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#116 お酒事情

「そういえばレネさん」


「んー? どったのー?」



 ある日の夕方。


 リビングでカスミはレネとオセロをしていたのだが、ふと気になったことがあったので聞いてみることにした。



「レネさんって、お酒とか飲みます?」


「ふぐぅ……!?」


「あ、あれ?」



 以前フィオとビフレストメンバーの酒事情について軽く話したことがあったのだが、その時にビフレストのメンバーが酒を飲んでいるのを見たことないと言ったところ、レネに事情があると聞かされた。


 その時、レネに聞いても怒らないと言われたので何気ない気持ちで聞いてみたのだが、レネはなんだかダメージを負ったような素振りを見せ、テーブルに突っ伏した。



「あ、あの、レネさん、大丈夫ですか?」


「う、うん、大丈夫……」


「そうは見えないんですけど……」


「お酒ね…… うん、気になるよね……」


「いや、答えにくかったら全然大丈夫ですよ……?」



 あまりにもレネの様子がおかしくなったので、カスミは気を遣ってそう言ったのだが、レネは苦笑しながら立ち上がり、カスミの隣に腰掛けてきた。



「……私ね、お酒すっごい弱いんだぁ」



 そして、ちょっと悲しげな目をしながらそうカミングアウトした。



「それは…… 別にそういう人もいるんじゃないですか?」


「そうだけど、ドワーフに限ってはそうじゃないんだ。 ドワーフは皆んなお酒に強くて、樽一個とか普通に飲めちゃうの。 だから、凄いコンプレックスでね」


「そうなんですね……」


「全く飲めない訳じゃないんだけど、小さいコップ一杯でもう顔真っ赤になるし、凄い眠くなっちゃうんだよねぇ」



 どうやらドワーフで酒が飲めないというのは、カスミが思ってる以上に良くないことらしい。



「まだ若くてドワーフが住む鉄の国にいた頃は、よくバカにされてたよ」


「そんなの酷いですっ」


「まぁ、しょうがないんだよ。 それがあったからこそ、見返してやろうって物作りの腕とか戦う力を磨いて強くなれたから、悪いことばっかだったわけじゃないし」


「……レネさん」


「うん?」


「ここには、レネさんをバカにするような人はいないです」



 悪いことばかりではないとは言っても、未だに酒が飲めないことをコンプレックスに思っているレネに、カスミはそう強く言い放った。



「だから、気にしないでくださいっ。 私も飲めないですし!」


「……ふふ、そっか。 お揃いだね」


「はい!」



 なんとかレネのコンプレックスを解消させようと慰めてくれるカスミに、レネはとても暖かい気持ちにさせられた。



「それに、お酒飲めなくても、それっぽい雰囲気を楽しんだりはできますし!」


「というと?」


「そうですね、そしたら……」



 それからカスミは、デメテルのスキルを使ってあるものを生み出し、それをレネと一緒にこちらの世界でも使えるように改良していくのであった。


 


 *




 それから数日経った日の夜。


 夕食としてメインで出された料理をあらかた食べたタイミングで、カスミは一度席を立ち、キッチンに向かった。


 そして、あるものを持ってテーブルに戻ってきた。



「皆さん、今日は晩酌をしましょう!」



 それはワインが入った大きな瓶で、その後もカスミはせっせとグラスなども持ってきて皆の前に並べた。



「カスミ、酒はだな……」



 そんなカスミを見て、クリスタがレネの方をちらりと見て気まずそうな声を上げた。



「大丈夫です、レネさんにも確認しました」


「そうなのか?」


「うん! 皆んな、私に気を遣って家ではお酒飲んでなかったでしょ? ごめんね?」



 レネがそう言うと、他の面々はちょっと驚いたような顔をしつつ、気にしないでいいと各々レネに声をかけた。



「でも、やっぱりカスミちゃんの料理ってお酒にも合うと思うからさ。 これからは私に気を遣わず飲んでくれていいよ!」


「それはありがたいが、レネはつまんないんじゃないか?」



 レネの言葉に、アネッタがそう返した。



「そこはなんかカスミちゃんが考えてくれてるみたい! まぁ、全然飲めなくてもカスミちゃんの料理は美味しいから気にしないよ」


「そうか」


「お待たせしました!」



 そんな風に話していると、テーブルの上にはワインに合うおつまみと、一見何に使うか分からない道具が並べられた。



「あ、この前作ったやつだね」


「そうです!」



 その道具は、先日レネと酒の話をした時に作ってもらったもので、その時は何に使うのかレネには秘密にしていた。


 折角なら実際使う時に目の前で使ってみせた方が有用性が伝わりやすいかなと思ったので。



「そうしたらこれを……」


「カスミちゃん、それワイン?」


「いや、これはぶどうジュースです。 ちなみにワインもぶどうジュースも、王家の方々からの贈り物なので、とても良いやつです」



 ミーユイアの誕生日パーティーの礼として、以前様々なものがパーティーハウスに送られてきたことがあったのだが、その中にワインやぶどうジュースがあった。


 どちらも腕の良い職人が作っているらしく、良い機会があれば出したいと思っていたので、今回用意させてもらった。



 そんなワインを酒が飲める面々のグラスに注ぎ、カスミとレネが飲むぶどうジュースは、テーブルの上に置いた道具付いている容器に注いでセットし、カスミは道具のスイッチを入れた。



 ――シュォォォ……!



 すると、容器の中のぶどうジュースが音を立てながら泡立ち始め、程よいところでスイッチを切って容器を外して中身をグラスに注ぐと、ぶどうジュースがシュワシュワと小さな音を立てるようになっていた。



「カスミちゃん、これなにしたの?」


「こちらは飲み物に炭酸を注入できる道具なんです」



 今使った道具は、カスミの前世ではソーダメーカーとかドリンクメイトと呼ばれていた道具だ。


 これがかなり便利で、炭酸の強度なども自分で決められるし、大体の飲み物に使うことができる。



「炭酸って、シュワシュワするやつだよね?」


「そうです。 お酒とかには自然と入ってるんですけど、普通のジュースに入れても美味しいんですよ」


「へぇ、飲んでみてもいい?」


「もちろんです」



 それから折角ならと皆でグラスを突き合わせて乾杯をし、早速レネは炭酸入りのぶどうジュースを口に運んでいった。



「んっ! ぷはっ! 凄いシュワシュワする!」


「炭酸強めの方がお酒っぽいかなと思うので、強めで作ってみました」


「これいいね! 確かに、ちょっとお酒っぽい! けど酔わない!」



 喜んでくれているレネに嬉しくなりつつ、カスミもぶどうジュースを口に運んでみた。


 すると、濃厚なぶどうの風味と強い炭酸が感じられ、思わずぷはーっと口に出してしまいたくなる飲み応えがあった。



「ワインはどうですか?」


「美味しいよ。 さすが王家が礼として送ってくるだけある」



 ワインの方もどうやらとても美味しかったようで、クリスタを始め酒を飲める面々は顔を綻ばせていた。



「でしたら、おつまみも一緒にどうぞ」



 そして、今回はジャガイモとチーズ、ベーコンを使って作ったガレットと、カットしたエリンギと椎茸を、刻んだにんにく、玉ねぎ、醤油で軽く炒めたものを用意させてもらった。


 赤ワインには割と味の主張が強めのおつまみが合うとカスミは思っているので、今回その2品を用意したわけだが、皆そのおつまみ自体の美味しさとワインとの相性の良さに、再び表情を綻ばせた。



「ぶどうジュースにも合うね!」


「ふふ、そうですね」


「ねぇ、カスミちゃん?」


「はい? ……わっ」



 すると、おもむろにレネが席を立ってカスミのところまでやってくると、後ろからぎゅーっとカスミのことを抱きしめてきた。



「ありがとね、私のために」


「よ、喜んでもらえたならよかったですっ」


「もうねー、嬉しすぎるよ。 カスミちゃんは本当に最高だね」



 長年コンプレックスに思っていた酒が飲めないという悩みを、これまでにないアプローチで解決してくれたカスミに、レネはもう感無量といった感じだった。



「大好きだよ、カスミちゃん♪」


「れ、レネさん酔ってます?」


「ううん、本心だよー」


「そ、そうですかっ」



 その後もレネはことあるごとにカスミにハグをしたり、頬にキスをしてきたりとスキンシップも交えて感謝を伝えてきて、酒を飲んでいないのにやたらとドキドキさせられるカスミだった。


 ちなみに他の面々は割と酒に強いタイプのようで、大きなワインの瓶が2本ほど開けられ、レネ以外の面々にとっても非常に楽しい晩酌となったのであった。

 

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