#110 ミーユイアとの昼食
「わぁ、ここがカスミのお家なのね!」
王都の拠点から転移陣を使ってサミアンの街のパーティーハウスに一同無事に到着し、そのリビングに降り立ったミーユイアは、大好きなカスミが普段暮らしている場所を興味津々といった感じでキョロキョロ見渡していく。
ちなみにお忍びということもあってか、今日のミーユイアは平民がよく着るようなロングスカート姿で、城にいる時のドレス姿より大分動きやすそうだった。
それでも溢れ出る高貴なオーラはあまり隠せていないので、知ってる人が見ればすぐにバレてしまいそうではあるが。
「綺麗…… だけど、もっと大きいお家に住んでるのかと思ってたわ」
「十分この家も豪邸ですよ」
城に住んでるミーユイアなので、この家が市井の間ではどのくらいのグレードなのかがあまりピンときていないようだった。
それに、Sランク冒険者パーティーともなると、下手をしなくとも王族よりも凄いと言っていい存在なので、それに見合った豪邸に住んでいるのかと思っていたらしい。
「でも、とっても綺麗で良いお家だと思うわ。 なんだか生活感があって新鮮」
「また後で気になるところがあれば案内しますね」
「ええ、ありがとう」
「それじゃあ、時間も丁度いいので、まずはお昼ご飯にしましょうか」
とりあえず家の案内などは後回しにし、まずはカスミができる最大のおもてなしである料理を振る舞うことにした。
「カスミ、ここで見ててもいい?」
「もちろん良いですよ」
キッチンに入っていったカスミを追いかけるように、ミーユイアはキッチンが覗けるカウンター席に腰掛け、カスミの様子を楽しそうに眺め始めた。
「思えばちゃんとカスミが…… いや、誰かが料理をするのを見るのは初めてかも」
「そうなんですね」
「私も料理できた方がいいかな?」
「う、うーん、ユイ様はしなくていいと思いますよ」
料理を始めたての頃は、誰しもが何かしら失敗して、火傷したり包丁で指を切ったりといった怪我をするものなので、興味を持ってくれるのは嬉しいが、王族であるミーユイアにはあんまりさせたくないなとカスミは思った。
ふとミーユイアの後ろにいる護衛の騎士や傍付きのメイドの方に目を向けても、難色を示すカスミに賛同するように首を大きく縦に振っているので、ちょっと心苦しいがさせない方がいいだろう。
「そっか。 じゃあ、食べる専門ね」
「ふふ、そうですね。 美味しく食べてくれるだけで、料理人からすればとてもありがたいですよ」
そんな風にミーユイアと会話をしつつ、カスミは前日から仕込んでおいたものを収納ポーチから取り出していった。
「その鍋は何が入ってるの?」
「こちらにはじゃがいもやお肉などが入ってます」
今回のミーユイアの訪問が決まった際に、ミーユイアにどんなものが食べたいか事前に聞いていたのだが、王城では出てこないカスミが普段食べているような家庭料理が食べたいとのことだったので、まずはカスミにとっては馴染み深い肉じゃがを作っておいた。
こちらは既にしっかり煮込んである熱々の状態で収納ポーチに入れたので、蓋をして少し冷ますことでさらに味を染み込ませておく。
そんな肉じゃがだが、今回それはメインではなく副菜で、メインとなる食材をカスミは油を引いたフライパンで焼き始めた。
「わっ、バチバチ鳴ってる」
「油を使うと大なり小なり跳ねてバチバチいうんです」
「熱くないの……?」
「まぁ、結構手に跳ねた油が飛んでくることがあるので、熱いは熱いですけど、もう慣れちゃいましたね」
「料理って大変なのね…… もっとこう、簡単に作ってるのかと思ってた」
「今回の料理はどれも比較的簡単な方ですね。 ユイ様が普段食べているようなものはもっと時間をかけて作ってると思います」
「そうなんだ…… もっと料理人達には感謝しないといけないわね」
「そう思ってもらえるだけで料理人からすれば嬉しいですよ」
カスミのそんな言葉に、ミーユイアから少し離れたカウンター席でカスミの調理風景を見ていたミシュテとカノムがうんうんと強く頷いていた。
「そっか。 ところで、何を焼いているの?」
「こちらはブリというお魚ですね。 ハンソンの街で買ってきたとても新鮮なものです」
家庭料理のリクエストを受けた時に、カスミは真っ先にメインは魚料理にしようと決めていた。
まだ内陸の方では魚を食べる文化が無く、以前カスミが王都に行った際にいくつか魚料理のレシピを教えはしたが、入手の難しさもあってたまにしか出せていないそうだ。
なので、ミーユイアには真に美味しい魚料理を食べてもらおうと思い、今回はブリを用意した。
ちなみにこのブリも、前日に塩を振って余分な水分と臭みを取る下処理は済んでいるので、あとは焼いて味付けをするだけだ。
そして、ブリを焼いている間に、味噌汁やサラダとして小松菜と鰹節を白だしで和えたものも作っていく。
「そんな一度にいろんな料理を作るのね。 凄いわ」
「ふふ、ありがとうございます」
キラキラと目輝かせながら親友であるカスミの料理姿を見つめてくるミーユイアに、カスミは微笑みかけつつ、フライパンの余分な油を拭き取り、酒、醤油、みりん、砂糖で作ったタレを回しかけて煮詰め、タレにとろみが付いてきたら火を止めて皿に盛り付けていく。
「よし、できましたよ」
「お運びします」
それから他の料理も皿に盛り付け終わったタイミングで、ミシュテとカノムが率先して料理をリビングのテーブルまで運んでくれた。
今回作ったのは、ミーユイアが連れてきた者達とカスミの分で、ヒフレストの面々はミーユイアが来る前に昼食は済ませてもらっている。
流石に10人以上の料理を作るのは下準備をしていても時間がかかるし、スペースもちょっと怪しいので。
それらのことをミーユイアの護衛騎士、メイドの者達に伝えると、まさか自分達の分まで用意してくれるとは思っていなかったようで、最初は恐縮していた。
だが、ミーユイアから、私の親友が作った食事が食べられないのか、という思惑が伝わってくる圧のある笑顔を向けられ、首を横にブンブン振った後、いそいそと席についていった。
「カスミ、いただいてもいいかしら?」
「もちろんです」
そうして全員が席についたら、まずはミーユイアがメインであるブリの照り焼きを上品に口に運んでいった。
「んっ! とっても美味しい! 身がふっくらしてて、旨みが凄いわ」
すると、ブリ本来の旨みと甘めの照り焼きのタレの味わいが口の中で混ざり合い、そこへライスをかき込むと、もう言葉では言い表せないくらいの満足感が口の中だけじゃなく、全身に広がっていった。
そんなミーユイアに続いてカスミの料理を口に運んだ者達…… 特に護衛騎士とメイドはその圧倒的な美味しさに目をまん丸にしながら驚いていた。
王族に近しい場所で働く者達なので、カスミの存在は認知していた。
それに、最近はカスミの調味料を使った料理が食べられるようになってきてはいる。
だが、実際にカスミの料理を食べてみると、それらとはまたレベルが違う美味しさだなと思わされた。
「サラダもスープも、この肉じゃが? も、とっても美味しいわ! 普段の食事でも出して欲しいくらい」
「そう言ってもらえると嬉しいですね」
「城の料理人達にも伝えておこうかしら。 時には華美な飾り付けをした料理より、こういう家庭的な味の主張が強い料理が食べたいって」
「良いと思いますよ。 城の料理人の皆さんも今は試行錯誤している最中だと思いますし」
そんなカスミの言葉に、当の王城に勤める料理人であるミシュテとカノムは大きく首を縦に振っていた。
「まぁ、それは追々で、今はカスミの作ってくれたご飯を楽しむわ!」
「ふふ、そうですね。 お代わりもありますよ」
それからカスミ達の昼食は和やかに進んでいき、ミーユイアは少しお代わりを所望して、お腹いっぱいになるまでカスミのご飯を食べてくれた。
それ以外の余分に作った分は、体が資本の護衛騎士と男らしく大きな胃袋を持っているカノムがしっかりと平らげてくれ、全員満足感に浸りながら昼食を終えるのであった。
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