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#124 かつての戦い

 ——パチ、パチ



 ビフレストのパーティーハウスのリビングでは、先程から小気味良い音のみがひたすら響いていた。



「……ほい、王手や」


「……参りました」



 その音の正体は将棋の駒を置く音で、今はカスミとツキが初めての対戦をやっていたのだが、なんとツキは初めてにしてカスミを倒してしまった。


 別にカスミも駒の動かし方と、祖父に教えてもらったいくつかの戦術を知っているだけで、特段将棋が強いわけではないのだが、ビフレストのメンバー達と初めてやった時は全員に危なげなく勝利した。


 それなのに、ツキは駒の動かし方を教えただけでカスミの戦術をことごとく封じ込め、最終的には圧倒的と言っていい内容で勝利した。



「おもろいわぁ、これ」


「ツキさん凄いですね? まるでその道の達人とやってるような感じでした」


「昔取った杵柄かもなぁ」


「ふむ?」


「百何十年か前くらいまでは、獣人の国はかなり荒れててな。 色んな部族が土地を求めて他の部族と戦っとった。 その時の妾は軍師みたいなことをしてたから、こういう戦術を考えるのは得意なのかもしれんな」


「なるほど」


「まぁ、戦いと言っても、そんな深刻なもんではあらへんけどな。 まず故意の殺しは御法度で、毒やら人質なんかの姑息な手段もあかん。 正々堂々部族同士で戦い、負けたら素直に軍門に降る。 そんな時代を勝ち抜いた強力な部族が、今獣人の国では大きな街を築いて、国全体に影響をもたらす権力を持っとる」


「なるほど……」



 日本の歴史でいうなら、戦国時代みたいなことが獣人の国ではかつて起こっていたらしい。



「でも、そんなに戦いが盛んだったら中々その時代は終わらなさそうですけど、今はそうでもないんですよね?」


「仲悪い部族の小競り合いとかは今でもちょくちょくあるけど、大きな戦いは無くなったなぁ」


「どうしてですか?」


「そんなこと言ってられなくなったんよ。 獣人の国の禁足地に封印されてたヨルムンガンドっちゅう強い魔物が復活してな」


「なんか名前だけでも強そうですね……」


「強さというよりは、とにかくでかいんよ」


「クル?」



 そんな話をしていたカスミとツキのところへ、昼寝から目を覚ましたガリュウがパタパタ羽を動かしながら飛んできた。


 そしてそのままガリュウはカスミの膝の上に着地し、もぞもぞと腰を動かして落ち着けるポジションを見つけたら、ポスっと座り込んだ。



「うーん、ドラゴンもヨルムンガンドと同じくらいのの脅威なんやけどなぁ」



 カスミに懐ききっているガリュウを見て、ツキはちょっと苦笑いを浮かべた。


 

「ガリュウさんはヨルムンガンドって知ってますか?」


「クルゥ……」


「お、知ってそうやけど、あんまいい思い出なさそうやね」



 ビフレストの面々を含めても誰よりも長生きしているというガリュウにヨルムンガンドについて聞いてみたところ「あいつ嫌いっす……」と言っているように見える微妙そうな顔を浮かべた。



「それでな、ヨルムンガンドは太古の大魔法使い達が獣人の国にある大峡谷の底に封印しとったんやけど、年月を重ねてその封印が緩んで、暴れ出したんや」


「どうしたんですか?」


「太古の封印魔法なんて、形態も仕組みも全然分からんかったから、倒すしかあらへんかった」


「クルル」


「あれ、ガリュウさんと戦ったんですか?」



 何だかガリュウもその戦いについて知っている様子だった。

 


「ドラゴンなんて戦場におったかな? ……いや、妾達が世界中から戦力を集めている数日間、やけにヨルムンガンドの侵攻が遅くなったな。 もしかして、その間ガリュウが戦っとったんか?」


「クルゥ」



 そうだよー、と言わんばかりガリュウがツキの言葉に頷きを返した。



「何の話してんだ?」



 と、タイミングよくガリュウと旧知の仲であるアネッタがリビングにやってきた。



「80年くらい前のヨルムンガンドとの戦いについて話しとったんよ」


「あー、あったな。 あれは最高に楽しかった」



 どうやらアネッタも当時の戦いを知っているようだ。



「そんでな、ガリュウもヨルムンガンドと戦っとったって聞いて、驚いてたんよ」


「ああ、俺が足止めしとけって言ったからな」


「ええ、そうやったん?」


「あの戦場には俺の他にも龍人が何人かいただろ? あいつらもドラゴンと意思疎通取れるから、人間の戦力が整うまで足止めしといてくれって伝えたから、数匹のドラゴンがヨルムンガンドの足止めしてたんじゃねぇか?」


「そんなドラゴン呼べるなら、倒してくれればよかったんに」


「それじゃあ人間が成長しないだろ? ドラゴンを呼べる存在がこの先全ての時代にいるとは限らねぇから、頼り過ぎるのは良くない」


「一理あるけど、単にアネッタが戦いたかっただけちゃうの?」


「……俺だけがそう言った訳じゃねぇよ。 他の龍人達もワクワクしてたし」



 どうやら、ヨルムンガンドという未曾有の脅威に対して、龍人達は「そんな存在と戦えるなんて幸運だ!」くらいに思ってたらしい。



「まぁ、足止めしてくれたおかげで人的被害は奇跡的に0やったから、文句は言えへんけどな」


「人的被害が出そうなら流石にドラゴン達に倒せって言ってたわ」


「なんか規模が凄い話ですねぇ……」



 その後も戦いについて話を聞いたが、どうやらクリスタとフィオもその戦いには参加していたそうだ。



「デカいだけあってタフだったからな。 一週間くらい戦ってたっけか?」


「あんな戦いもう2度とごめんや」


「どれくらいの大きさだったんですか?」


「んー、この国のお城で何重にもとぐろが巻けるくらい体が長い龍やね」


「ええ…… そんな大きい生物いるんですね……」



 カスミが見てきた中で一番大きい生物は、元のサイズのガリュウだが、それの比にならないくらいヨルムンガンドは大きいようだ。



「なんか戦いの話してたら体動かしたくなったな。 ツキ、模擬戦しようぜ」


「えー、普通に嫌やー」


「お前も全力で剣振る機会、最近は中々無いだろ? 勘が鈍るぞ」


「むぅ、確かになぁ…… しゃあない、ちょっとだけやで」


「じゃあ、私はおやつ作っておきますね」


「お、それなら頑張れそうや」



 そうして模擬戦をしに庭に向かったアネッタとツキを見送りつつ、カスミはおやつの準備をすることにした。

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