#104 食べられる内臓
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「おはようございます」
「おお、来たかお嬢!」
今日も今日とてカスミは朝市にやって来たのだが、今日はいつもの商品が売られている場所ではなく、獲ってきた魚を締めたり捌いたりする処理場の方にフィオと一緒にお邪魔していた。
「とりあえず、この辺りで手に入る海産物を一通り並べておいたぜ!」
「わぁ、こんなにあるんですね」
そこには見やすいように大体の種類別に籠に入れられた色んな海産物が並んでおり、この街に来てから何度も朝市に来たカスミでも見たことないものもいくつかあった。
「どの魚も内臓系は全て捨てちゃうんですか?」
「ああ、そうだな。 丸焼きで食うやつは食ったりすることもあるが」
曰く、サンマやイワシといった、丸々焼いて美味しいものは内臓を取らないこともあるが、食べる時に避ける人も多いそうだ。
カスミ的にはサンマの内臓なんかはほろ苦くて結構好きなので、勿体無いなと思ってしまう。
「そうしたら、これとこれと……」
とりあえず、カスミは空の籠を借りて、内臓や卵が食べられる魚をそこへ入れていく。
ただ、カスミも全ての魚について知っているわけではないので、食べられる確証があるものだけを選りすぐっていった。
「おお、そんなに内臓が食える魚いるんだな?」
「結構多いですね」
その結果、籠の中にはこんもりと魚の山ができ、そこからさらにいくつかの籠にカテゴライズする。
「こんな感じですね。 まずこちらのタラ、ニシン、トビウオの卵は加工品にできます」
そうして選別を終えたカスミは、実際にこれらをどんな風に食べるのかの説明を始めた。
「ほうほう」
「タラとニシンの卵は塩漬けにして、たらこ、数の子という加工品にできます。 トビウオの卵はいくらと同じような処理を行えば食べられます」
これらの知識に関しては、カスミの祖母が普段食べる用にたらこや数の子を自宅で仕込んでいたので、カスミも何度か手伝ったことがあるので知っていた。
とびっこに関しては、カスミはイクラが大好きなのだが、中々手に入らないこともあるので、代わりにとびっこを作っていくら欲を
解消していたこともあり、作り方を知っていた。
ひとまずそれらの作り方は後で紙にでも起こすとして、次は同じ卵でも、調理方法がたらこや数の子などとは違う魚の説明をカスミはし始めた。
「こちらは煮付け…… 調味料と一緒に煮込んだりして火を通すと美味しく食べられます」
そう言ってカスミが示した籠の中には、カレイやタイ、ブリといった、火を通したら美味しく食べられる卵を持つ魚が入っていた。
「そういう食べ方もあるのか」
「昨日デラフト商会で販売された調味料を使う調理法ですね。 レシピも似たようなものが登録されてると思います」
「ああ、あれな。 うちのカミさんも一個ずつは買えたけど、人気過ぎてすぐ売り切れたって言ってたな」
どうやら昨日発売されたカスミの調味料やレシピは、あっという間に売り切れたそうで、次に入荷するのはまた数日後になるそうだ。
やはりこの街でも需要に比べて供給が中々追いつかなさそうだが、そこは会長のシクウに頑張ってもらいたいところだ。
その後も、カスミは色々な食べられる魚の内臓について説明を続けた。
カワハギの肝だったり、カツオやタイの胃袋、タラの白子といった、この世界の者からすれば信じ難い食材の数々に、話を聞いていた者達は驚くばかりだった。
「あ、このフグも白子が食べられますよ」
「なにっ!? さ、流石にそいつは危なくねぇか……?」
そんな中、カスミがフグの白子が食べられると言うと、話を聞いていた男から驚愕の声が上がった。
「確かにフグは毒がある部位も多くて危ないですけど、このトラフグなら白子が食べられます」
「そうなのか……」
「私は捌けはしないんですけどね。 捌いてもらった身とか白子は扱ったことあります」
フグを捌くには日本だと特別な免許が必要なので、カスミは既に捌かれて毒のある部位が取り除かれたフグしか食べたことはない。
「やっぱりここでもフグを捌ける人は少ないですか?」
「ああ、検定を受けないと捌いちゃダメだな。 ……よし、俺はその検定も受かって捌けるから、試してみるか!」
どうやらフグの白子が食べられるという事実に相当興味が惹かれたのか、カスミの話を聞いていた男が近くの水場でフグを捌き始めた。
すると、ありがたいことに用意していたフグから綺麗な白子が出てきた。
フグは性別の判断が非常に難しく、熟練の漁師でも捌いて腹の中身が白子か卵巣か見ないと分からないのだが、今回のフグは運良くオスだったようだ。
さらに男はその白子を、水場にあった毒がないか判別する魔道具にかけ、本当に毒がないかを確かめた。
「……確かに毒はないな。 とはいえ、内臓を食べようとは思わんが……」
「そうしたら、ボウルに水と塩を入れて軽く洗ってください」
とりあえず安全であることは確かめられたので、カスミはフグの白子の下処理を捌いてくれた男に伝えて行ってもらうことにした。
「ぬめりと血が取れたら、お湯で1分くらい茹でて、すぐに冷水に取って冷やします」
「分かった」
カスミの指示通り下処理を進めていくと、フグの白子は真っ白でとても綺麗な状態になった。
「下処理はそれでOKです。 これでもう食べられますよ」
「うーん、確かに不味くは無さそうだが……」
「そうしたら、代わりますね」
下処理をしてもらい、これでカスミにも扱える状態になったので、カスミはその白子を一口大に切り分けて紙皿に盛り付け、収納ポーチから何かと便利ですぐ使えるようにストックしてある刻みネギをパラパラ散らし、その上にポン酢を回しかけていった。
「はい、白子ポン酢の完成です」
「随分簡単だな?」
「これで十分美味しいですよ。 フィオさんも食べます?」
「ん、食べる〜……」
それからフグを捌いてくれた男とフィオに爪楊枝を渡すと、フィオは躊躇いなく、男はちょっとビビりながら白子ポン酢を口に運んでいった。
「お、おおっ……!? 美味いな、普通に!」
「ん、とろとろしてて美味しい〜……」
すると、2人とも口の中で広がるとろける食感と白子特有の旨みに、表情を綻ばせた。
「大人向けの味ではあるが…… 酒飲みが喜びそうだな」
「そういえば、トラフグのヒレを乾燥させて、清酒に浸して飲むヒレ酒というものもありますよ」
「ヒレも使えるのか? お嬢は本当によく知ってるなぁ」
カスミは前世でもそこまでお酒を飲む方ではなかったが、祖父がよくフグのヒレ酒を飲んでいたことを、話していてふと思い出した。
「そういえば、ビフレストの皆さんってあんまりお酒飲まないですよね?」
「あ〜…… アネッタとかは好きだけどね〜……」
思えばこの世界に来てからビフレストの面々が酒を飲んでいるのを見たことないなと思ったカスミがフィオに酒事情について尋ねると、なんだかフィオの返答は歯切れが悪かった。
「もしかして、私に気を遣ってます?」
「う〜ん、それもあるけど〜…… レネがね〜……」
「レネさんですか?」
「私が言っていいことじゃないだろうから、本人に聞いて〜……? 別に怒ったりはしないと思う〜……」
「わ、分かりました」
なにやらビフレストの面々が酒を飲まないのはレネに何かしらの事情があるそうなので、機会があったら聞いてみようと思うカスミだった。
それから近くにいた他の面々にも、白子ポン酢を食べさせたところ非常に好評で、今回カスミが教えた食べられる内臓の利用方法を皆で議論し始めた。
それと同時に、カスミはめちゃくちゃ感謝され、その場に用意していた魚はそのまま謝礼として貰うことができ、ホクホク顔で処理場を後にするのであった。
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