#102 出会いもあれば
海中遊泳を楽しむこと10分ほど。
海底をゆっくりと歩いて進んでいたカスミ達の目の前に、黒色の網目の細かい頑丈そうな網が見えてきた。
(あれが魔物避けの網か)
クリスタの言葉通り、この網は強い魔物の魔石が素材の一つとして使われていて、それによって強い魔物の気配が網から常時放たれ、この辺りに生息している魔物は寄せ付けないんだとか。
「キュゥキュゥ!」
(あれ、マリンフェアリーさん?)
そんな網の近くに辿り着いたところで、マリンフェアリーがこっちに来てと言わんばかりにカスミ達の前を泳いでいった。
「キュゥ!」
カスミ達がそれについて行くと、そこには網に突き刺さっている岩礁の一部と、それによって地面に縫い付けられた網が千切れてできた、小さな穴があった。
(わぁ、派手に刺さってるねー)
(先日の戦いの際の高波にさらわれてきたんでしょうか)
その様子を見たレネとマリンが念話でそんな風にリアクションをした。
(これに関しては後で報告だな。 ……よし、マリンフェアリー、行くぞ?)
「キュゥ!」
(マリンフェアリーさん、お元気で)
「キュゥキュゥ!」
念話の内容が伝わったのか、マリンフェアリーはクリスタの言葉に頷きつつ、別れの言葉を贈ったカスミに感謝するようにその周りをクルクル何周か回って、心なしか嬉しそうな表情を浮かべてくれた。
「ュォォ……!」
(……? 待て、何か聞こえた)
だが、いざマリンフェアリーとクリスタが網を越えようとしたタイミングで、聴覚が優れているクリスタが何かを聞き取った。
「キュォォ……!」
(本当だ、何か聞こえたね?)
(レネ、カスミを連れて退が……)
「キュォォォォォォ!!」
それを受けてクリスタが撤退命令を出そうとしたのだが、それよりも前に海中に何かの鳴き声が響き渡った。
それは網の向こう側から聞こえてきたようで、カスミ達がそちらに視線を向けると、その方向に何やらキラキラと光り輝くものが見え、次の瞬間には網目掛けてかなり大きな影が突撃してきた。
(マリン!)
(はいっ! カスミちゃんっ!)
(わぁっ!?)
その姿を確認したクリスタは、マリンに真っ先に呼びかけた。
それを受けたマリンは、カスミを抱き抱えて一瞬で網から数メートルほど距離を取った。
「キュォォ! キュォォォォ!」
その次の瞬間、突撃してきた影は大きく網をたわませ、クリスタとレネは万が一網を突き破ってきた時のために戦闘態勢を取った。
「キュォ……!」
だが、流石にこの網はかなり頑丈で、突進程度ではそこまで応えていなかった。
(こいつは…… マリンフェアリーの生体か)
(わぁー、実物初めて見たけど、こんな大きいんだね!)
その影の主は、クリスタとレネの言う通り、マリンフェアリーの成体だった。
体調は3メートルは余裕で超えていそうな大きさで、頭の先のアンテナのような触覚の先は電球のように強い光を放っていて、薄暗かった海中がかなり明るくなっていた。
「キュゥキュゥー!」
「キュォッ? キュォォ!」
そんな荒ぶるマリンフェアリーの成体の前に、カスミ達が助けたマリンフェアリーの子供が泳いでいった。
すると、マリンフェアリーの成体は驚いたような反応を浮かべた後、嬉しそうにその場でくるんと一回転し、網越しにマリンフェアリーの子供に鳴き声を返した。
(もしかして、あの子の親御さんでしょうか?)
(そうみたいですね?)
その様子を少し離れたところで見ていたカスミとマリンは、もう危険は無さそうなので、クリスタとレネの近くに戻った。
「キュゥキュゥ!」
「キュォ」
それからマリンフェアリーの子供が親のマリンフェアリーに何かを伝えるような素振りを見せると、親のマリンフェアリーはカスミ達にぺこりぺこりと何度か頭を下げてきた。
(私達が助けたって伝えたのかな?)
(感謝してるように見えますね)
カスミの言う通り、どうやら親のマリンフェアリーはカスミ達に感謝しているようで、やけに人間らしいなとカスミ達はその姿を見て自然と笑顔になった。
「キュォッ」
そんな中、親のマリンフェアリーが瞑目し、少し体に力を入れたかと思うと、頭から生えている触覚の先端にある光っている部分が押し出されるように外れた。
「キュォ」
「キュゥ!」
体から外れたことで発光が収まったそれは、海の中だとほぼ見えなくなってしまうくらい透明な結晶で、マリンフェアリーの子供が一回親のところへ網を潜って向かい、その結晶をヒレで抱えるようにして戻ってきた。
「キュゥ!」
(えっ、くれるんですか?)
「キュォ」
どうやらこの手のひらサイズはあろうかという綺麗で大きな結晶は、マリンフェアリーの親からの感謝の気持ちのようで、カスミはマリンフェアリーの子供が持ってきたその結晶を両手で受け取った。
こんな綺麗なもの良いんだろうかとカスミが思って親のマリンフェアリーの方を見ると、その結晶があった触覚の先端には、既に小さな結晶が生えてきており、どうやら脱皮のような行為を行ってくれたようだ。
「キュォ」
「キュゥ! キュゥキュゥー!」
(あっ、これ、ありがとうございます! お元気で!)
そうしてお礼の品までくれた親のマリンフェアリーは、最後にもう一度頭を下げて、子供と一緒に泳ぎ去っていった。
カスミはお礼を言いながら、その姿が見えなくなるまで見送るのであった。
(なんか凄い体験したね?)
(そうですね。 ……ちょっと寂しいです)
(そうしたら、戻ろうか)
別れによる若干の寂しさを感じつつ、カスミ達は元来た道を戻って砂浜に上がっていった。
すると、もう空が茜がかってきており、気温も下がってきたので、他のまだ楽しそうに騒いでいる冒険者達を横目に、カスミ達は着替えて宿へと帰ることにした。
「へ〜…… そんなことがあったんだ〜……」
それから宿の前でマリンと別れ、ログハウスに戻ってきたカスミは、フィオに先程あったことを話し聞かせていた。
「で、これがそのマリンフェアリーがくれた結晶か〜…… 綺麗だね〜……」
「本当にそうですね」
テーブルの上に置いたマリンフェアリーからもらった結晶は、部屋の照明をキラキラと反射するくらい透明度と純度が高く、それでいてちょっとやそっとじゃ壊れなさそうな重さと密度もあった。
「魔力の伝導率も良さそう〜…… 一級品の素材だねこれ〜……」
「折角ならなにか形にして残したいですね」
「ん〜…… じゃあ、これ使ってカスミちゃんの武器でも作ろうか〜……?」
「私の武器ですか?」
「そう〜…… 魔法の発動を助ける杖とか〜…… 他にも、こんなに大きいなら家の照明とかにしても良いかもね〜……」
「武器は使うか分からないですけど、照明は良いかもしれませんね」
「レネと相談してみよ〜…… それにしても、マリンフェアリーってもしかしたら魔物じゃないのかもね〜……」
「えっ?」
「あのビーチにあった魔物避けの網は魔物は退けるけど、普通の魚にはそんなに効果がない〜…… マリンフェアリーが魔物だったら、子供だったら絶対寄りつかないしましてや越えようなんて思わないはず〜……」
「なるほど……」
「それに、魔物だったらこんな高純度の物質は作れないと思う〜…… 魔物は戦闘向けに進化するものだからね〜……」
「なら、どうして魔物って呼ばれてるんですか?」
「昔はよく分かんない生物は魔物として扱うものだったからね〜…… そもそもマリンフェアリーは遭遇例すらほとんどない生物だから、昔発見された時に魔物って認定されてそのまま広まったんじゃない〜……?」
「そういうことですか」
色々と謎も多かった今回の件だが、物知りなフィオのおかげでその辺りの謎も解消することができた。
何はともあれ、とても良い出会いだったのは事実なので、今回のマリンフェアリーとの出会いは思い出としてカスミの心の中にしまっておくことにした。
そして、いつかまた会えたらいいなと、内心密かに思うカスミなのであった。
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