#123 季節外れの熊鍋
「で、今日のお昼はなんなんや?」
市場での買い物を済ませて、掃除や洗濯などを済ませた頃にはもうお昼時になっており、ツキがカスミにニコニコ笑顔でそう尋ねてきた。
ちなみに泊めてくれている礼と言って、ツキは掃除や洗濯などを率先して手伝ってくれたので、非常に助かった。
ただ、掃除機のスイッチを入れずに地面を擦っていたり、洗濯機に入れる洗剤の量を間違えたりと、おっちょこちょいな部分に少し困らされたりもしたが、トータルいつもより早く楽に終わったのでよしとした。
「何か食べたいものありますか?」
「せやなぁ……」
そんなツキはもうカスミの作るご飯にゾッコンになっており、昨日の夕食や今日の朝食も本当に幸せそうに食べてくれていた。
「ちなみに獣人さんの国ではどんなものが食べられてるんですか?」
「結構こっちとは食材がそもそも違うなぁ。 毛深いバイソンはおるけど、コッコやオークなんかは寒過ぎておらんくて、代わりにアイスバードとか、ホワイトベアっていう魔物の肉がよく食べられとるよ」
「ふむ…… では、ブラックグリズリーという熊の魔物肉がありますから、折角なら獣人さんの国でも人気が出そうな料理を作りましょうか」
「お、ええねー」
ということで、キッチンに入ったカスミは、以前買っていつ使おうか少し悩んでいたブラックグリズリーという熊の魔物の肉を取り出した。
「折角なら近くで見ててもええ?」
「いいですよ。 ツキさんでも割と簡単に作れると思いますし。 ちなみにホワイトベアとブラックグリズリーの肉って似てますかね?」
「うん、似とるよ。 ホワイトベアの方がもうちょい脂が多いかもしれんけど、まぁ誤差やね」
「分かりました」
同じ熊の魔物肉なら応用も効くと思うので、早速カスミはブラックグリズリーを食べやすいサイズに切り分け、塩胡椒を振って下味を付けたら、おろした生姜とニンニクと共にフライパンで炒めていく。
「その生姜とニンニク? で炒めるのはなんでなん?」
「そんな気にならないらしいですけど、少し臭みがあるみたいなので、生姜とニンニクと炒めることで臭み抜きをしてます」
カスミの前世の熊肉は臭みが結構強かったそうだが、この世界の熊の魔物肉はそこまででもないらしい。
カスミは前世でも熊肉を食べたことはないので、比較はできないのだが。
「炒めてる間に、出汁を取りましょう」
そんなブラックグリズリーの肉を炒めている間に、カスミは鍋に乾燥昆布を入れて出汁を取り、そこへ作り置きしておいた魔法で乾燥してもらった椎茸の戻し汁を加えていく。
この出汁は今回は気分で昆布と椎茸から取ったが、和風系の出汁なら割となんだってOKだ。
「カスミの料理はただ焼いたり煮込んだりするだけじゃなくて、色々な工程があるし色んな食材使うなぁ」
「料理は掛け算ですからね。 組み合わせるとすごく美味しくなるんです」
のほほんとそんな会話をしつつ、出汁を取った鍋に味噌を加えてしっかり混ぜたら、炒めていたブラックグリズリーの肉とネギ、白菜、えのき、椎茸を加えて火が通るまでしっかりと煮込めば完成だ。
「これで熊鍋の完成です。 ……今のうちにちょっと冷房強めにしときましょうか」
「美味そうやねぇ」
ちょっとこの国では季節外れな鍋料理だが、美味しいことには間違いないので、後から足せる薄切りのバイソン肉とオーク肉や野菜類なんかも用意しつつ、それらをリビングのテーブルに運んでいった。
そして、鍋は魔導コンロというカセットコンロのような魔道具の上に乗せて、極々弱火にかけておく。
「今日はブラックグリズリーのお肉を使った熊鍋です。 鍋の中身が無くなってきたら、その都度足していきましょう」
そんなカスミの説明の後、各自思い思いの具材を取り皿に取り、まずは皆、ブラックグリズリーの肉を口に運んでいった。
「ん〜、柔らかくて美味いわぁ」
「凄い甘い脂ですね。 美味しいです」
カスミも初めて食べたブラックグリズリーの肉は、しっかり下処理が為されているおかげで非常に柔らかく、噛めば噛むほど旨味と甘くてサラサラした脂が滲み出てきて、とても美味しかった。
鍋との相性も抜群で、旨味と脂が味噌ベースのスープに溶け出して、スープだけで一つの料理として出せるくらい美味しく仕上がっていた。
「これは獣人の国では人気出るやろなぁ。 早くカスミの調味料とかが売られるとええんやけど」
「獣人国にもデラフト商会はあるみたいですし、そんなに遠くない未来の話だと思いますよ」
「楽しみやなぁ」
他のビフレストのメンバーも、皆で同じ鍋を突いて食べるという鍋料理ならではの作法込みで気に入ってくれたようで、追加分の野菜や肉も含めてあっという間に用意した分は皆の胃袋の中に消えていった。
「あ、皆さんまだお腹に余裕あります?」
そのタイミングでカスミがそう聞くと、全員が大きく頷きを返した。
なのでカスミはキッチンに向かい、あらかじめ残しておいた人数分のライスを持ってきて、スープが残っている鍋の中へ投入し、火にかけつつ溶き卵を流し入れて軽く混ぜ合わせていった。
「こちら、〆の雑炊になります」
そうして完成したどう見ても美味しそうな雑炊に、全員が目を輝かせながら突撃し、自分の分を取り皿に取っていった。
「はふっ、熱いっ、けど、めちゃくちゃ美味いわぁ」
「スープが美味しいから絶品ですねっ」
そんな雑炊は、ブラックグリズリーだけじゃなく、他の肉や野菜、きのこから溶け出した旨味を多分に含んだスープで作ったので、それはもう美味しかった。
ツキを始め、他の面々もその美味しさに表情を綻ばせてくれ、これはこれでお腹いっぱいになるまで食べたいと言われたりもした。
そんなこんなで、初めての鍋料理はしっかりと気に入られ、暑い時でも良いからまた作って欲しいとの要望まで寄せられるのであった。
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