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#115 ひとときの別れ

 料理の手伝いをしたいと言い出したミーユイアにライスを研いでもらった次は、今日の夕食のメインである串焼きを作ってもらうことにした。


 ただ、串打ちは経験のない者がやると、串の先端が指に刺さってしまう危険性が高いので、カスミは串に刺す小さく切った肉をまな板に並べていった。



「ユイ様、このお肉をこんな感じで串に刺していってください」


「分かったわ!」



 ミーユイアに怪我をさせたいようにする工夫として、串を上向きにして具材を手で運んで刺すのではなく、まな板に置いた具材に上から串を刺してもらった。


 こうすれば串の先端がミーユイアの方に向くことはないので、怪我をするリスクは極端に減らせる。


 あとはその何個か具材を刺してもらった串をカスミが受け取り、いい感じに等間隔になるように動かせばOKだ。


 このやり方だと具材同士の隙間が空いてしまうので少し不恰好だが、焼く手間や味は変わらないし、自分達で食べるものなので、多少不恰好なくらいが味があっていいのかもしれない。


 もちろんミーユイアだけで全員分作るのは大変なので、その横でカスミもせっせと具材を切って串に通していく。



「串焼きって比較的簡単な料理よね?」


「まぁ、そうですね」


「それでもこんなに色々と準備が必要なのね。 普段の食事で出る凝った料理はもっと大変なのかしら」


「豪勢なものを作ろうとすると、どうしても時間はかかっちゃいますね」


「ならもっと料理人達には感謝をしないとね」



 昼間にカスミが料理をしている姿を見た時も、ミーユイアは料理って大変なんだなと思ってはいた。


 が、実際に自分でやってみると、肉の脂や野菜の水分などで手がぬるぬるするし、簡単な串打ちでも人数分作るのにはかなりの時間がかかるということを知り、改めてミーユイアはカスミや普段食事を作ってくれている料理人達の凄さを再認識した。



「よし、ひとまず第一陣はこれくらいですね」



 それからある程度の量の串焼きが完成したので、カスミは最近レネに作ってもらった、焼物機の火を入れた。


 これは簡単に言えば、下から発せられる火や熱で食材を焼くことのできる道具で、U字溝のような形になっている台座に串を引っ掛ければ串焼きができるし、網を置けば網焼き、台座部分に炭を炊いて炭火焼きなんかもできるという優れものだ。


 もちろんその上には大きな換気扇が付いているので排気も問題ないし、燃え尽きた炭や食材の燃えカスなどのゴミは傾けて台座の横にある穴に入れれば、浄化の魔法が発動して魔素に分解され、台座は汚れが付きにくい素材で作ってあるので、拭くだけで綺麗になるという、欠点のない一品に仕上がっていた。


 カスミがふと、こんなのあると便利ですねと呟いただけでこんなものを作ってしまうあたり、レネの物作りの腕の凄さとカスミへの溺愛っぷりがよく分かるだろう。


 それはさておき、早速火を入れた焼物機に作った串焼きを等間隔でセットしていく。


 すると、次第に焼けていく串焼きがパチパチ音を立て始めた。



「私が作った串焼きが焼けてってるわっ」


「ふふ、そうですね。 ひっくり返して様子を見ながら、追加の串焼きも作っていきましょうか」



 流石に焼く作業は脂が跳ねたりするのでカスミが担当して、串焼きをひっくり返したりしながら様子を見つつ、ミーユイアと一緒に沢山の串焼きを仕込んでいった。


 途中からは見ていたメイドと護衛騎士も参加したことで、割とすぐに用意していた食材全て串焼きに変えることはできた。



「よし、一周目も良い感じに焼けましたね」


「美味しそうねっ!」


「そうしたらユイ様、出来立てを食べてみますか?」


「えっ、ここで?」


「味見は料理した人の特権ですし、串焼きは屋台で買って立ったまま食べたりもするんです。 決してはしたないとかは無いですから」


「わ、分かったわっ」



 ミーユイアからすれば、立ったまま何かを食べるというのは経験がなく、ちょっとした冒険をしているような気持ちでカスミに渡された自分で作った串焼きをはむっと口にしていった。



「んっ! 美味しいっ! 程よい塩気で…… 塩だけだしお肉も決して高級なものでもないのに、なんでこんなに美味しいのかしら……?」


「不思議と自分で作った料理って、すごく美味しく感じるんですよね。 特に料理を始めたての頃は」


「うん、なんか、美味しいだけじゃない、達成感みたいなものがあるわ」



 ミーユイアはそう言いながら、自分で作った串焼きを味わって食べていった。



「ふぅ、美味しかった! カスミ、私に料理を教えてくれてありがとう」


「いえいえ。 私もユイ様と料理ができてよかったです」



 ニコニコ笑顔で礼を伝えてくるミーユイアに、カスミも笑顔でそう返した。


 その後、カスミは他の串焼きもどんどん焼いていき、塩だけじゃなく特製のタレなんかも使って、大量の串焼きを仕上げていった。


 それが大体焼き終わる頃には、ビフレストの面々もやってきたので、リビングのテーブルとカウンター席にそれぞれ沢山の串焼きが載った大皿を運び、各自自由な席に座って夕食がスタートした。



「こんなに沢山あると、どれから食べようか悩むわね」



 そんなミーユイアの言葉通り、大皿にはバイソン肉の串焼きに、コッコのモモ肉、皮、砂肝などの色んな部位を使った焼き鳥、オークのバラ肉でチーズを巻いて、それを串に刺したものなど、様々な串焼きが並んでいた。



「カスミ、これはなに?」


「それはつぶ貝という貝の身ですね」


「貝なのね。 あんまり食べたことないけど…… んっ! 柔らかくて甘みもあって美味しい!」



 そんな串焼きの中には肉だけじゃなく、つぶ貝や小さめのホタテなどの海鮮で作った串焼きや、かぼちゃやズッキーニ、パプリカで作った野菜の串焼き、あとは椎茸やエリンギで作ったキノコの串焼きなんかもあった。


 そんな沢山の種類の串焼きは、子供の体であるカスミやミーユイアは全種類食べたらもうしっかり満腹になり、他の大量に作った分もしっかり全員の胃袋の中へと消えていった。


 そんな夕食を終え、少し腹休めで歓談を楽しんだ後……



「……より帰りたくなくなったわ」



 流石にそろそろ帰ろうと傍付きのメイドに言われたミーユイアと共に、カスミは転移陣を通って王都の拠点に飛んで、その玄関で見送りをしていたのだが、ミーユイアはまたしてもムスッとした表情を浮かべていた。



「あはは…… またすぐ会えますから」


「私と会うの面倒じゃない……?」


「そんな訳ないですよ。 私も凄く楽しかったです」


「そっか……! 今思うと、すごくわがままばっかり言っちゃった気がしてて……」


「ユイ様は普段、王族として己を律して過ごしていますから、友人の私といる時くらいは存分に羽を伸ばしてください。 ちなみに今日ユイ様と話した中で、わがままだなって思ったことは一つもありませんよ」


「……カスミっ!」


「わっぷ!」



 カスミの言葉に感銘を受けたミーユイアは、もはやお馴染みになってきた熱烈なハグをカスミにかましてきた。



「カスミは本当に優しいわっ。 大好きよっ」


「あ、ありがとうございます」


「カスミは、私のこと好き……?」


(ぐはぁっ……!?)



 そうして抱きつかれるだけでもカスミからすれば愛おしいのだが、上目遣いで自分のことを好きかと聞いてくるミーユイアの可愛らしさに、カスミは一撃でノックアウトされた。



「も、もちろん好きですよっ」


「えへへ…… 嬉しいっ♪」


(ふおおっ…… 可愛いぃ……!)



 飾らない天然のお姫様からの好意は非常に眩しく可愛らしく、そのままミーユイアをお持ち帰りしたい衝動に駆られそうになったカスミだったが、玄関の前に王城からの馬車が止まる音が聞こえてきた。



「カスミ、次会えるのを楽しみにしてるわ♪」


「私もです。 都合が付いたらいつでも連絡ください」


「分かったわ。 ……んっ」


「ふあ……!?」



 すると、ミーユイアカスミと体を離す直前に、カスミの頬に口付けを落としてきた。



「あら、カスミはこういうことしないの?」


「い、いや、することもあるんですけど、慣れなくて……」


「ふふ、顔赤くて可愛い。 まぁ、私も家族以外とは初めてしたんだけどね……♪」


「えっ」


「ふふ、じゃあね、カスミっ♪」



 最後にそんなことを言いながら、ミーユイアはこれ以上名残惜しくならないよう、迎えの場所に早足で乗り込んでいった。


 そして、ミーユイアが馬車の窓からカスミに手を振ってきたので、カスミも顔を少し赤らめながら手を振り返すと、馬車はゆっくりと動き出し、やがて通りの角を曲がって、その姿は見えなくなった。



(こ、小悪魔だ……!)


「では、私達もこれで。 本日はありがとうございました」


「すごく有意義だったっす!」



 12歳にしてなんだか色気を感じさせたミーユイアの別れ際の言動にカスミが戦々恐々としていると、馬車には乗らずにこのまま家に帰るというミシュテとカノムがそう礼を述べてきた。



「あっ、はいっ。 お気をつけてっ」


「サミアンの街へ行く準備ができましたら、また連絡させていただきます」


「はい、待ってますっ」



 そんなやり取りをしてミシュテとカノムとも別れ、カスミはその背が見えなくなるまで見送った。



「よし、私達も帰ろうか」


「はいっ」



 そして、付き添ってくれたクリスタと共に、カスミもパーティーハウスへと転移陣を使って戻るのであった。

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