#108 シクウへ報告、からの新商品
「ご無沙汰してます、カスミさん」
ハンソンの街から帰ってきて数日が経過した本日。
カスミはサミアンの街に新しくできたデラフト商会の支店にクリスタとやって来ており、会長であるシクウと対面していた。
以前までこの街にはデラフト商会の支店はなかったのだが、カスミがサミアンの街に行っていた数週間の間に、どうやら猛スピードで開店準備を進めて開店まで漕ぎつけたようだ。
そのため、数日前にカスミが市場に出向いた時にデラフト商会の支店を見つけた時は大層驚いたものだ。
「シクウさんも、色々とお疲れ様です」
「はは、カスミさんのおかげでとても有意義な毎日を送っていますよ」
今いるデラフト商会の支店の開店業務だったり、最近売り出したカスミが発案した調味料やレシピの販売業務と、大忙しであろうシクウだが、その表情はとても明るく、充実した毎日を過ごせているようだった。
「それでもお疲れでしょうから、良ければこちらをどうぞ」
ただ、いかに本人がモチベーション高くやっていることでも、体に疲労は溜まるものなので、カスミは色んなことを任せているシクウへの感謝も込めて、あるものを作ってきた。
「おや、おにぎりですか」
それはカスミが作ってきたおにぎりで、収納ポーチにしまっておいたおかげでまだ薄く湯気が立ち昇っていた。
「まだ今日はほぼ何も食べていなくて空腹だったので助かります。 この場で頂いても?」
「もちろんです」
丁度時刻はお昼時で、空腹だったというシクウは、カスミに礼を言いながら海苔が巻かれたおにぎりを口に運んでいった。
「ほう、これは…… 何か混ぜ込まれていますね。 程よい塩気がとてもライスに合っています。 何を使っているのですか?」
「今回はたらこという魚卵を加工したものを混ぜ込んでみました」
今回用意したおにぎりは、カスミが手作りしたもので、我ながら美味しくできたと思うくらい出来が良いものとなっていた。
そんなたらこを使ったおにぎりが美味しく無いわけもなく、シクウはあっという間に一つを平らげた。
「いやぁ、美味しかったです。 残りもまた後でいただきますね。 それにしても、魚卵ですか。 初めて食べましたがこんなに美味しいんですね」
「結構食べられる魚卵は多いんですよ。 先日までハンソンの街に行ってたんですけど、そこで色々現地の方ともお話しました」
「ああ、しばらく留守にするとは聞いていましたが、ハンソンに行っていたんですね」
一応シクウにはサミアンの街を留守にすることは言っていたのだが、行き先までは伝えていなかった。
「そういえば、ハンソンの街のデラフト商会では、カスミさんの調味料やレシピが他の街より求める人が多かったと報告を受けましたね。 もしかして、カスミさん現地で何かしましたか?」
「あ、あはは…… どうでしょうかね」
何かしたかと言われると、炊き出しをしたり市場で色々作って食べさせてみたりと心当たりがありすぎるカスミだったが、説明すると長くなりそうなので、笑って誤魔化しておいた。
シクウもその反応を見て、何かやったんだなとは気付いていたが、結果的に販促に繋がったのならありがたさしか無いので、深く聞いてくることはしなかった。
「まぁ、それは良いとして。 引き続きカスミさんの商品は我が商会の支店を通じて販路を広げていきます。 少なくとも今月の内にこの国の隣国にあたる教国と帝国の主要都市での販売を始めたいですね」
「もうそんなに規模を広げられるのか?」
カスミの隣で話を聞いていたクリスタがそう尋ねる。
「おかげさまで資金も潤沢ですので、以前話した専用工場の拡張に人員の確保も進んでいます。 来月くらいまでにはこの国のデラフト商会でカスミさんの商品が売り切れるということは無くなる見通しです」
「凄まじい費用がかかりそうだな」
「まぁ、工場の拡張にはドワーフの職人達をかなりの数雇いましたし、工場で働く者達にもかなり良い待遇を与えてますから、費用はかかってますね。 しかし、それでも十分利が生まれるほど、カスミさんの商品は売れています」
「そうか。 良かったな、カスミ」
「良かったです。 ……けど、私の口座にもう凄まじい額が振り込まれてて…… シクウさんにあげたいんですけど」
「気持ちはありがたいですが、無償での資金提供は私の商人としての矜持に反しますので、受け取れませんね」
「ですよね……」
デラフト商会が資金を気にせず動ける程の金額ということは、当然カスミの懐に入ってくる金も凄まじい額で、先程商業ギルドの口座を確認したのだが、見たことない桁の数になっていた。
「まぁ、ある分には困らないし、カスミの理想を実現するためには金が必要な時もある。 それでも支えなさそうならどこかに寄付とかしても良いしな」
「そう、ですね。 ちょっと使い道も考えてみます」
「何かしたいことがあったらいつでも相談してください。 立場柄色んなところに私は顔が利きますので」
「シクウさんもありがとうございます」
「ところでカスミ、今日こそアレについて話すんだろう?」
「あ、そうでしたね」
話の流れでクリスタにそう言われたカスミは、収納ポーチからいくつかの物を取り出した。
「そういえば以前も思わせぶりなことを言っていましたね。 これらは何なのでしょうか?」
新しい商談ネタの気配を感じたのか、シクウがワクワクとした様子でそう尋ねてきた。
「こちらは娯楽用品ですね」
シクウに対してそう答えたカスミの前には、トランプとオセロ盤、そしてここ数日の間で新たにレネに作ってもらったチェス盤と将棋盤が並んでいた。
「ほう、娯楽用品ですか。 見ただけではどうやって使うのかあまり分かりませんね」
「そうしたら、軽くルール説明をしますね」
それからカスミは、ババ抜きや神経衰弱といった簡単なトランプの遊び方や、オセロ、将棋、チェスのルールについてシクウに軽く説明をしていった。
トランプやオセロはともかく、チェスや将棋は1ゲームに時間がかかるので駒の動かし方を教えた程度だが、それだけでも聡明なシクウはこれらの娯楽用品が画期的で素晴らしい商品であるとすぐに気付いた。
「なるほど…… 素晴らしいですね! トランプやオセロは大人から子供まで楽しめますし、チェスや将棋も好きな人はかなり好きになるでしょう」
「これらの販売もお任せしていいですか?」
「ええ、こちらからお願いしたいくらいです。 ……ただ、これらは調味料などとは違って一気に出すのは少し勿体無いし、危険かもしれませんね」
「危険、ですか?」
娯楽用品が危険とはどういうことだろうとカスミは首を傾げた。
「まず勿体無いというのは、こういった娯楽は流行りが大事で、一気に色んなものを出してしまうと関心が分散してしまって、思ったより売れないということになってしまいかねません。 なので、少し期間を空けて一つずつ出していくのが良さそうです」
「なるほど」
「そして、危険というのは、これらはどれも面白過ぎて、人々の生産性が落ちてしまいかねません。 娯楽というのは人を堕落させますから、そういった意味でもやはり分けて販売した方が良いでしょう」
「まぁ、そうかもしれないな」
そう答えたクリスタを含めたビフレストの面々も、これらの娯楽にはどハマりしていて、暇があれば誰かと遊んでいる。
まともな娯楽を知らないこの世界の人にとっては、地球の娯楽は面白過ぎるようだ。
「とはいえ、娯楽が人の暮らしを豊かにすることは確かです。 上手く売ればこれもまた凄まじい利益を生むでしょう」
「売り方に関してはこちらもお任せして良いですか?」
「ええ、期待に添えるよう尽力させてもらいます」
「ありがとうございます。 私が言うのもなんですけど、決して無理はなさらないでくださいね……?」
「はは、もちろんです。 私の商会には他にも優秀な者が沢山いますから、彼らと協力してしっかり休息も取りつつ商売していきますよ」
それから娯楽用品に関しては、また後日値段やデザインについて改めて相談しようということになり、今日のところは一旦お開きとなった。
シクウ本人は新たな商売ネタが降ってきて嬉しく思っているようだが、やっぱり負担をかけまくってはいると思うので、また今度会う時も何か食べられるものを用意しようと、内心考えるカスミなのであった。
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