて可愛いし、鍛冶姫の方が語呂もええからやない?」


「うぐぅ……」



 ツキにそう言われたレネは、図星だったのか何だか苦虫を噛み潰したような表情になった。



「よし、朝ごはんできましたよー」


「だ、だって! さっ、ご飯運ばないと!」


「必死やなぁ」



 色々と話している間にもちゃんと手は進めていたカスミが朝食の完成を告げると、レネはぴょんっとカウンター席から降りて、皆の分の朝食を運んでいった。


 それらを運び終える頃には他のメンバー達もリビングにやってきたので、皆で席について出来立ての朝食を食べ始めていく。



「朝食からこんな豪勢なもん食べれるなんて、最高やなぁ」



 今日の朝食は皮がパリッとなるまで焼き上げた鮭の切り身に味噌汁、だし巻き卵、ほうれん草のお浸しにライスという、the日本の朝食と言ってもいい和食セットで、ツキはそれを幸せそうに頬張っていく。



「でも、カスミのご飯がしばらく食べられないと思うと、憂鬱やわぁ」


「またいつでも来てください」


「お、いつでもなんて言ってええのん? 妾結構暇してることも多いから、本当に来てまうよ?」


「ツキさんなら歓迎しますよ。 ね、皆さん?」


「模擬戦するならいいぞ」


「魔道具作り手伝って〜……」


「次回はカスミの代わりに家掃除でもしてくれ」


「こき使う気満々やん〜」



 上からアネッタ、フィオ、クリスタが冗談めかしてそんな風に言ったものの、全員ツキがパーティーハウスに来ることは全然構わないようだ。



「ほな、やることさっさと片付けて、また遊びに来るわー」


「はい、お待ちしてます」



 それからツキは、美味しい朝食を時間をかけて食べ切り、身だしなみを整えてパーティーハウスを後にした。


 カスミはそんなツキを玄関の外まで出て、姿が見えなくなるまで見送り、また会えるのを楽しみに思いながら、洗濯でもしようかなとパーティーハウスへと戻っていくのであった。

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