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#125 蕩けるチーズケーキ

 ツキとアネッタが庭で模擬戦を始めた頃。


 カスミはキッチンでお菓子作りに勤しんでいた。



「クル?」



 その様子が気になるのか、ガリュウもキッチンにやってきて、カスミの作業を覗き込んでいく。



「今は生地を作ってますよ」



 そんなガリュウに、何をしているのか説明しながらカスミは作業を進めていく。


 こうして言葉にしながら作業するというのは、カスミにとっても今後必要になる技術かもしれないので、ガリュウでも理解できるような説明の仕方を心掛ける。



(ミシュテさんとカノムさんに本格的に教えることになるから、今のうちに説明する練習しとかないとね)



 カスミは以前、王城の料理人達に色々と料理を教えたことがあったが、あの時が誰かに本格的に料理を教えたのは初めてで、あんまり上手く説明できていたとは思えなかった。


 それでも事前にレシピなどを紙に起こして、それを確認したり実際見てもらったりしながら教えたので、結果的には伝わりはした。


 が、できればやっぱりカンペなどは用意せずに、自分の頭で質問が来てもすぐ言語化できるようになった方が、カスミも教わる側も楽だと思うので、最近誰かと料理をする時は、わかりやすい言葉選びをするようにしていたりする。



「今回の生地は、クリームチーズをメインにしたものです。 なので、仕上がったらチーズケーキというものになりますね」


「クルル」


「……よし、生地ができたので、クッキングシートを型に敷いて、生地を流し入れます。 あとはこれをオーブンに入れて……」



 そうして、ガリュウに説明しながら作った生地を型に入れたら、予熱したオーブンに入れて焼き上げていく。


 本来なら30分くらいそこで焼くのだが、タイムシフト機能があるので、一瞬でいい感じにケーキは焼き上がった。


 そうしたら、冷蔵庫で3時間ほど冷やすのだが、もちろんその工程も冷蔵庫に付与されたタイムシフトの機能のおかげで一瞬で終わった。


(何度使っても便利だなぁ)


 お菓子作りにおいて待つ作業が無くなるというのは、こんなにも便利なんだなと改めて実感しつつ、出来上がった生地を型から外していく。


 この状態でも完成と言っていいのだが、今回はさらにもう一工程行うべく、あるものを取り出した。



「クル?」


「これは食材を炙るためのバーナーですね」



 それはカスミが前世でも使っていた調理用のバーナーで、試しにボーッと火を出してみた。



「クルル!」


「え? ガリュウさん?」


「クルル…… ガオー」



 すると、それを見ていたガリュウが、口からボーッと小さい炎を吐いた。


 どうやらバーナーのを火を見て「自分もできるよ!」とアピールしたくなったようだ。



「わぁ、凄いですね? 火力調整とかもできますか?」


「ガオ!」



 カスミがそう言うと、ガリュウは口から吐いている炎を小さくしたり大きくしたりして見せた。



「器用ですね! じゃあ、試しにちょっと炙ってみてもらえますか?」



 折角ガリュウがやる気を見せてくれたので、カスミはチーズケーキを一切れ切り出して、表面にグラニュー糖を塗していった。



「このケーキの表面を炙る感じでお願いします」


「クル! ……ガオー!」



 そして、ガリュウに表面を炙るように伝えると、ガリュウはボーッと一定の強さで炎を吐き出して、表面だけを器用に炙ってくれた。


 すると、塗したグラニュー糖が茶色く焦げ付き始め、少し沸々としてきた。



「ガリュウさん、そのくらいで大丈夫です」


「ガオ…… クルル?」



 「上手くできたー?」といった感じでガリュウが首を傾げてきたので、カスミはガリュウが炙ってくれたケーキにフォークを通してみた。


 すると、表面部分は丁度良くパリパリのキャラメリゼ状態にできており、口に運んで味も確かめてみた。


 すると、蕩ける内側のチーズ生地と、オーブンで焼いたことで固まったほろほろの食感の外側の生地に、甘さとほろ苦さが丁度いいキャラメリゼされた表面部分が見事な調和を見せ、味わい深い風味が口の中に広がっていった。



「うん、美味しいです! ガリュウさんもどうぞ」


「クルル! ……クルゥー♡!」



 そんなチーズケーキをガリュウの口にも運んであげると、ガリュウは翼をパタパタ、尻尾をふりふりさせて、これでもかと美味しさを表現してくれた。



「ガリュウさんの炎で焼くと、ガス臭さが無くてとても良いですね。 それに、何だか美味しさが増してるような?」



 ガスバーナーだとどうしても炙った時に微量なガス臭がしてしまうものだが、ガリュウの炎はそんなこともなく、なんならキャラメリゼされた部分に謎の旨みが追加されているような気がした。


 確かなことは分からないが、この世界の食材は大気中に漂う魔力を吸うことで旨みが地球のものより増している節があるので、魔力を使って放たれたガリュウの炎は何かしらの旨み成分が追加されたのかもしれない。


 何はともあれ、バーナーで炙るよりも早いし美味しいし、ガリュウもやる気なので、残ったチーズケーキも、カスミはガリュウにキャラメリゼをしてもらった。



「はぁー、疲れたわぁ」


「ガリュウ、何してんだ?」



 そうこうしていると、庭で模擬戦をしていたツキとガリュウが戻ってきた。



「クル!」


「ガリュウさんに炎を吐いてもらって、ケーキの表面を焦がす作業をやってもらってました」


「……ドラゴンのブレスを? お前、それでいいのか……」


「クル?」



 ドラゴンのブレスはドラゴンの代名詞と呼べる攻撃で、多少なりともプライドが介在するものなのだが、それをケーキ作りに使ったというガリュウにアネッタは何だか微妙そうな表情を浮かべていた。


 当のガリュウは、カスミの手伝いができて嬉しいのか、特に気にした様子はなかったが。



「お、甘くて良い匂いするやん。 疲れたから甘いもん欲しいわ」


「じゃあ、切り分けちゃいますね」



 丁度キャラメリゼをした部分も冷え固まったので、カスミは作ったチーズケーキを切り分けて、紅茶と共にリビングのテーブルに座ったアネッタとツキに渡した。



「おー、カスミはこんな立派なケーキも作れるんやね?」


「むしろこっちが本業ですね」


「そうなんか。 食べてもええ?」


「もちろんです」



 カスミからチーズケーキを受け取ったツキは、わくわくした様子でフォークを使って、ケーキを切り分けて口に運んでいった。



「ん、んんっ……!? なんやこれっ……♡ う、美味ぁ……♡!」



 すると、口の中で広がった、ツキの中の甘味の常識を、意図も容易く破壊する美味しさに、ツキは驚愕と歓喜が混ざり合ったような声を上げた。



「んー、カスミのケーキはやっぱり最高だな」


「クルルー♪」



 その横ではアネッタとガリュウも喜びの声を上げ、カスミも自分で作ったケーキを内心自画自賛していく。



「このケーキ一つで、世界が獲れるな……♡ こんなの、毎日食べたくなってまう……♡」


「普通の料理と違って、お菓子作りはちょっと専門的な知識がいるので、中々広めるのが難しいんですよね」


「せやろなぁ」


「でも、近い内に弟子になってくれる方々が来てくれるので、それをきっかけに美味しいケーキやお菓子も広めていきたいですね」


「それは頑張って欲しいなぁ。 なんなら妾がパトロンになったろか?」


「ふふ、お気持ちだけ受け取っておきます。 ですが、その辺りのことで必要な資金は私が出すつもりなので、ご心配なさらず」



 既にカスミの口座には、調味料やレシピの売上の一部が莫大な額振り込まれており、使い道を探していたのだが、お菓子を広めるための事業に必要な初期費用はカスミが負担しようと思っている。


 恐らくそれでもまだまだ入ってくる金額の方が多いと思うので、他にも使い道は探すつもりだ。



「なんか妾にもできることありそうならいつでも言ってな?」


「なら、獣人さんの国特産の果物とか教えて欲しいですね。 あと、そう遠くないうちに実際に行きたいとも思ってるので、良ければ案内して欲しいです」


「そんなお願いで良ければいくらでも叶えたるよ〜」


「ふふ、ありがとうございます」



 また一人カスミのケーキに魅入られた者と強い人脈が増え、異世界生活がより充実したものになりそうだなと、美味しいケーキを頬張りながら内心喜ぶカスミなのであった。


 

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