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#106 最終日には豪華な夕食を

「あっという間だったな」


「そうですね」



 本日、カスミはクリスタと共にハンソンの街の市場周りをぶらついていた。


 そんな今日はハンソンの街の滞在最終日で、最後に何かこの街ならではのものを買えないかと思って2人は市場に来ていた。



「そういえば、この前私達が倒したキメラクラーケンだが、ある程度食用として貰えることになったよ」


「食べられるんですか?」


「ああ。 それも、かなり美味いらしい」


「そうなんですね。 どんな魔物だったんでしたっけ?」


「シルエットはイカだが、触手はタコっぽくて、体の左右からカニのような鋏付きの腕が生えてたりしてたな。 フィオ曰く、数百年に渡って海の様々な生物を捕食した結果、色んな生物が混ざり合ったような姿に進化したそうだ」


「途方もない話ですね」


「強大な魔物は数百年生きている個体もザラにいるな。 ドラゴンのような元々強い種族もいれば、今回のキメラクラーケンのように独自の進化を遂げた個体もいる」



 魔物はやはり普通の動物とは全然違うんだなと、クリスタの話を聞いたカスミは改めて思わされた。



「この街のギルドに解体した分を保管してあるそうだから、後で受け取りに行こう」


「分かりました」



 そんな予定も立てつつ、カスミは市場で何か面白そうなものがないか探していく。



「あっ、これ……」



 そんな市場の片隅にあった店で売られていたあるものにカスミは目を惹かれた。


 とても見栄えのいいそれの値段を聞くと、意外と安かったので、ありがたくカスミはそれを買わせてもらった。



「この街らしさはあるものだが、何に使うんだ?」


「ふふ、今日の夜ご飯に使うので、楽しみにしててください」



 そう思わせぶりな態度をクリスタに取りつつ、その後もカスミはこの街ならではの商品をいくつか購入し、先程話していた解体されたキメラクラーケンを受け取りに冒険者ギルドに寄ったりもしてから宿へと帰るのであった。




 *




 それから時は経ち、カスミは夕食の準備をキッチンで行っていた。


 そんなキッチンの作業台には大量の食材が並べられており、カスミは現在それらを切って盛り付けているところだった。



「こんばんはー」



 すると、カスミ達のいるログハウスにマリンがやってきた。


 というのも、先日海で一緒に遊んだ時に、この街に来るきっかけをくれたのはマリンだったということもあり、折角なら最終日にご飯を一緒に食べないかとカスミが提案したのだ。


 当然マリンとしてはありがたい話だったので、その提案を承諾し、こうしてカスミ達の泊まる宿にやってきたというわけだ。



「あ、キッチンは覗いたらだめらしいよー」


「そうなんですか?」


「カスミちゃんが今晩ご飯作ってくれてて、お楽しみなんだってー」



 マリンにレネがそう説明をしてくれ、それを受けたマリンは素直にそれを聞き入れ、キッチンを見ないようにしながらリビングに入っていった。


 そうこうしている間にも、カスミの作業は進んでいき、メインの料理とライス、しじみの味噌汁、サラダとして鯛の刺身を載せた野菜たっぷりのカルパッチョなんかを完成させていった。



「お待たせしました!」


「「「おぉ〜〜っ」」」



 そうして全ての料理が出来上がり、カスミがメインの料理を食事テーブルに運ぶと、その場にいた面々から感嘆の声が上がった。



「なるほどな、昼間に買ったものはこうして使おうと思ってたのか」


「そうなんですっ。 こちら、この街で獲れる色んな海産物で作った、海鮮舟盛りになります!」



 そう、昼間にクリスタと市場を巡っていた時に買ったのは、木製の小さな舟で、今回はその上に沢山の刺身を並べる舟盛りをカスミは作らせてもらった。


 小さい舟と言っても、それは実物に比べたらの話で、カスミが両手で抱えられるくらいの大きさはちゃんとあり、そんな舟の甲板部分には、様々な海産物の刺身が所狭しと並べられていた。


 マグロやサーモン、ブリやアジといった定番所の魚の刺身から、イカやタコ、ホタテやサザエといった魚以外の刺身も沢山入っており、一種の芸術作品のようになっていた。


 ちなみに、その舟盛りに載せられている刺身だけでも5人前くらいはあるが、ビフレストの面々に胃袋の大きさを考えると全然足りないので、ちゃんと追加分の刺身は別皿に用意してある。



「舟をお皿にしちゃうなんて、カスミちゃんは凄いですね!」



 そんな舟盛りを見たこの街出身であるマリンも手放しでカスミのことを褒めてくれ、時間をかけて作った甲斐があったなと嬉しい気分になるカスミであった。



「どうぞお好きなものから食べてください。 あ、一応メインは船首の方に並べたキメラクラーケンのお刺身ですかね」



 カスミがそう言って示した船首部分には、キメラクラーケンの足、腕、胴体と部位毎に分かれた刺身が並べられていて、しっかり冷凍処理をしてくれていたようで、その身は新鮮そのもので光り輝いていた。


 そんなキメラクラーケンの刺身を、カスミの勧めもあってまずは皆で食べてみることにした。



「はむ…… んんっ……! これ、美味しい……!」



 そうしてまずはキメラクラーケンの足の刺身をカスミは口に運んでみたのだが、噛んだ瞬間に凄まじい甘みと旨みが口の中に広がっていった。


 食感はタコに似ているが、イカのようなねっとりとした甘みと、数百年生きてきた個体だからかは分からないが、なんだか深みのある凄まじい旨みが口の中に広がり、一切れでライスが何口も食べられそうなくらい味の主張が強かった。



「ん、これは胴体か…… コリコリしてて塩味が効いていて美味い!」



 そう感想を述べたのは、カスミの隣でキメラクラーケンの胴体の刺身を口に運んだクリスタだった。


 キメラクラーケンの胴体は足とは全然特徴が違く、コリコリとした歯応えのある食感に、塩などは一切振っていないのにも関わらず、噛めば噛むほど塩味と旨みが口の中に広がり、足に負けないどころか、人によってはこちらの方が好きだという人もいるだろうというくらい、特徴と美味しさのある刺身になっていた。



「腕の身美味いにゃ! 口の中で解けてくにゃ!」



 そして、ローニャが口に運んだキメラクラーケンの腕の刺身は、カニのような腕をしていたという話通り、カニのような身質をしていた。


 ただ、カニよりも一本一本の繊維が細かく、噛むと口の中でその繊維が一気に解け、その繊維と繊維の隙間から強い旨みがどんどん滲み出てきて、これもまた足や胴体に負けない美味しさをしていた。



「他の刺身も美味いな」


「サラダと味噌汁もうまうま〜……」



 もちろん、キメラクラーケン以外の刺身も一つ一つが主役を張れるくらいどれも絶品で、タイの刺身を使ったカルパッチョとしじみの味噌汁も、付け合わせとしては最高峰の美味しさをしていた。



「どれも美味し過ぎて、なんだか変に申し訳なくなってきますね」


「私達も常日頃から思ってるよ」



 そんな夕食の最中、タダでこんな美味しいもの食べて良いんだろうかとマリンが少し苦笑気味で呟いた発言に、クリスタはそう返した。



「だが、カスミの頑張りで徐々に新しい食文化が広まりつつある。 こういう料理を誰もが食べられるようになるのも、そう遠くはないかもしれないな」


「確かに、もう既にこの街はカスミちゃんの影響がかなり広がってますからね」



 マリンからしても、生まれ故郷であるハンソンの街の食文化が良くなることはとても喜ばしいし、なんならカスミのレシピには海産物を使うものもかなりあるので、これを機にハンソンの街の美味しい海産物が色んなところに広まればいいなと思うのであった。



「にしても、休暇のつもりで来たのに結局カスミは動きっぱなしだったな」


「そんなことないですよ? 私からしたら休み過ぎかなって思うくらいでしたし」



 カスミからすれば今回の滞在は、家の掃除や洗濯などはしないで良いし、最近売り出した調味料やレシピ周りの仕事も無く、好きな料理や買い物を楽しんだだけの期間で、非常にリラックスできた。


 異世界に来たことで、どこかずっと緊張していた心も十分休まり、誇張抜きで身も心も絶好調と言っていいくらいこの街の滞在で整えさせてもらった。



「だから、またこうしてこの街だったり、他にも色んな場所に皆さんと行って楽しい時間を過ごしたいです」


「ふふ、そうか。 そう言ってもらえるなら来た甲斐があったな」



 そんな心温まる会話なんかもしつつ、用意された舟盛りはしっかり皆の腹の中へ消え、デザートとして蒸したさつまいもの上に冷たいバニラアイスを乗せたものなんかも食べ、満足感に浸りながらハンソンの街での最後の夜を過ごすのであった。

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