#121 定番のチャーハン
ツキに振る舞う昼食を作るべく、カスミはキッチンに入り、食材の準備を始めた。
とは言っても、作るのはいつものビフレストの食事なので、特段凝ったものを作ったりするつもりはない。
「折角なら見ててもええ?」
「大丈夫ですよ」
そんなカスミの調理風景が気になったのか、ツキがカウンター席に座ってキッチンを覗き込んできた。
それを横目に、カスミはスープ用に鍋で水を沸かしておき、メインの料理として使うライスを研いで、炊飯器にセットした。
今回はタイムシフト機能を使って一瞬で炊き上げ、ひとまず使う分を大きなお皿によそった。
「その白いのは何なん?」
「これはライスですね」
「ライス? 家畜の餌の?」
「最近この辺りで国ではライスが流行ってるにゃ!」
ライスを食べるのかと怪訝な顔をしたツキに、隣のカウンター席に座ったローニャがそう教えてあげた。
「へぇー、あんま味の想像は付かんなぁ」
そう言いながら期待感を膨らませるツキの目線に応えるように、カスミはフライパンでまずは挽肉を炒めて、火が通ったら一度取り出し、次に溶き卵をフライパンに流し込んでいく。
その卵に軽く火が通ったら、先程用意しておいたライスを投入し、切るように混ぜながら卵と絡め合わせていく。
「おー、手際がええねー」
「ツキって料理するにゃ?」
「全然やねー。 肉焼いたりするくらいならできるけど」
そんな料理経験の乏しいツキでも、カスミが料理慣れしていることはここまでの手際の良さで何となく伝わってきていた。
「ちなみにそれ、なんて料理なん?」
「これはチャーハンですね」
そんなカスミが今作っているのは、定番も定番なチャーハンなのだが、今回のものはより家庭料理感が強いチャーハンと言えるだろう。
ひとまず、ライスと卵がいい感じに混ざったので、あらかじめ出しておいた適量の塩、こしょう、そして前世では大変お世話になっていたうま味調味料を加えていく。
前世の一部の人間はうま味調味料を毛嫌いする人もいたが、料理をよくするカスミからすれば、すこぶる簡単に旨みが足せるうま味調味料は、色んな料理に使っていた。
この世界に来てからはあまり使う機会が無かったので使ってこなかったが、チャーハンにうま味調味料をかけるとそれだけで店の味にぐんと近づくので、今回は使わせてもらった。
もちろん、使い過ぎは良くないので、隠し味程度に量は留めておく。
今回はまだもう一つ調味料を使うつもりもあるので。
「まだ味の想像つかへんなぁ」
「美味しいことは間違い無いにゃ」
引き続き興味深そうに眺めているツキのために、カスミはささっと仕上げに入ることにした。
まずは先程取り出しておいた挽肉をフライパンの中に戻し、軽くあおって混ぜ合わせていく。
本当に美味しいチャーハンを作るなら、中華鍋を豪快に振ったりするべきかもしれないが、カスミの今のパワーだとそれはできないので、上下をひっくり返すために軽くフライパンを振るのに留めておく。
それでもしっかり火に当てながら炒めていけば、フライパンでも全然美味しいパラパラのチャーハンは作れる。
ポイントは油をちょっと多いかも? と思うくらい使って、しっかりライス全体に馴染ませることと、火の上からなるべく降ろさず高温を維持して、ダマにならないようにしっかり切るように混ぜ続けるのがポイントだ。
あとはライスをちょっと硬めに炊くのもコツだったりする。
柔らかく炊いてしまうと、高温で炒めても水分が飛ばしきれなかったりダマになってべっちゃりしてしまうので。
「よし、あとはここに……」
そうして挽肉をしっかり混ぜたら、最後にケチャップを入れて、こちらも全体に馴染ませるように混ぜ合わせていく。
そうすると、ライスが赤く染まってもはやチキンライスのような感じになるが、チキンライスはチキンライスでまた少し具材や作り方が異なるので、名前を付けるならケチャップチャーハンという料理になるだろう。
「今入れた赤いのは?」
「ケチャップっていう、トマトをベースにした調味料ですね」
「へぇー、なんか色々調味料使うんやね」
「調味料は色々掛け合わせて使うと美味しいですよ。 ……よし、できました」
そうしてチャーハンを仕上げたカスミは、人数分の皿にチャーハンを盛り付け、今の作業をもう一度繰り返してお代わり分もパパッと作っていった。
できた分から先に食べててもらって良かったのだが、ビフレストのメンバーは同じようなことが過去あった時も、カスミと一緒に食べたいと言ってくれるので、お代わり分を仕上げてから皆で一緒に食べ始めることにした。
ちなみにチャーハンを作っていた時のちょっとした隙間時間に、わかめとネギを刻んでわかめスープも作っておいたので、それも一緒に食事テーブルに運んでいく。
「おー、美味しそうやね。 食べてもええ?」
「もちろんです」
それからビフレストの面々と一緒に待っていてくれたツキと共に、まずは皆、チャーハンを口に運んでいった。
「んんっ……!? これ、めちゃくちゃ美味しいわぁ!」
すると、ツキはその様々な調味料とライス、挽肉、卵の美味しさが見事に調和し一つになったチャーハンの美味しさに、目をまん丸にしながら驚きの声を上げた。
「今まで食べた料理の中で一番美味しいわ…… カスミ、あんさん本当凄いなぁ!」
「ふふ、恐縮です」
「こんなの独り占めしとるの、ビフレストの皆さんずるいわぁ」
「独り占めしてないにゃ! 最近この国ではカスミの調味料とか料理のレシピが売られるようになってきたにゃ!」
ツキの羨みが存分にこもった言葉に、ローニャがそう返した。
「あらそうなん? なら、ぜひ獣人の国でも売って欲しいなぁ」
「そう遠くないうちに販売される気はしますけど……」
「何なら妾は獣人の国のお偉いさん達に顔が利くから、話を通しておいたってええよ」
「それは助かるかもしれないです」
その辺の交渉に関してはカスミの商品を扱うシクウが上手くまとめてくれると思うので、ツキとの顔繋ぎにカスミが入ればあとは何とかしてくれるだろう。
「それにしても美味しいわ〜。 なぁ、クリスタ、妾もビフレストに入れてくれへん?」
「パーティーは6人までだから無理だな」
「……ローニャ、代わってくれへん?」
「絶対嫌にゃ!」
「いけず〜」
そんな風に賑やかに会話を楽しみながら、しっかりお代わり分も含めて昼食を楽しむカスミ達だった。
なお、ビフレスト入りは無理でも、折角来たということで、次の予定があるという数日後までツキはパーティーハウスに滞在することになった。
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