#99 砂浜でバーベキュー
海で遊ぶこと数時間が経過した頃。
カスミはレネとローニャと海から上がり、昼食の準備をすることにした。
「あ、いつの間にか用意してくれてますね」
海から上がって周りを見渡してみると、砂浜の各所にバーベキューコンロに似た外で色々と焼くことができる道具や、簡易的な椅子やテーブルが用意されていた。
この世界にはバーベキューという文化はないが、外で何かを焼く用の道具はあり、先日カスミが港で炊き出しをしている際にも、それらの道具が港の物置に沢山置かれているのを見つけていた。
元々、今回の祝勝会では冒険者達のために色々と食材や料理を振る舞う予定もあり、ならばとカスミは今回の祝勝会の幹事を務めている漁師の取りまとめ役だという男性に、バーベキューについて説明してみた。
結果、食材を用意すれば後は自分で好きなものを焼くことのできるバーベキューは、無駄な手間もかからなさそうだということで大賛成され、その時に伝えたバーベキューに適した食材が、港で働いている者達の手で現在進行形で運ばれてきていた。
「そうしたら、お昼ご飯の準備を始めましょうか」
「手伝うよー!」
「お腹空いたにゃー」
場所や食材の準備はもうほとんどできていそうだったので、カスミはレネとローニャと協力して、自前の折り畳みコンロを2台組み立て、炭を炊き始めた。
「おーい! 皆んな集合ー!」
そうして炭が炊けたタイミングで、レネが周りの冒険者達に大きな声で呼びかけ、それを受けた冒険者達は、カスミ達のコンロの周りに集まった。
「お、あの子、美味い炊き出し作ってくれてた子か」
「あれは美味かったよな。 今日もなんか作ってくれんのか?」
ここにいる冒険者達にはカスミの存在は知れ渡っており、皆何が始まるのかと期待するような表情を浮かべていた。
「皆さん、今日のお昼ご飯はバーベキューという自分で食べたいものを焼く形で行います。 こうしてコンロに炭を炊いて網をセットしたら、その上にこうして肉や野菜、貝なんかを並べて焼きます」
冒険者達が集まってきたのを確認したカスミは、早速目の前でバーベキューのやり方をレクチャーしていった。
「主催の方々が向こうの方に食材を用意してくれてるみたいなので、そこからお好きなものを取っていってください。 貝なんかは少し焼くのに時間がかかるものもあるので、勝手が分からない方は食材をもらう時に漁師の方などに聞いてみてください」
そう説明しながら、カスミはバイソン肉を焼き上げ、取り皿に取った。
「焼けたら塩も用意してますが、私が作った甘辛いタレとレモン汁なども食材を並べている場所に瓶詰めして置いておいたので、何人かでシェアしながら使ってください」
そう言ってカスミは、細長い瓶に入れられたお手製の焼き肉のタレをバイソン肉にかけ、ローニャに食べてもらった。
「んん! このタレ美味いにゃ! 味濃くて最高にゃー!」
すると、ローニャは見事なリアクションをしてくれ、周りにいた冒険者達は自分もあれを食べたいと早足で食材が用意されている場所へ向かっていった。
「では、私達は私達で楽しみましょうか」
「そうだにゃー!」
「他の皆んなも呼んでくるね!」
冒険者達へのバーベキューの説明も終わったので、カスミ達はカスミ達でバーベキューを楽しむことにした。
カスミ達が食べる分は、昨日のうちにカスミが下拵えをしておいたので、それらをテーブルに並べていき、海の方にいたクリスタ、フィオ、アネッタ、ガリュウが帰ってくる頃には、テーブルの上が色んな食材だらけになっていた。
「お〜、色々ある〜……」
「お好きなものから焼いていってください」
そうして全員集まったところで、各々に焼くための道具を渡し、好きなものを網に乗せていってもらう。
2台コンロを用意したおかげで、場所の取り合いになったりもせず、ジュウジュウと食材が焼けていく音が辺りに鳴り響いていく。
「カスミは何を焼くんだ?」
「私は時間のかかる貝などを焼こうかなって」
「なら、カスミの分の肉は焼いておいてやろう」
「ふふ、ありがとうございます」
クリスタがカスミの分の肉も焼いてくれるそうなので、カスミはコンロの隅の方に様々な貝を並べていった。
そうこうしている間にも、肉や野菜の第一陣が焼き上がり、それらにカスミお手製の焼き肉のタレを付けて、まずはアネッタが自分で焼いたバイソン肉を口に運んでいった。
「ん、美味いな! タレがめちゃくちゃ合ってる」
すると、口の中には炭火焼き特有の香ばしさと肉の旨み、そして甘辛い焼肉のタレの風味が広がり、砂浜で水着で自分で焼くという、普段とは全く違うシチュエーションも相まって、なんだかとても美味しく感じられた。
「玉ねぎ焼いてみたけど美味しいかな? ……ん! 甘くて美味しい!」
そんなアネッタの横では、レネが玉ねぎを焼いており、しっかり炭火で火を通した玉ねぎは、辛味やエグみなども無く、甘くて非常に美味な仕上がりになっていた。
「あ、皆さんお疲れ様です」
そんな風にカスミ達がバーベキューをしていると、半袖シャツにショートパンツ姿の冒険者ギルド職員のマリンがやってきた。
「マリンさん、お疲れ様ですっ」
「マリンも遊びに来たのか?」
「そうですね。 ここ数日ギルド職員も忙しかったので、冒険者の皆さんの祝勝会に混ぜてもらうことになりました」
クリスタの質問にそう答えたマリンの後ろには、ギルド職員と思しき人達が20名ほど新たにやってきていた。
「それにしても、なんだか美味しそうなご飯を作ってますね?」
「バーベキューというもので、こうしてコンロの上で好きなものを焼くんです」
「マリンも食べてくにゃー?」
「あら、いいんですか?」
「はい。 食材は沢山あるので」
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます」
ということで、マリンもバーベキューの輪に加わり、テーブルに並べられた食材を焼き始めた。
他のギルド職員も、顔馴染みの冒険者達とバーベキューをし始め、砂浜はより活気づいていく。
「おっ、貝がいい感じになってきました」
それから、カスミがバーベキューが始まってからお世話をしてきた貝類がいい感じになってきた。
今回用意したのは、牡蠣、あわび、ホタテ、サザエといった定番の貝類で、それらがそろそろ焼き上がりといったタイミングで、カスミはこちらも作ってきた酒、醤油、みりんに和風の顆粒出汁を加えた貝に合う少し甘めの醤油ダレを加えて、ホタテやあわびにはバターも乗せてしっかり仕上げの火入れをしていった。
「よし、貝焼けましたよ」
それらが焼き上がる頃には、醤油ダレとバター、そして貝が焼けた良い匂いが辺りに漂い始め、早速それらをビフレストの面々プラスマリンと一緒に口に運んでいった。
「ん〜、美味しいですっ」
そう笑みを浮かべながら感想を漏らしたカスミが食べたのは、バター醤油で味付けをしたホタテで、今のカスミの拳くらいはあろうかという大粒の貝柱は噛めば噛むほど甘味が出てくるし、貝ひものシャキシャキした食感とバター醤油の香ばしさも相まって、凄まじい満足感が得られる仕上がりとなっていた。
「まぁ、とっても美味しいです! やっぱりカスミちゃんは凄いですね!」
その隣であわびを口に運んでいたマリンも、そのあまりの美味しさに驚きながら、カスミを賞賛する声を上げてくれた。
「貝は魚と比べるとどうしても人気なかったんですけど、カスミちゃんの調味料と合わせるとこんなに美味しくなるんですね」
マリンの言う通り、海産業が盛んなこの街でも貝はあまり人気のない食材で、前世では数千円はしそうな立派なサイズのあわびですら、一個500ゴルドくらいで売られていた。
「カスミちゃんの調味料は、この街ではもうすぐ売り切れちゃうかもしれないですね」
「炊き出しで周知もされてるしね〜……」
「炊き出しはもう冒険者の皆さんが大絶賛してましたよ。 あれのおかげでとても元気出たって」
「そう言ってもらえたのなら良かったです」
そんな会話もしつつ、その後も砂浜では豪華なバーベキューの時間がしばらく続き、カスミ達ビフレストの面々も、お腹いっぱいになるまで肉に野菜に海鮮を焼きまくって楽しんでいくのであった。
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