破天荒な令嬢
投稿する文を間違えておりました、誠に申し訳ありません
「アルカインド侯爵家令嬢、フェルメーシュ様が我が家に……?」
父に呼ばれたと思ったら予想外の名前を告げられてフレイアは絶句した。
ひらめくように脳裏を過ったのはルフェウスと知り合ったことだが。例の手紙のやりとりを一度したきりなので責められる謂れはないと思った。
次に考え付いたのはフェルメーシュの中に『前回』の知りあいが入れ替わっている可能性だが、それは現時点で確認のしようがない。
「鉱山の多いアルカインド侯爵領にも列車を通す話が出ていてね。侯爵とはもう話をして、社交期が終わった後に侯爵が領地を視察することになったんだけど……どうもそれとは別件のようなんだ」
父はそう言いながら手紙を揺らす。
マナーハウスを訪れたいという内容は丁寧なものだったが有無を言わせない雰囲気が筆圧から感じられ。フレイアは首を傾げた。
「フェルメーシュ様とはお会いしたことがないのですが……兄やルフェウス様と同い年でしたよね」
「あぁ、十三歳になるな。エルムスの同席も求めているので……エルムスにも確認したのだが面識はないそうだ」
「何故、我が家に……婚約の申し込みなら侯爵の名前でお手紙が届くはずですよね」
「そうなんだ。侯爵とは社交期が始まってから一度会ったが、婚約の話などなかった。どうやら今回の訪問はフェルメーシュ嬢の独断のようだ」
フレイアは考えても答えのでない問題に首を傾げながらも、どうしようもないのでフェルメーシュが訪れる日を待つことにした。
果たしてフェルメーシュは侯爵家の馬車で予定通りの時間にマナーハウスに訪れた。
何故か付き従う侯爵家の執事の顔色が悪い気がしたけれど、フェルメーシュは評判通りの儚げな美少女だった。
ただ、病弱という評判を裏切って、その足取りはしっかりと……いささか勇ましくも見えた。
「本日はお時間いただき、誠にありがとうございます。初めまして、フェルメーシュです」
広間に案内されたフェルメーシュは優美な仕草でカーテシーをする。
けれど、父、母、兄、フレイアがそれぞれ挨拶をすると微笑んだままこちらを見つめたまま固まってしまうので。フレイアはフェルメーシュが心配になった。
「申し訳ありません、私、お邪魔するのが……一年、早かったかもしれません」
そんなことを急に言い始めるのでフレイアはもしかするとフェルメーシュは『旅人』なのではないかと思った。
「この世界は『恋シル』の世界であってそうじゃないんだよー」
自分と同じ推測を立てたのだろう。
母がフェルメーシュに声を掛け、フェルメーシュはまじまじと母を見つめた。
「……なるほど。だから生きているんですね、あ。じゃあもうルーンベル伯爵家は安泰?」
てっきり戸惑ったり母に詰め寄ったりするのかと思いきや、フェルメーシュはふんふんと頷きながら納得したように『生きているルミル』とフレイアを一瞥し……エルムスをじっと見つめる。
「うーん……?」
「な、なに……」
令嬢にじろじろと見られる経験などないのだろう。
兄はたじたじとした様子で肩を竦める。
「はい、私、エルムス様が好きだったんですよ。ものすごく。もう存在しないルートを開拓してやる気満々でリスタント公国の言語まで学ぶほどだったんですけどね……うん、やっぱりいろいろ変わると変わりますよね……うふふ、なんでもありません」
謎の言葉を言い始めるフェルメーシュにフレイアとエルムスは知らず身を寄せ合った。
やっぱり母を含め『旅人』とは少し変わった人たちなのだと思った。
「何が変わったのか、私の分かる範囲で良かったら教えてあげるけど……」
母も少し戸惑っているのだろう。
珍しく遠慮がちな声を掛けているがフェルメーシュは笑って首を振った。
「いえ……あ、原作者来てます? もしも来てたらぶん殴りに行きたいんですけど」
そうしているうちに物騒な言葉まで聞こえてくる。
原作者、というのは恐らく母やミネルやフェルメーシュが言う『恋シル』というゲームを作った者ということだろう。
フェルメーシュは何か原作者に恨みでもあるのだろうか。
目を爛々と輝かせてそんなことを訊くので母が微苦笑を返す。
「それは流石に把握してないけど……ちょっと運営側っぽい人はいるかも」
「マジですか、あとでこっそり教えてください」
フェルメーシュはにこにこしながら拳を突き上げ、急な訪問失礼いたしました、と父と兄とフレイアに向かって挨拶をするとくるりと背を向けた。
茶すら飲んで帰らないその無礼を咎めようとする者はおらず。
むしろエルムスとフレイアは彼女が背を向けたことで思わず小さく息をついた。
「あ、フェルメーシュちゃん。私も一個訊いていいかな?」
「勿論、どうぞ」
ふと思い出したように母が呼び止め、一秒も惜しいというように、やはり勇ましい足取りで歩き始めていてフェルメーシュが振り返った。
「ルフェウス様との結婚はどうする予定?」
母の言葉にフレイアは思わず息をつめ。
一方のフェルメーシュは何だそんなことかとでもいうように肩を竦めた。
「好みじゃないし家のメリットにもならないので白紙にする予定ですよ。そもそも私、今日気づいたんですけど不幸そうな男が好きなんです。父に話したら喧嘩になりましたけど、どうにかします」
振り向いたフェルメーシュは満面の笑みを浮かべていて。
思わず見惚れてしまいながらフレイアはフェルメーシュはとんでもなく破天荒な『旅人』だけれど、何故だかとても魅力的だ、と。しみじみと思った。
そして同時にルフェウスとフェルメーシュとの婚約解消が『前回』よりも早まった意味を考えてしまう。
自分が望めば、父はルフェウスに婚約を申し込んでくれるだろうが……やはりルフェウスに関わるのは躊躇われる。
今度こそルフェウスの隣で生きていきたいという気持ちは本物だが、自分が選ばれるかどうかは別問題だ。
顔見知り程度で四歳も年下の、伯爵令嬢である自分がルフェウスの婚約者に選ばれるのは容易なことではない、と思った。




